第38話 ロキオ、記憶を取り戻す。

 ああ、思い出した。俺は、ロキだった。

 ロキオの心の中に、温かい何かが込み上げてきた。首元まで上がってくると、それは、全身に広がって指の先にまでいき届いた。

 俺は、父の店を受け継ぎ、ギルドの権力者になると、ギルドマスターにまで上りつめた。しかし、圧政に反発した俺の部下たちは、俺を追い出すために俺を記憶喪失にさせた挙句、右腕の兄ロキオを代わりにギルドマスターにしたてあげた。どうしようもない兄は、ガタヤマの政治を支配すると、どうしようもない政治をし、街を崩壊まで導いた。

 エリックが全ての元凶だ。カラスやクロヌマは、なぜエリックの味方をしているのどろうか。あいつらは、ギルドマスターになる前からの俺の部下だった。何が不満だったんだ。マナもそうだ。彼女は、一体どんな気持ちで俺と接していたのだろうか。

 エリックは、ガタヤマを支配したかったのだろう。それが、今更になって俺に助けを求めるとは、どういう神経をしているんだ。崩壊してあとの付けは、俺が支払えってのか?ふざけるんじゃない。

 ロキの中の何かが、メラメラ燃え始めた。

 エリックよ、そっちがそのつもりなら、俺は、宣戦布告をする。ガタヤマのギルドは、俺のものだ。もうこれ以上、好き勝手にはさせない。


 「これ以上、エリックの好き勝手にはさせない。マナもそう思うだろ?」カラスは、マナに感情をこめてそう言った。 

 「ま、まあ。エリックに主導権を握らせ続けるのも、もう終わりにした方がいいかもしれないわね。正直、真ロキの横暴な政治からエリックに代わったときは、よかったんだけど。

 ってことは、形だけのロキ政権は終わりってことかしら」

 「そうだとも、そのために真ロキには帰らせた。これからは、新しい人間たちがギルドを運営することとなるだろう。真ロキの役目は、もう終わった。あとは、穏やかな余生をガビの元でともに過ごすといい。じき、ガビの無実も証明してやろう。

 あと、アレクサンダーを殺したのは、クロヌマだ。あいつは、ガビに爆弾を設置させると、トリガーを引いて、アレクサンダーの家を爆破した。クロヌマの狙いは、真ロキの殺害。だけどそれは、間違った選択だった」

 「クロヌマは、やっぱり自殺だったのね?」

 「ああ、クロヌマは、関係のないアレクサンダーを殺してしまった。それを気に病んで、あいつは自殺を、、、、、」

 カラスは、言葉を詰まらせた。

 マナは、もらい泣きしそうになりながらも、こう尋ねた。

 「カラス。てっきり貴方は、エリックに入信しているとばかり思っていたわ。どうして、クロヌマを止めてくれなかったの?あなたがしっかりしていれば、アレクサンダーは、死なずに済んだのに」

 「俺は、実際にエリックに入信していたぜ。クロヌマが自殺するまでな。

 俺には、理解できなかったんだ。クロヌマの考えていることが。あいつが死んで、やっと。やっと、理解できるようになった。俺は、大バカ者だ」

 「クロヌマが死んでから、エリックがあなたを執拗に探していたわね。それって、エリックがあなたの裏切りに気付いていたってことかしら」

 「分からない。だけど、俺は、そう思ってる」

 カラスは、人が路地裏に入ってくるのを確認すると、話をやめて、急いでフードをかぶった。それを見て、マナもはだけていた肌を布で隠した。


 ドイルが、鎖をレバーで引っ張り上げると、びしょ濡れのエリックが顔を出した。

 「助けにまいりました。ネズミです」ドイルは、そう言う。

 エリックは、激しく息切れしながら、大樽の縁にへたり込む。ドイルが、エリックの腕を引っ張って外に出してあげた。

 「す、、すまないね。はあはあ、30分くらい潜りっぱなしだったよ、、、よく死なずにすんだものだ」とエリックは、虫の息で会話を試みる。

 「遅れて申し訳ない。少々、街人の視線が気になりまして。もっと早く来れたらよかったのですが」

 エリックは、部屋を見渡した。その間に、ドイルがエリックの手首に繋がっている手錠を、外しにかかる。

 「あれ?ウギルたちは?ここにはいないけど」とエリック。

 「部屋の外にいったん出てもらいました。しかし、じきに帰って来られるでしょう。一応、部屋の鍵はかけておきましたが。急ぎましょう」

 ドイルは、窓に開けられた人一人通れるくらいの穴を指さした。

 「ああ、あれね」

 手錠が外れると、エリックとドイルは、その穴から、外に脱出した。出ると、上から垂らされている縄を伝い、屋上まで上った。エリックは、そこに用意されていた変装グッズを身につける。着替えながら、二人はこんな会話を繰り広げた。

 「カラスが裏切りました。おそらく、今、マナとロキオに接触しています。ロキオ、殺されていないかしら」

 「う~ん。多分、それは大丈夫だろう。クロヌマみたいに感情をコントロールするのが下手な人間じゃないからな」

 「そうだといいですけどね。それより、私は、このギルドに残れるかどうかが心配です。だって、ここのギルドは、私のすべてだもの。エリック、もしロキオがいなくなっても、私だけは残れるようにしてくださいね?」

 「任せておけ。それに、お前がネズミとして回収した大量の金があるだろう?」


 ラージャンのボスがこう言った。

 「なぜ、私の妻がここで死んでいる。帰りが遅いなと思って、匂いの後をつけてきたら、このざまだ。ここの森に一番近い人間たちの街は、どこだ?」

 ボスの側近が答える。

 「私の部下が見つけてまいりました。ここから、南東に街がありました。おそらく、そこのハンターたちがやったのでしょう」

 「そうか、そいつらがやったんだな。よし、同胞を30体集めてこい。復讐だ。人間風情が調子に乗りやがって」

 

 

 

 

 

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