第40話 ラリッド軍団vsラージャン達

 「おいおい、ギルドのやつらが何かほざいてるぜ」「わかりやすい嘘をつくな~、出て行って欲しいだけだろ」「誰がお前らに従うんだよ」

 ハンターたちの反応は、一様にこんなふうだ。彼らには、警報もそよ風と大して変わらない。受け入れず、相手にしようとさえしない。

 エリックは、管理室を出て、ドイルのいる場所に戻ってきた。じっとギルドの方角を見つめ続ける彼女に、エリックは、話しかけた。

 「どんな感じだ?ハンター達は集まってきたか?」

 「いや、まったく。むしろ、無関係の暴走族どもが乗り込んで、荒らし始めだした」

 「なんだよそれ。逆効果じゃないか。そもそも本当に、ゴリラ顔のモンスターがいたのか?嘘だったら、余計面倒なことになるぞ」

 「それは、本当だわ。あ!思い出した。マナが、ラージャンとかいうゴリラ顔のモンスターを討伐するとかどうとか言ってたわ。討伐隊のあとをつけるって。絶対それよ」ドイルの驚きは、わざとらしかった。

 「ラージャン?知らんな。なんだ、討伐隊のやつら失敗に終わったのか。全く、使えないな」


 「よし、これで全員だな」ラリッドは、1mくらい高い段差の上から集められたハンター達を見下ろし、そう言った。

 ラリッドの号令を兼ねたこの声に、その場にいたハンター達は会話をやめ、皆ラリッドの方を向いた。

 「俺たちの標的は、ラージャン。ゴリラ顔のデカいが、スピードは一流のモンスターだ。彼らは、動きは素早いが、夜間になると途端にのろくなる。これは、神の設計みすか。いいや、やつらは俺たちに敗れるために生きてるんだ。

 これより、作戦を命ずる。日の暮れし時が進撃のタイミングだ。見よ!あの太陽を!あと数分で沈み切ってしまうのは確かではないか!

 ラージャンの弱点は、顔と腹。弓使いは、見つけ次第真っ先に矢を放て。剣持ちは、混乱したラージャンの弱点を斬れ。

 そうすると、ラージャンは自身の光を慌てて消すだろう。そうなれば、なおさらこっちのものだ。弓使いは、火の付いた矢を放ち、ラージャンの混乱を招け。仲間が周囲にいる状態で、機敏な動きはできまい。そのうちに、剣持ちは、隠れつつ、弱点を狙い続けろ。

 全員は、打ち取れないだろうが、苦戦に耐えかねた彼らは必ず退却するはずだ!」

 言い終わると、一寸おいて、ラリッドは、自身の斧を片手で掲げて、雄たけびを上げた。野生的で猛獣のような彼の顔に、ハンター達は胸を熱くした。

 「こんな、化け物が味方なんだぜ。勝てるだろ」みたいなことを彼らは、口々に言う。雄たけびは感染病のように、彼らに広がっていった。


 日が沈んだ。ラリッド達は、太陽の方に顔を向けながら、その瞬間を今か今かと待ち望んでいた。

 「行くぞ!」とラリッドは、短くもしんの通った声を出した。

 ラリッドから、順に通りに出た。

 通りは、反ロキ派たちがデモに飽きて帰っているようで混雑している。ラリッドたちの凛々しい表情を見て、彼らは立ち止まり、目をきょとんとさせた。

 ウルルが、ラリッドのすぐ後ろで旗を翻した。そこには、[ラージャン討伐]と大きく書かれている。横で傍観している街人達が、それをネタに小言話を繰り広げだした。

 ラリッド軍団の噂は、光の速さで街全体に広がっていった。また、進む先がモグリの森だという情報も、噂程度に同様の速さで伝わった。

 そうなると、ギルド崩壊に合わせて、酒で顔を赤らめていたり、のんびりとした時間を過ごしていた街中のハンターたちは、さっきのギルドの警報が本当だったのではないかと思うようになる。彼らは、とりあえず胸をドキドキさせて、追加の情報を探し求め、知り合いを転々とした。

 その一方で、横道にそれることなくモグリの森に着いたラリッド軍団は、最後の確認のため、森の直前で立ち止まった。

 「いいか。バラバラになるな。やつらは光っている。無理に探そうとしなくても簡単に見つかるぜ」

 ラリッドは、30人全員の顔を一通り見て、彼らの決心を確認した。ラリッドは、笑う。想像以上にいい面構えをしていたからだ。

 ラリッドは、再び森に向かって歩きだした。30人もそれに続いて歩き出す。

 

 「見つけたぜ。うひょ~、結構いるな~」ラリッドは、ウルルら弟子に呟いた。「いよいよですね」とウルルは返した。

 ラリッドは、腕を上げて指示をだす。10人の弓使いがぞろぞろと集団から出てきて、ラリッドの横を等間隔で並んだ。

 全員の準備が終わるのを見て、ラリッドが腕を振り下ろした。

 矢が一斉に解き放たれる。うち3本がラージャンの目にプツリと突き刺さった。

 

 「ボス!ハンター達です。奇襲をかけられました。まずい、矢の数からいって、相手は大人数でしょう」

 「反撃しろ。なめられてばっかでは、俺たちの名がすたる。逃げはだめだ」

 「ボスの命令だ!反撃しろ!タアキと呼ばれた人間の街を滅ぼした時のことを思い出せ!」


 ラージャン達は、矢が飛んできた方向に目ぼしをつけて、飛びかかった。すると、いきなり彼らの横の茂みから、剣使いのハンター達が飛び出す。ハンターたちは、格好を変えれないラージャン達の腹を斬りまくった。


 「ボス!同胞がやられました。まずいです、確認できるだけでも、5体死にました。やつら、しっかり準備してきています。それでも戦い続けるおつもりですか?」

 「準備をしているのは、やつらだけじゃないだろ」

 

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