第39話 ラージャンの集団、遂に顔を現す。

 「あら、ソフィーさん。討伐は終わったのかしら。あら、肩に傷が付きてるわ。

 そうそう、私、明日ギミヤに帰るから。お土産屋さん、寄ってから帰ろうかしら。いいところ、教えてね」

スオンは、そう言うと開いていた本を閉じて、自身の鞄にしまい込んだ。そのついでに、鞄の中身を整理し始める。

 ソフィーは、椅子に座り、救急箱から消毒液と包帯を取り出した。

 「まあ、明日帰られるの。シオンさんのことはもういいのかしら。何度も説得しに行ってらしたみたいでしたけど」

 「良いのよ。もうあの子に何言っても無駄だわ。何度、忠告しても聞きやしないのよ。

 でも、私にも少し分るの。ロキは、いい男だわ。昔はね、私もちょっと乙女心が疼いたことがあるの。当時、夫がいながらも、彼に好意を寄せていたことがあったの。姉妹だからかしらね。でも、途中でなぜか冷めちゃったのよね」

 「そう言えば、ロキの兄にロキオって人がいたわよ。風貌がすごく似てらしたから、彼と間違えたのじゃないかしら?彼、突然失踪したみたいだけど」

 ソフィーは、自分の発言から、ふとあることに気が付いた。

 マナさんは、ロキの弟を見つけてきた、と言っていたわ。その名は、ロキオ。ロキには、弟はいなかったはず。いたのは、ロキオという名の兄。なにか変だわ。私の思い違いかしら。

 その瞬間、ひらめきという名の閃光がソフィーの体を頭上から足元に向けて突き抜けた。

 もし。もし、数年前失踪したロキオが本物のロキの方だったら。確かに、当時は変だと思った。失踪事件が起こってから、ギルドの方針は明らかに大きく舵を切られた。当時、まだS級どまりだった私に与えられる情報は少なく、そのことについて深く知る機会は得られなかった。だけど、今なら調べれる。

 

 「おい!そっちはいたか?」

 「くそ、そっちもか。こっちもいなかった。マナ、カラスのやろうども、先に親族たちを安全な場所に逃がしやがったか」

 「まあ待ておまえら。まだ、この街に隠れているかもしれないだろ。早く、探そうぜ。見つけたらみんなで血祭だぜ」

 近くにいた凶器を持つ街人たちは、一同声を上げて、散らばっていった。


 「ボス、見えましたね。準備もそろっています、30体の同胞も集まりました。行きますか?」

 「いや、もうすぐ日が暮れる。夜は、我々の習性から鑑みて不利だ。襲撃開始は、夜明けと同時だ。一旦、引くぞ。ここにいると、気づかれてしまう」


 「ラリッドさん!ラージャンです、ラージャン。さっきモグリの森から顔を出していましたよ。もう気づかれたんだ、ああどうしよ」ラリッドの弟子、ウルルがあたふたしながら、そう言う。ウルルは、望遠鏡で森の方をずっと監視していた。

 「案外、早かったな。だが俺たちも、この短期間で準備を整わせてもらったぜ。おい、ウルル、結局何人集まったんだ?」とラリッドは返した。

 「30人ですよ。これで足りますか?討伐隊が、一体倒すのにそうとう苦労したって聞きましたけど」

 「なあに、ラージャンと分かればこっちのもんさ。俺には、やつらの考えていることが手に取るようにして分かるぜ。やつらは、夜明けとともに街を襲撃する。理由は、簡単。ラージャンには、夜になると動きがとろくなって、体が発光する習性がある。日が沈む手前のこの時間で、人里に下りてくるなんて馬鹿げたことはせんだろ」

 ウルルは、「勉強になります」と言って、メモを取った。


 「うひょう、こりゃ参ったね」

 ギルド内が、反ロキ派によって埋め尽くされているのが見える。狂人のように、窓ガラスを割って回る男が見える。真っ白な壁に落書きをしているギャルたちも見える。

 エリックは、時計塔の電子盤の上からギルドの方を眺めていた。彼の横には、スパイグッズを整理しているドイルがいる。

 「ギルドの様子は、どうですか?」ドイルは、まだ見ていないようだ。

 「う~ん、結構荒らされているよ。燃やされるんじゃないか?」

 ドイルは、石をぶつけられたように慌てふためき、自身の目で見よう試みる。小型双眼鏡を装着して、ギルドの方を眺めた。

 「いや、ハンターたちが暴れている街人たちに注意しているな。すまんすまん、燃やされるは言い過ぎだ」と、エリックは謝罪した。

 エリックは、ドイルの顔を覗き込んだ。エリックの予想だと、ドイルは安心した笑いを見せている。しかし、予想は裏切られた。

 ドイルは、口をあんぐり開けていた。エリックは、驚くと慌ててドイルの肩を揺らした。

 「おい、ギルドは大丈夫だ。ハンターたちもロキや俺が嫌いなだけで、昔からあるあの建物には愛着があるんだよ、きっと」

 「そうじゃない」ドイルは、小声ながらも、速攻で否定した。

 「そうじゃない。なんかこう、ゴリラ顔の巨大なモンスターがいるわ。しかも、一匹どころじゃない、うじゃうじゃ見えるわ。モグリのほうよ。街の存亡の危機だわ。

 エリック!今すぐ、警報を鳴らして!ハンター全集結よ。早く!!」

 エリックは、眼球をころころ動かし、頭をくしゃりと抱えるもドイルのはたきで、バタつく手が時計塔に向けられた。中へ続く扉を開けると、その足で管理室に向かう。無人のそれに入室すると、ガラスで守られている警報ボタンを叩きつけるようにして押した。

 街中のすべてのスピーカーに、雑音が入った。

 エリックは、壁から生えているマイクを自身に向ける。

 「え、えー。ギルドからのお知らせです。緊急怪獣警報発令。ただ今、モグリの森方面にて、巨大モンスターの集団発見。街にいるハンターたちは、直ちにギルドに集まってください」

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