第41話 ラリッド軍団vsラージャン軍団(2)

 ラリッドは、剣を片手に腰をかがめて、茂みの中を移動していた。狙いは、ラージャンのボスで、それを討ちとって敵の士気を滝のよう垂直落下させようという魂胆だ。

 ラリッドの後ろには、ウルルがいる。彼は、ラリッドを邪魔するラージャンを返り討ちするための、いわゆる補助員としての役割を任されていた。

 「おい、あのデカいやつ、ボスじゃねーか?」ラリッドは、手首だけ動かして指をさした。

 ウルルは、ラリッドの指先を見つめた。確かに、他と比べて明らかに大きいラージャンがいる。そいつは、隣の一回り小さいラージャンと何やら会話を交わしていた。

 「確かに、ボスっぽいですね。行くなら合図を下さい。私が先に行って、隣の小さいやつを討ち取ります」

 「分かった。だが、少し待て。次の矢が飛んで来てからだ。そしたら、俺たちも行くぞ」

 「了解」

 

 「おい、なんだかここの土、妙にフワフワしてねーか?気持ちわりーな」剣でラージャンを斬り殺した後のとあるハンターが、隣にいる同志に話しかけた。

 「そうか?う~ん、まあ確かにフワフワしているな。違法畑なんじゃない?全く、近頃の街民は。こんな所まで来て、畑作を耕すとは。まあ、最近の武器も随分と発展してきたからな」

 二人のハンターは、2体のラージャンの死体を隣において、そんな会話を繰り広げる。彼らの近くでは、モンスターの類を視認できない。安心しきった様子で、二人は剣をしまった。

 その瞬間、二人の真下から二体のラージャンが飛び出してきた。土を被ったまま二体は、地上に出るついでに二人を一瞬で上空まで殴り飛ばした。二人の体は、数十メートル浮き上がった後、自然落下を始める。その光景を後衛の弓使い一同は、呆然と眺めていた。

 「ま、まずい!お前ら、早く弓を引け!殺されるぞ」一人の弓使いがそう言った。

 しかし、手遅れだったらしく、既に二体のラージャン達は、一人ずつ弓使いを手にし、彼らの胴体を握り締めていた。

 締められている弓使い達は、最初はラージャンの指を叩いて抵抗するも、徐々に苦しそうな顔つきに変わり、しまいには泡を口から吐き出し始めた。

 「目を狙え!目が空あきだ!」と弓使いの中でも一番の年上が号令をかけた。

 弓使い一同は、一斉に矢先を向ける。しかし、ラージャンの素早い動きに標準が定まらず、そうしているうちに、三人目の犠牲者がでた。

 「くそ!このままじゃ、、、。お前ら、引けい!引けい!」とさっきと同じ弓使いが再び号令をかけた。彼の号令と同時に、剣持ち達がぞろぞろと後退してきた。

 剣持ち達は、二体のラージャンに気づくと、とっさの構えを姿勢をとる。同様に、対峙するラージャン達も標的を弓使い達から剣持ち達に変えた。おかげで、そのすきに弓使い達は、無事茂みに隠れることができた。

 剣持ち達の相手は、土被りのラージャン達ではなかった。相手は、剣持ち達の後退で体制が立て直った他のラージャン達だった。

 多くのラージャン達が、剣持ち達を後ろから襲いかかる。剣持ち達は、意表を突かれ、多くの悲鳴をそこら中に響かせた。

 

 「ラリッドさん。矢が飛んでこないですよ」

 「おかしい。ラージャンはまだまだ残っているのだが。作戦失敗か?早すぎるな」

 「一旦戻りましょう、ラリッドさん。壊滅の危機かもしれません」

 「いや、あのデカ物を先に倒した方がいい。ラリッドは、集団で動く生き物だ。トップを倒せば、おのずと軍団は解けていくだろう」

 「はいそうですか。まあ、ラリッドさんがそう言うなら」

 少しきだるそうにするも、ウルルは、勢いよく茂みから飛び出した。一回り小さいラージャン目掛けて、一直線に突き進む。ものの2,3秒で、傍に近寄ると縦に飛び上がり、顔面に刃を向けた。小さいラージャンは、それを防ごうと、前足を上げて顔を隠す。それを確認したウルルは、一瞬で地面に降り立ち今度は腹に刃先を向けた。

 ウルルの一振りと同時に、ラリッドが姿を現した。そして、大きいラージャンの顔、目掛けて剣を振りぬいた。

 デカいラージャンは、ウルルに気を取られていて、ラリッドの登場に全く気付いていない。ラリッドに顔を斬られたと同時に、やっと察知した具合だ。

 顔に傷を負ったラージャンは、ラリッドの姿を必死に探す。顔をキョロキョロさせるも、ラリッドは見つからない。首下の毛に身を潜めていたラリッドが、頃合いを伺い、二度目の斬撃を顔にくらわした。

 大きいラリッドは、大きな音を立てて、体を崩した。

 その振動に紛れて、ラリッドとウルルは、すっと茂みに逃げ込んだ。


 「ボス、人間も大したことないですね。この街のハンターは、他の街と比べてもレベルが低いですよ」

 「ふん、俺を怒らせたんだ。ただじゃおかねえ、死以上の苦しみを味合わせてやろう。おい!行くぞ!野郎ども」


 ラージャン達は、一斉に街に向かって歩み出した。一斉の行進は、地響きをゴンゴンと鳴らし、それを街まで不気味な音としてこだまさせた。

 街人達は、その音に誰もが手を止め、足を止めた。直線的に大きくなるその音に比例して、街人達の恐怖も大きくなっていった。

 

 

 

 

 

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