第3話

「え? これ着るの?」



 沖縄の青い海とギラギラと照りつける日光の下、私達に配られたのは白いビキニだった。



「「分かりました」」



 皆の声で「え?」と、固まったまま動けなかった、皆はこの生地の少ない布を着ることに抵抗は無いのだろういか、あたふたしていると隣の楓が目に入った。



「こ、これ……」



 泣きそうな顔で楓がこっちをみていた。



「玲子ぉ」


「楓ぇ」



 お互いに同じ事を思ったのだろう、涙目を合わせたまま、固まっていた。次々とメンバーが更衣室へ向かう。

 これも仕事だ、着なければならない、着る意外に選択肢はないのだ。下着のようなビキニでカメラの前で笑わなければ……地獄へ、転落だ……


 楓も何かを決意したようにビキニを抱きしめ、更衣室へ向かう。私も遅れて足を出した。




「それじゃ、海ではしゃぐ感じでお願いします」



 他のメンバーは何の躊躇いもなく笑顔だ。顔がひきつっているのは私と楓の二人だけだった。


「玲子、楓、もっと楽しそうに!」


「「は、はい」」


「次、カメラに近付いて誘惑する感じに」


「ゆ、誘惑?」



 周りはスイッチが入ったように監督の言う通りに身体をくねらせる。そんな、これも仕事だと自分に言い聞かせたが、監督の声も、メンバーの声も、聞こえなくなっていた。







 気がついたのは帰りの飛行機だった、隣では楓が眠っている、がむしゃらで自分が何をしたのかも覚えていない。


 一つ言えるのは、今月の人気投票が心配だ。


「今月も私推し、よろしくね」


 幸利や蘭、裕子にメールを送る、既読にはなるが、返信は返ってこなかった。

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