推しの恋が応援できない理由

櫻んぼ

第1話 推しが尊すぎる

松本美月。

高校二年生。

バスケットボール部所属。



今、私には推しがいる。


今日も、私の隣の席で頬杖を付きながら、ひっそりあの人を見ている中条くん。

色素が薄く、色白な肌に、少し茶色の髪。

まつ毛が長く、中性的な顔立ちだ。


そんな彼が見つめるのは、中条くんの隣の席にいる私の、そのまた隣。そこから3つ前の席。

サッカー部の爽やかイケメン山崎くん。


二人は幼馴染らしく、常々一緒にいる。




ただし、それは山崎くんに彼女がいない時に限る。

人気者の山崎くんは、一年生の時から、ちょいちょい彼女がいる噂を耳にした。



そして、山崎くんをせつない表情で見つめている中条くんに気付いたのは、この席になってからだ。





中条くんが山崎くんを見つめ、ふとそれに山崎くんが気づく時がある。そんな時は、とても柔らかな優しい表情で、口パクで中条くんと会話をするのだ。



(腹減った)


(後で購買いこうぜ)


ふふっと二人で笑う姿は本当に尊い。





そしてこっそり見守っている私が、たまに中条くんに見つかり、視線が合ってしまう時。

そんな時、彼はさっと頬を赤らめて、ぷいっとそっぽを向くのだ。




もうかわいすぎるっ!



山崎くん、中条くんの気持ちに気がついて!



この席になってから、ずっとひっそり推しの恋を応援しているのだ。




そんな山崎くんが、中条くんに対して、全く脈がないわけではない。



中条くんは私と同じバスケットボール部で、女バスが終わって体育館の外に出た時には、時々山崎くんから声をかけられる。


「男バスってもう終わった?」


「まだだよ。

そろそろ終わる頃だと思うけど」


「サンキュ」




そんな会話を私と交わす。




幼馴染で家が近いとはいえ、違う部活なのに、わざわざ一緒に帰っていることを、私は知っているのだ。




周りの女子達は、山崎くん狙いだからか、中条くんの恋に気づいていないようだった。

他の女子が山崎くんの横に並んでいると噂になったけれど、中条くんなら噂にもならない。



あんなに毎日眺めているのに。

とても切ない顔で。

そして気づかれると本当に恥ずかしそうで。



推しには幸せになってほしい!



どうにか山崎くんと。





そんなことを常々思っていたある日、部活終わりに山崎くんから声をかけられた。



「悪い、松本!

中条に、今日は先に帰るって言っておいてくれない?

メッセージは送っておくけど」




なに?!



「わかった」



と答えた私は上の空だった。




なんだろう、心がザワザワする。




山崎くん、また彼女でもできたんだろうか。


いや、急用かもしれない、うん、きっとそうだ!






モヤモヤしながら、体育館で中条くんに声をかけた。でも、その場で伝えるには気が引けて、体育館の外に連れ出す。



「あ、あのね、山崎くんから伝言で」





そう言った私を見つめる中条くんは、節目がちにまたあの切ない顔をした。

とても綺麗な顔立ちで、長いまつ毛に、綺麗な形の唇で。





推しのあまりに綺麗な顔を見つめ、半分上の空になりながらも


「山崎くん、今日は先に帰るんだって」




ふり絞るように伝えた。




綺麗な唇をきゅっと噛みしめた中条くんの口を見つめる。その唇が微かに動く。





「うん。知ってるよ。

俺が頼んだから」






ん?頼んだ?






「そう。俺が松本さんにそう伝えてって言ったんだ。






俺、ずっと、








松本さん、あなたを見ていました。






好きです」










・・・・・







は?!

なんだって?!









遠くから、私達を微笑ましく見つめている、山崎くんの姿が目に入った。



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