第45話 ギルドを立て直し

 「これで最後だ!」

 縄で仰向け押さえつけられているラージャンのお腹の上に、ギミヤのハンターが数人のった。全員が剣を抜き取り、ラージャンの急所を狙う。暴れるラージャンに、体のバランスを崩されつつも、目線は急所を捉えていた。

 ゴーサインが言い放たれた。

 ラージャンの上にいるハンター達は、皆一斉にえぐるように腹に傷を付けていく。ラージャンは痙攣しながら、必死に縄から逃れようとするも、縄を固定している釘は全く動かなかった。血しぶきが高く飛び上がり、ハンター達の被っているヘルメットや服を真っ赤に染めあげた。

 数十秒で、ラージャンの動きが完全に止まった。

 ストップサインが言い放たれると、上にのっているハンター達は、ラージャンの腹を滑るように降りた。地に足を着けると、彼らは手に持っている両手剣を次々と回収袋に放り込んだ。

 「ふぅー、今回も中々の数でしたね」と、さっきまでラージャンの腹の上にいたハンターの1人が、リーダーにそう言った。

 「全く、ガタヤマの奴ら。どんなことをしたら、こんなに大勢のラージャンに喧嘩売ることになるんだ?しっかし、今回は重労働だった。報酬はたっぷりと貰い受けることにしようぜ」

 

 真っ赤なりんごのような朝日が昇り、輝かしい光が大きな陰を作り出した。日が昇るうちに討伐を完遂したハンター達は、その眩い日光に目を細め、勝利の雄叫びを上げた。

 アンナは、宮殿に馬で訪れていた。

 城壁に着いたはいいものの、門は閉じられていた。数回、呼び鈴を鳴らして反応を待ったが効果はなかった。

 「おかしいわねぇ〜。こっちの方にはラージャンは見えなかったのだけど、、、、ね」と、ぼやきながら再び馬にまたがり、城壁をグルリと一周し始めた。

 巨大な穴が、城壁の上方にくっきりあけられている。アンナは、それをうっかり見過ごしそうになったが、途中で気付いて引き返してきた。

 「ラージャンかしらね。だけど、なんか妙だわ。わざわざあんな所に穴を開けるものかしら」

 アンナは、馬から降りて、城壁の出っ張りを伝ってよじ登り始めた。穴にたどり着くと、ついでに中を覗ける。穴のすぐ下には、大量の瓦礫が横たわっているのが見えた。さらに、目を遠くの方にやると、二匹のラージャンが並んで横たわっているのが見えた。

 ふーん、ここまで来てたんだ。

 アンナは、瓦礫の山に飛び移り、足元に気をつけながら降りていった。真緑に燃える芝生に足を浮かべて、本館に向かって歩いて行った。

 アンナの目に人っ子一人写ることなく、彼女は本館の正面玄関に着いた。しんとした建物に合わせて、彼女も忍者のように足を忍ばせて扉に接近する。呼び鈴を鳴らして、大人しく反応を待った。

 数分経った。アンナは、待ちくたびれて大声で「ゴメンくださ〜い!!」と怒鳴ってみた。さらに数分待ったが、反応はなかった。

 「あら、どこ行ったのかしら。報酬を貰わないと帰れないのに」

 そんなアンナのぼやきを、街長は身を潜めながら、宮殿の窓際で聞いていた。彼の隣には、護衛の騎士が2人いる。

 しばらく待つと、とうとうしびれを切らしたアンナが帰路に着いた。彼女は、来た道を同じように帰っていく。

 その様子を視認した街長が身を楽にして、隣の騎士達にこう漏らした。

 「もううちには彼らに払うお金がないんだよ。ギルドに搾取され続けて、このざまだ。この街は、終わった。ギミヤに潰される。お前達も、もうよいから早く別の街に出かけなさい」

 騎士達は、渋い顔でお互いの顔を見る。お互いに、俺は考えているぞお前はどうなんだ?、といった合図を表情で送り合った。

 騎士達は、立ち上がり部屋のドアまで歩くと、「お疲れ様でした」と大声を出して外に出て行った。


 ロキがガタヤマに戻ってきたのは、街の復旧が進み出して、しばらくしてのことだった。ロキはもちろん顔を隠して、街内を散策した。裏道とまでは行かないが、大通りには瓦礫の類はもう落ちていなかった。

 復興の段取りが素早かったのは、ギミヤの手助けあってのことだった。エリックはどこにいたのか、ギミヤが、報酬を貰えない、とボロボロになった街に毒入りりんごを差し入れしようとしていたところ、エリックは颯爽とアンナの前に現れて、ドイルつまりネヅミが残した財産を全額彼らに手渡した。

 アンナは、それを持ち帰り、ギミヤの街長に報告すると、旧ガタヤマはギミヤの支援を受けることとなった。

 エリックはその成果を受けて、再びギルドの実権を握ることとなった。彼は、マスター就任の際に演説でこう語った。

 「前マスターの悪政に変わり、この私が真っ当なギルド運営を行います。ロキは、ラージャンの襲撃でお亡くなりになりました。ギルドまるごとこっぱ微塵になりました。しかし、それは間違いなく天罰だと思います。日頃の行いです。

 私がマスターになった暁には、街民皆んなが納得のいく、、、いや、ハンターの皆さんが納得のいくよう努めさせて頂きますので、宜しくお願いします」


 エリックは、マナとカラスを新しいギルドに迎え入れた。2人の役職は前までと変わらず、秘書とマスターの側近だ。

 しかし、マナとカラスにとって、エリックに対する忠誠心はこれっぽっちもなかった。 

 そんなある日、ある男がギルドを訪れた。マナがその客人を応接間に通すと、その男がロキだということが分かった。

 ロキは、帽子を取ってマナに挨拶を済ませると、こんなことを口にした。

 「今、エリックがギルドマスターをしているらしいな。どうだろう。エリックを暗殺して、俺が偽エリックになり、ギルドを動かすってのは」

 マナは、すぐにこう答えた。

 「待って、カラスに伝えに行くわ」

 

 


 

 

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不穏なギルドを改革します。 @konohahlovlj

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