第37話 カラス、再会。
マナの様子は、明らかにおかしくなっていた。彼女は、何処かの店の裏階段に座り込むと、しおれたバラのようにしょげ込んでしまった。
時折、深いため息を吐くと、額に手をあてる。顔は俯かせたまま、表情一つ変えない。
「マナさん、大丈夫?」とロキオは、腰を低くして尋ねた。
マナは、ぶっきらぼうにうなずく。しかし、格好は変わらず、とても大丈夫そうには見えなかった。
ロキオは、マナを元気付けようと表の通りに出てジュースを買いに行った。
店内に入ると、フルーツジュースの隣に元気ポーションが置いてある。[落ち込んだ時に一杯]というキャッチコピーが棚の看板に張られているの見て、ロキオは買うことに決めた。
ロキオがマナのところに帰ると、マントを着た男が彼女に隣に立っていた。その男は、どうやらマナと何かしゃべっているらしく、彼女の表情は穏やかに見えた。
ロキオは、盗み聞きできるように、足音を下げてゆっくり二人に近づく。しかし、あともう少しというところで、小石を転がしてしまった。マナとマントの男は、ロキオを見る。男はすぐさまフードを取って、自身の顔をあらわにした。
マントの男は、カラスだった。
彼は、ロキオを見るなり、会釈する。ロキオも慌てて会釈し返した。
「あの、カラスさん、何しているんですか?エリックさんと会えました?」ロキオは、尋ねた。
「エリック?ああ、会えたよ。マナにも言ったんだけど、今ギルドやばいじゃん?お前ら無事だったんかなと思ってさ」
「そう、カラスさんは、私たちの心配をしてくれていたの。ところで、カラスさんは、今夜どうするの?」とマナ。
「俺か?俺は、野宿よ。ここしばらくはそうだった。まあ、それはさておきだな、ギルドがエギル家に襲撃されて、エリックが連れ去られた。あいつらの事だ、今頃エリックは、拷問続きだろうな。どうする?助けにいくか?行くなら、俺も協力するぜ」
「エギル家?なんの話?それ」
「そっか、ロキオは知らないか。なら、教えてやろう。あれは、エギル家の店主エギルの美人妻をロキが寝取ったところから始まり、最後にはロキがエギルを刺したところからエギル一派のギルド襲撃が起こったかなりやばい騒動だったんだぜ」
「それマナさんから、ちょっとだけ聞いたことある。それって完全にロキが悪いよね?」ロキオは、少しはしゃいだ様子でそう言った。
「ここにはいないが、俺は、ドイルとも連絡を取り合っている。彼女も一度はエギル家に捕まっていたらしいんだが、流石といったところか抜け出してきたみたいだぜ。今は、ヴァンの家に身を隠している。
お、そうだ。お前たちもよかったら、ヴァンに家に行かねーか?開けてくれると思うぜ」
「そ、そういえば」 ロキオは、言いにくそうに少し前の出来事を振り返りながら、何かを伝えようとする。「カラスさんの親御さん、街人達に狙われているらしい。さっき、偶然聞いたんだけど」
「知ってるよ」とカラスは、平気な顔をして返す。ロキオは、驚いた顔でカラスを二度見した。
「カラス、、、、。いやじゃないの?君は一体、何を考えているんだ。アレクサンダーさん殺害も、君の陰謀なのかい?」
「俺は、エリックの味方だよ。それに、マナの味方でもある。でも、ロキオの味方ではないよ」
「なんだよ」とロキオは、返した。「なんだよ、ひょっとしてマナもカラスのグルなんじゃないの?さっき二人で何話してたんだよ!僕に秘密ごと?なんだか信用できなくなってきちゃった」
ロキオは、目に涙をため、その場を離れて何処かに向かって歩き出す。それを、マナがとめようとするも、ロキオは振り切って、曲がり角で姿を完全に消してしまった。
「ああ、どうしましょ。もう、ギルドは崩壊だわ。エリックになんて詫びればいいのやら」マナは、嘆いてそう言った。
「崩壊するべくして、崩壊したんだよ。ロキのギルドは。エリックは、ロキオを利用してギルドの再建を企んでいたみたいだが、身内にそれを望んでいないものがいたんじゃ、そりゃうまくいかんわなって感じだ」
「まさか、クロヌマが裏切り者だったなんてね」
ジドは、一通りの治療が終わると、担架に運ばれて、馬車に乗せられた。
「ちょっと、もうすこしくらい病院に居させてくれたっていいじゃない」とジドは、喚く。
「駄目だ。ルールでね。負傷した受刑者は、住所がある街に送還する決まりがあるんだ。他の街人にまで、税金はさほどかけてやれん」担架を持つ一人が口に言った。
「何?じゃあ、私、テイワに戻れるわけ?なんだ、分かってるじゃないのよ!」
「まあ、刑務所なのは変わりないがな」
「なんよ!私の罪は誤解が解けたはずよ!どうして、まだ罪人なのよ!」
「お前、受刑者じゃなかったら、テイワにもどれないからな」
そう言い終わると同時に、馬車の扉を強引にしめられた。ジドが中から何やら、喚いているが、お構いなしに馬車は揺れ始めた。
ロキオは、テイワに戻ることに決めていた。街を救うために、エリックの誘いにのった彼だが、いまさらになって後悔している。ぶつぶつ愚痴を言いながら、通りをのろりのろりと歩いていた。
歩きながら、ロキオの頭の中でないはずの記憶が姿を現していた。
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