第43話 ラージャンvsロナウド

 騎士達は、宮殿のすぐそこまで迫ってきているラージャンに大砲を三発放った。時計塔を握っているラージャンを守るべく、もう一体のラージャンが身をていして、大砲を全弾受け止めた。

 肩と掌からモクモクと煙が上がるラージャンを他所に、時計塔持ちのラージャンは一歩前に出て、城壁から顔を出す大砲めがけて時計塔を突き刺した。

 穴が空くと同時に、時計塔も粉々に砕け散った。突き刺したラージャンは、その穴に手を突っ込んで、城壁の内側に手探りを入れた。

 騎士達は、ボスラージャンの手や腕に剣を突き立てる。しかし、すぐにボスラージャンは穴の横部分に指を引っかけた状態で腕を引っ込めた。これで、穴が大きくなった。

 穴は、ボスラージャンの頭が通れるくらいの大きさだ。

 ボスラージャンは、中の様子を覗いた。逆に中から、豪華な装備の騎士が睨み返している。

 ロナウドは、腰の剣に手をそえる。左足を大きめの一歩で後ろに下げて、いつでも戦える姿勢を見せた。

 ボスラージャンは、自身の光を抑える。唐突に、姿を消して、壁の中に突如現れた。

 ボスラージャンは、大きく右手を振り上げている。真下には、ロナウドがさっきの姿勢のまま静止していた。

 ボスラージャンのアッパーは、空気をすくうだけのものになった。グーの手が頂上に達した瞬間、ボスラージャンは、自身の顔の前に剣の刃が光っていることに気が付いた。

 「これが、ラージャンか。モンスター最速とも呼び声の高いわりに、おせえな~」

 ロナウドは、ボスラージャンの肩に乗りながら、そう言った。

 グググググ、と喉を鳴らしながら、ボスラージャンは白い息を吐く。強い光を目に宿して、ロナウドを睨みつけた。

 ボスラージャンは、ナノ秒のパンチをロナウドに向けて放つ。ロナウドは、そのパンチを剣で軽くいなし、姿勢の傾いたボスラージャンの胸元に剣を突き刺した。

 ボスラージャンは、間一髪で後方に大きく下がり、刃から逃れる。片膝をついた状態で、刺されかけた部分に手を添えると、手のひらに自身の毛が数本乗っかっているのが見えた。

 まずい、とボスラージャンは、思った。速さが売りのモンスターなだけあって、それが生かせなくなると、途端に戦闘が厳しくなる。

 ボスラージャンは、この場から逃げることを考え始める。ロナウドは、そんな弱腰になる瞬間を見逃さなかった。

 「待て。お前は逃れることができん。なぜなら、お前は、俺より遅い。その城壁から一歩でも外に出てみろ。その時は、手加減一切なしの100連撃をお見舞いしてやる」

 ボスラージャンは、自身の光を完全に消した。辺りは、一気に暗くなり、城壁から溢れでる蠟燭の光だけが両者の頼りとなる。

 二者の誰も目の追えない攻防戦は、とある騎士のくしゃみで火ぶたが切っておろされた。

 ビュンビュンと鳴る物凄い風とその音に、宮殿の敷地内は戦国時代を思い出させる末法末世な雰囲気が漂い始めた。騎士達は、視認できない恐怖に体を震え上がらせた。1人が逃げ出すと、2人3人と続けて、宮殿や敷地外に向かって走る。その流れは強まり、最終的には騎士たちの姿はその場から1人も残らなかった。

 

 「ここの防空壕なら、安全だわ。街から、少し離れているしね」

 「ありがとう、ソフィーさん。あなたが帰ってくるまで、ここで待機しておけばいいんでしょ?」

「ええ。決して、私が居なくなった途端に防空壕から出て、ギミヤに帰るなんて行為はしてはなりませんよ。夜の外歩きはとても大変ですから。モンスターなんて、うじゃうじゃいますよ」

 「大丈夫よ。私もそんな馬鹿じゃないわ。だから、早く行っておやり。みんな、貴方を待っているのよ」

 「分かったわ。じゃあね、お互い生き残りましょ」

 ソフィーは、ニッコリと笑ってスオンに手を振った。振ったままで、街に向かって歩く。

 スオンは、防空壕の前でずっとソフィーが見えなくなるのを待った。そして、ソフィーが持っていた蝋燭の光が完全に視認できなくなると、そっと地上にでて方位磁針を頼りに草原の中を歩き出した。月明かりで、なんとか記号は見ることが出来る。そのため、スオンの足取りはそこまで悪くなかった。

 

 夜明けとともに、ギミヤからハンター達が派遣された。均衡していたラージャンと旧ガタヤマのハンター達の戦いは、それによって一気に形勢が傾いた。


 「ジドさん。俺、俺ロキなんだ」真ロキは、面会室でジドと向き合って座っている。ジドは、真ロキの発言に対して、正常に頭が働かなかった。

 「えっとー、どういうことかしら。あなたは、ロキオちゃんよね?ロキってあなたのお兄さんの名前じゃないかしら?」

 「本当は、兄がロキオ。弟の俺がロキだったんだ。それが、ある日突然、ギルドマスターだった俺は記憶を抹消された挙句、追放さ」

「待って待って待って。本当にガビちゃんよね?雰囲気変わったわね。前は、なんだかもう少し穏やかなイメージだったんだけど」

 「俺は、記憶を取り戻した。今までのガビではない」

 「あら、そうなの。それで、どうしてわざわざ私の面会に来てくれたの?」ジドは、両肘を両膝にくっつけて、その上から口元を緩めた顔を乗っけた。

 「別れをいいに来たんだ。俺は、ガタヤマに戻る。俺の故郷だからな」

「まあ、でも隣街じゃない。きっとすぐ会えるわね」

 「会えるといいんだけどな」


 

 

 

 

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