ハーモニカとすずむし

 半年前にハーモニカを習い始めた俺は、「虫の声」を一生けん命練習していた。

 すると窓のすき間から一匹のすずむしが部屋の中に入って来て、

「音楽を教わりたいんです」

と言ってきた。俺は宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」を愛読していたから、虫の一匹や二匹が人間に音楽を習いたいと言ってきたところで、別に驚きはしなかった。

「ぜひ習いたいのです」

「俺にどうしろというんだい」

「リンリンのところをご一緒にお願いします」

 「虫の声」のちょうどすずむしのところである。なるほど俺の吹くハーモニカの音色があまりにもきれいだから、本家の方が習いたくなってしまったのだな。俺のハーモニカも半年で随分上達したもんだ。

 俺は言われた箇所を吹いてやるとすずむしも合わせてリンリン鳴いた。十ぺんくらい一緒に吹いてやると、すずむしはすっかり満足したらしく、丁寧に礼を言って出て行った。

 

 翌日のレッスンで私が「虫の声」を吹き終えると先生は、

「すずむしのところだけ上手だね」

とおっしゃった。

「………」


 まつむし、こおろぎ、くつわむし、うまおいも来てくれないかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る