3


『勇者様が来たぞーーっ!!』


 カンカンカンカン!


 今まで聞いたことが無い、慌ただしい鐘の音が一斉に村に響いた。寝ていた村人達は朝から飛び起きると、慌ただしくそれぞれの配置についた。そして、勇者が村に来る瞬間を待った。村に仲間を連れた若き勇者が突如現れた。勇者は絵本通りの服装をしていた。


 マントに鎧に大剣に、金髪の青い瞳に、頭には勇者のトレードマークの冠を被っていた。マントには『勇者』という名前が、デカデカと書かれていた。そして、堂々と彼は村の中を歩いていた。


 みんなはその瞬間の為に今までそれぞれの役割りを果たしてトレーニングしていた。今まさに、その結果が試される時だった。村の前で見張りをしていた彼は、勇者が自分の目の前を通りすぎる瞬間まで無口で無表情の顔をしていたが、勇者が横を通りすぎた瞬間、彼は膝から崩れ落ちるように地面に両手をついて涙を流して一言呟いた。『ああ、これでようやく村の見張り役が終わった!』その言葉の意味は重かった。彼は生まれた時からずっと門の前で毎日暮らしていた。そして、その瞬間がくるまで門番の見張り役として今まで生きていたので、その呪縛から解放された今の彼は役目を終えた一人のモブキャラとして清々しい表情で天に向かって両手を合わせていた。


 そして、岩に座っていたおじいちゃんも勇者が目の前にくると、今まで呪文のように唱えて繰り返し頭に叩き込んでいた台詞を震えた声と緊張した表情で話すと、最後はビシッと村長の家を指差して『あそこじゃ!』といって、プロフェッショナル魂を見せた。


 勇者は『ああ、あそこか。ありがとう助かったよ、おじいさん』と言って、おじいちゃんの肩をポンと叩いた。そして、村長の家に勇者は仲間と向かった。その瞬間、おじいちゃんは自分の役目を果たすと同時に岩に座ると真っ白な灰になった表情で燃え尽きた。


 こうしてまた一人一人と、役目を果たすと燃え尽きたように昇天していった。そして、母も勇者に井戸から汲んだ水を飲ますと、ようやく『井戸汲み女』の束縛から解放されて、母は涙を流しながら自分の役目に誇りを持って空を仰いだ。ボクはその村人達の異常な光景に息を呑むと、恐怖で言葉すら失って佇んだ。そして、最後は父が震えた手で斧を持って豪快に薪割りをし始めた。

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