第6話 交差する邪悪 その1

「生物はすでに発見された時には死亡しており、その体長は全体で3メートル以上あり―」


そう説明するのは調査隊の全体指揮を任命されているヴァレンティン少佐で、巨大なスクリーンを俺含めた幹部たちがまじまじと見つめては隣の者とひそひそと喋っている


そんな中声を上げたのは陸軍大将のヴォロシーロフだ


「その生物に銃弾や砲弾は有効なのか?」


率直な意見だが、まだ回収されて日も経っていないはず


そんな調査はできているのだろうか


「はい、皮膚は魚類に似た構造で銃弾での対処が可能と判断していいかと」


それを機に様々な部署の人間が質問を始める


食料になるのか、肥料になるのか、はたまた兵器に転用できるかなど


ヴァレンティン少佐が丁寧に応答していくが不明な点が多い故調査に時間が必要ということがわかり一時会議は終了となった


「首相。」


会議終わりに俺に声をかけたのは陸軍大将のヴォロシーロフだった


「ヴォロシーロフさん、どうかなさいました?」


このタイミングで俺に声をかけたというのはなにか頼みでもあるのだろうか?


「一つですが、発見された生物について公的な発表はなさるのですか?」


なるほど、民衆にこれを打ち明けるかどうかの相談か?あるいは俺への警告か?


この質問は慎重に答えた方がよさそうだな…


「はい、細菌や汚染の類がなければ公に発表するつもりです。隠してしまうと後々我々政府の信用がなくなってしまいますから」


保険を掛けた言い方だがこれなら納得するんじゃないだろうか


「もっともな意見です。ですがそれは未知の生物を利用しようとする勢力が黙ってはいませんよ」


「というと?」


追うように返事をすると


「マフィアと共和国軍が例の生物を密貿易をしているという情報がこちらに入ってきているのです」


「そ、それはほんとうですか?」


さすがに国の守り手である軍人がマフィアと手を結ぶなんてことあるのか?


あまり信じたくない話だが、事実を確認したい


そう言うと大将は待っていましたと言わんばかりに副官を呼んで命令を下した


「さっそく各共和国軍に調査を出せ。決して主犯逃がすなよ」


そう聞くと副官は敬礼をし早足でその場を離れた


あまり身内を疑いたくはないが中から腐敗していくという話はよくある


そう言ったところの”膿”をしっかり取り除かなければ安定した社会は作れない






その同刻、連邦最南方にあるアベリア共和国では例の生物の密猟が行われていた


「これはすごいですよ!NKVDが来る前に捌いときましょう!」


「あとどのくらいとれる?」


「もう腐るほど取れますよ!!」


暗い倉庫の中で大量に積み上げられた死骸は連邦が接触禁止を命令した生物たちだ


それに未知の元素があることを最も早く気付いたアベリアは独自の共和国軍を使って、不法に生物を密漁していた


「そういやこの生物って名前あんのか?」


一人の兵士がそう言いながら生物をまじまじと見つめる


「上はカサカブリって呼んでましたね」


「なるほど、頭についてるこれが傘みたいに見えるからか」


彼が言った通りこの生物はカサカブリと言う名称で呼ばれているらしい

全長は大人の男と同じくらいだが水中でのみ活動しており、鈍足だが人間を襲う


そこに駆け足で寄ってくる一人の兵士が叫んだ


「NKVDです!!こちらに武装した状態で接近しています!」


「何!?こんなに早く動いてくるとは予測できなかった」


NKVD(エヌカァーヴェーデー)正式名称は内務人民委員部。主に国内の刑事警察、秘密警察、国境警備、諜報機関の統括。一部ではかなり過激な調査や尋問をするらしいが詳しいことは首相ですら知らない





調査隊からの報告書を読みながら部屋の中を歩く


「まぁ肉食の魚みたいなものか…」


資料をテーブルに置き、ソファに腰掛ける


相変わらず休む暇がない


スターリンとかもこんな仕事してたのかな。と勝手に想像する

そう一息つけた後、部屋にノックが入った


部屋の外で警護の仕事に付いているファイツレだろうか?


「誰?ファイツレ?」


「はい」


褐色の美しい肌に白髪の彼女だ


透き通った綺麗な声が扉の向こうから聞こえる

今の時間は17時、夕食には少し早い気がするが


「入っていいよ」


ソファに腰掛けながらファイツレが部屋に入ってくるのを待つ


「失礼致します」


入ってきた彼女の姿は俺でも驚くものだった


「ぐ、軍服!?」


俺の驚きに?の顔をしているファイツレ

黒い開襟型のスーツに白いシャツ、紺色のネクタイ

言っちゃアレだが、ファイツレの豊満な胸部がシャツを引っ張っているのが気になる


「これが本来の正装です。メイドは兼業にすぎません」


メイド服の方が似合っているよなんて、カッコつけたことの言えない俺は「あ、そっか( ;∀;)」としか返事ができなかった。


それにしてもこれから俺たちは自分たち以外が存在しない世界で暮らしていくのだろうか?


それはとても寂しいので、そうならないように祈っている


今日は静かな夜だ


南部でNKVDの尋問がすでに始まっていることが俺に伝えられたのは、それから数時間後の話だった

































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最強国家が異世界へ 山田 @soviet

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