いろいろっ!

潮騒

第1話 入学、月上島高校

ピー、ピー、ピー、ピー、ガチャッ


(んん...何時だ今...)

忙しく鳴る目覚まし時計を止めて、時間を確認する。


(7時か...そろそろ起きなきゃな)

大きく一伸びして、布団から出る。


隙間から溢れる日差しを求めて、カーテンを開ける。

「おお...」

季節は春。2月に引っ越してきた時には風が吹いて寒かったこの月上島つきがみじまも、4月になった今では桜が満開であり、島全体が新入生を祝福するような暖かな雰囲気に包まれている。


ベッドから出て、昨日準備した制服に着替える。

今日必要になるであろう入学案内や資料が鞄に入っていることを確認し、愛用のカメラを忘れずに入れる。

朝食は買い置きしてある菓子パンでささっと済ませ、歯を磨いて髪を整える。

入学式開式まではまだ時間がある。スマホで今日の天気を見ると、どうやら一日快晴のようだ。

「んー、布団干してもいいかな...」

こんな暖かい日だとつい布団を干したくなる。

日の光を吸収した布団はなんとも言い難い心地よさを感じるのだ。


「....じゃあ、行ってきます」

一人暮らしなので特に誰かいるわけでもないが、今日から始まる新生活はこの家あってのことだ。

これからよろしく、という意味も込めて挨拶代わりにというわけである。

引っ越してきた時には何もなかったこの家も、テレビに冷蔵庫、机やベッドなどの家具に加えて、本土の実家からわざわざ持ち運んだ大量の本がびっしりと収められた本棚まで揃っている。

今日の入学式を迎えるまで2ヶ月ほどこの家で過ごしたわけだが、一人暮らしに慣れていない所為か未だ完全には馴染んでいない。

そんなことを考えながら、この島での移動において欠かせない自転車の籠に鞄を乗せ、家を出る。


今日は月上島高校の入学式。

今日から3年間通うことになるこの月上島高校は、海に面した台地の上にあり、屋上や教室からは広い海景色を見渡すことができるらしい。

また、偏差値もそれなりに高く校内のイベントや島のイベントも多いため、わざわざ遠く離れた県からも受験しに来る生徒が多いとのことである。


人気がない道を抜けて大通りに出ると、同じ新入生らしい生徒が多く見受けられる。

皆一様にこれから始まる高校生活に胸を膨らませているようで、足取りは軽い。

そんな者たちを横目に自転車を走らせていると、目の前に巨大な校舎が見えてきた。月上島高校である。

校門の前に立っている教師と思しき人に従って、駐輪場に自転車を停める。

盗られないようにきちんとロックをし、案内表示に従って体育館へ向かう。


体育館に入ると、外の喧騒に勝る演奏が行われていた。

(おお...!)

広々とした体育館に響き渡る美しい音色。

入学式のスケジュールには載っていなかったため、おそらくサプライズだろう。

確か月上島高校の吹奏楽部は全国大会常連で、何度か優勝した経験もあるほどの強豪校だと志望校選定の際に見た記憶がある。

そんなことを考えながら周りを見てみると、意外と新入生の数は少ないらしい。

暇なので数えてみると、大体150人程のようだ。

「前から順に詰めて座ってくださーい!!」

背の低めな女教師が未だ鳴り止まない音楽に必死に抗うように声を張って呼びかけている。

(...先生も大変だ)


声に従って着席した少し後、ようやく全ての席が埋まったようで、音楽は段々とフェードアウトしていく。

「それでは只今より、月上島高校入学式を開会します。

まずは開会までの時間をサプライズで彩ってくれた吹奏楽部に大きな拍手を!....ありがとうございます。

続いて理事長のお話です.....続いてーーーーー」

理事長の話が終わった後も、生徒会長やPTA会長の話が続く。どうやらここでも「校長・理事長の長い話」は健在のようだ。

少しだけ周りを見渡してみると、居眠りしている者やいつのまに仲良くなったのか小声で喋っている者もいる。

(そりゃああれだけ長い話聞かされたら退屈だよなぁ...)

そんなことを考えているうちに、どうやら全ての演説が終わったようだ。


「それでは、これで月上島高校入学式を閉会します。

新入生の皆さんは、順次案内に従って、事前に配布した資料に記載されている教室へ移動してください。」


「んんーっ、ふぅ...」

一つ伸びをして席を立つ。

長かった入学式も終わり、ぞろぞろと各々決められた教室へと向かう。

(面倒な人と同じクラスになりませんように!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る