第2話 強運、クラス分け

資料に書いてある教室に着き、ドアに貼ってある座席表を確認する。

自分の名前を探すと、運のいいことに窓側、しかも一番後ろの角の席だった。

(おっ、ラッキー)


教室に入り自分の席に着くと、さらに運の良いことが。

窓から望むのは、美しい砂浜、果てしない水平線。

(....リアルで見ると、これまたすごいな)

自分の目にはどこか霞んだように見えるが、それにしてもパンフレットとは違い、美しい景色が眼前に広がっていた。

写真を撮ることが趣味の自分にとっては、毎日この景色が見られることはかなり嬉しいことである。

感動している人はあまりいないようだが。


「皆さん初めまして!改めて、月上島高校へようこそ!C組の担任になりました、高梨たかなし 実里みのりと言います!1年間、よろしくお願いしますね!」

あまりの景色の美しさに気を取られて、先生が入ってきていたのに気づかなかったようだ。

声のした方に振り向くと、そこにはさっき入学式の時に必死に声を張っていた背の低い女教師が。

(あの人が担任か、まあ、ハズレではなさそうか)

どうやら担任運もいいらしい。

「それでは私に続いて、皆さんにも自己紹介をしてもらおうかなっ!んーっと、じゃあ...一番右前の彼から!」


順番に自己紹介が行われていく中、次に立ち上がったのは男の自分から見てもかなりの爽やかイケメンだった。

「皆さんこんにちは!鳴瀬なるせ 海翔かいとっていいます!気軽に海翔かいとって呼んでください!中学ではサッカー部で、人と話すことが好きです!1年間、皆さんと仲良くできたら嬉しいです!よろしくお願いします!」

パチパチパチパチという拍手の中、そこかしこで「あの人カッコよくない...!?」「え、思った!めっちゃイケメンじゃん!」という女子からのひそひそ声が聞こえてくる。

(うわぁ、めっちゃモテるやつだ...まさか現実に存在するとは驚いた)


その後も滞りなく自己紹介が続き(何人か変なやつもいたが)、自分の番となった。

「初めまして、高岳たかおか 颯真そうまといいます。趣味は写真を撮ることと読書です。ここは景色が綺麗なので、窓側の席になれて良かったです。1年間、よろしくお願いします。」

(よし、当たり障りなく言えたんじゃないか?)

着席し、ほっと一息吐く。

最後の1人としては少し無難すぎる気もするが。


全員の自己紹介が終わった後、

「あれ?もしかして1人いない?」高梨先生がそんなことを言う。

教室を見渡すと、確かに真ん中には空席がある。

勝手に「入学初日から休むとは勇気のある奴だな」と思って気にしていなかったが、どうやら違うようだ。

するとタイミングを見計らったかの如く、ガラガラガラガラ!とドアが開く音と同時に、「すみません!遅れました!!」と元気な声。

皆の視線がドアに集中する。

「どうしたの君、もしかして迷ってた?」

「あ、先生、ごめんなさい!その通りです!迷ってました!」

資料持ってないのか?という疑問は先生からは浮かばなかったようで、

「そっか!まあ初めてだし、広いし仕方ないよね!んじゃあ、自己紹介よろしく!」

とすぐに自己紹介にシフトした。

「はーい!皆さん初めまして!美浜みはま なぎさって言います!好きなことは、んーっと、色々あります!1年間、よろしくお願いします!」

「はーい、なぎさちゃんありがとうございました!

それでは、これからの今日のスケジュールを言いまーす!まずクラス写真ね〜。それから——」


しかし今後の予定を話す先生の声はそっちのけで、男連中は勝手に盛り上がっていた。

「なんだあの子、可愛いぞ...!」

「俺、惚れたわ....」

「.....ゴクリ」

「彼氏いんのかな?お前後で聞いてみろよ」

「え〜やだよ、でも確かに気になるよな」


かくいう自分も、例には漏れなかった。

彼女が教室のドアを開けて、姿を現した瞬間から、耳は何も拾わなくなっていた。

彼女が入ってきた時から、目を奪われていた。

彼女がが歩いて自分の席に向かう時も、自然と目で追っていた。

彼女が歩いた後には、虹色の光が尾を引いているようだった。

彼女は、僕の霞んだ景色の中で、異彩を放っていた。

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