第42話 時計塔、倒壊。
「おい、どうなっているんだ。みんな死んじまったのか?」ラリッドは、唖然とした様子でウルルに話しかけた。
ラリッドとウルルの目の前には、剣持ち達の死体が転がっている。彼らは皆、関節をおかしな方向に曲げられていて、体の至る所から血を流していた。とてもじゃないが、ラリッドとウルルには直視できるものではない。二人は、顔を歪ませ目を背けた。
「ラリッドさん、、、、」ラリッドの後ろから、誰かが声を出した。
ラリッドとウルルがそっちの方に目を向けると、弓使い達が茂みの中から出てくるのが見えた。
「ラリッドさん、すまねえ。俺たちのせいだ。俺たちが仲間を見捨てて、しかもラージャンを街に向かわせてしまった」
「何?街に向かっただと?おかしい、奴らのボスは倒したはずだが。まさか、罠だったのか?
いや、今はそんなこと考えている暇はない。俺たちも早く街に戻ろう、今度こそ、命を懸けて街人達を守るぞ!」
「おい、ラージャンだ!ラージャンが来たぞー!」
街人達は、大声をあげて、逃げ回る。しかし、大きくてスピードのあるラージャンにとって、掛け声作戦は無力というほかなかった。
ラージャンは、人間一人一人を狙うようなことをやめて、効率良く建物を攻撃するようになっていった。さらには、崩れ落ちた建物の中から、大きめの瓦礫を見つけ出し、それを人間がより集まっているところに投げ込む。着弾の衝撃で、破片が周囲に飛び散り、近くの建物に直撃すると、さらなる倒壊を生んだ。
「ボス、宮殿を見つけました。あそこにこの街のトップがいるはずです。私が援護しますから行きましょう」
「ふふふ、俺たちの強さを見せつけてやる」
「まずいわね~。本当にラージャンが来てるなんて。早すぎわよ」ソフィーは、窓から出した顔をキョロキョロさせながら、心配そうに言う。
同室にいたスオンは、ため息をつきながらこう言った。
「あ~、私ったらどうしてこんなにタイミングが悪いんでしょうね。明日、帰れるって思っていたのに。
どうする?ソフィーさん。私たちは早めに逃げましょうよ、その怪我じゃ戦えないじゃないの?」
「これくらいの傷なんともないわ。街のSS級ハンターとして、逃げることはできないわよ。私は、戦いにいくわ。でも、その先にまずはスオンさん、貴方を安全なところに連れていくことが優先ね」
「そうしてもらうわ。ありだとね、ソフィーさん。貴方も生き残るのよ」
騎士達が宮殿の広場に整列した。
団長ロナウドが広場に顔を出すと、騎士全員が直立不動の気をつけの姿勢をとった。見せつけるようにコツコツと足音を立てて、ロナウドは騎士達の真ん前まで歩く。そして、立ち止まると、機敏に回れ右をして大声でこう怒鳴った。
「我らの役割は、宮殿の保護!街の守りはハンター達が引き受けてくれた!私の開戦宣言が終わり次第各自持ち場についてくれ!
ラージャンは、強い。ギルド自慢の討伐隊ですら、一体倒すのに苦労したらしい。しかし、我々にはやらねばならないことがある。逃げることは、裏切ることだ。宮殿を守り、街の尊厳をお護りとおそうではないか!」
ロナウドは雄たけびを上げた。彼の勇ましい声は、騎士団全員を奮い立たせたみたいで、彼らは皆右手を肩より上に持ちあげて、何度もそれを天空に突き上げる。その光景を見て、ロナウドは含み笑いをした。
「ボス、ここです。この道をまっすぐ行ったところに宮殿がありました」
「うむ、あの時計塔が邪魔だな。宮殿が見えん。ついでだ、真ん中あたりを折って、棒のような武器にしてやろうではないか」
「いい考えですね。あれだけ長い武器なら、一振りでたくさん壊せますよ」
「ふふふ、そうだろそうだろ」
「ハンターの皆さんは、街人の保護及びラージャン討伐をお願いします」
キンコンカンコン。
エリックは、数度にわたる放送に一旦の区切りをつけた。背伸びをして、管理室を出ようとする。それと同時に、ドイルが中に駆け込んできた。
「エリック!エリック!ラージャンがこの時計塔目掛けて突進してきているわよ!確かパラシュートあったでしょ?それで、今すぐここから脱出しましょ!!」ドイルは、エリックの両腕を押し、彼を管理室に引き戻そうとしながらそう言った。
「ままま、マジかよ。宮殿は?あっちの方が目立つだろう。いや、待て。さきにパラシュートだな」
エリックは、部屋の中の棚を目ぼしいところから順に探し始めた。ドイルも彼を真似て、彼の見ていないところを探す。
しかし、大した時間も与えられず、二人の慌ただしい手は一瞬で止められた。
ドーン、とする音とともに時計塔全体が揺れた。なんとか時計塔は持ちこたえるも、二度目の衝撃に耐えることができなかった。
二次関数のように徐々に傾きは大きくなっていき、地面に落下するかと思われたが、時計塔は丁度横向きになったタイミングで静止した。
中にいたエリックとドイルは、床になった壁に這いつくばった。ドイルは、死を覚悟して耳障りなくらいの大きな声で泣き始める。本人は、耳を手で抑えているため、気づいていないようだ。
エリックは、ドイルを実の母親かのように優しく抱きしめ、優しく頭をポンポンと撫でてあげた。
「ボス、やっぱかっこいいっすね~。似合いますよ」
「へへへ、そうだろ。こいつを宮殿にぶち込めば、相当なダメージだろうな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます