第36話 ギルドの崩壊。

 ロキオとマナは、お互いに顔を見合わせた。

 二人は、もう一度前方の光景を視界に入れた。そして、二人は、再び互いの顔を見た。

 「これじゃあ、ギルドに戻れないね」とロキオは、言う。

 「そうね、すごい数の人だかりだわ。この様子じゃ、昨日使った裏門も使えないだろうし、ギルド内の安全も分からないわ」

 「エリック達は、どうしてるだろう。無事かな」

 「人の心配をしている場合じゃないわよ。私たちだって、危ないわよ。兎に角、何処かかくまってもらえるところを探しましょうよ」

 マナが人だかりとは、逆向きの方向に歩き出すと、ロキオはそれに付いて行った。

 ロキオが隣に並んだことを認識すると、マナは、再び話し出した。

 「私の家に一度行ってみましょ。それがだめだったら、私の信頼のおける友人に話を持ち掛けてみるわ」

 マナは、顔を覆う布の隙間から、笑顔を咲かせた。任せて、と言っている。ロキオは、それを見て、安堵した気分になった。

 

 「あら、ここにも反ロキ派の人たちがいるのね。あ~、お気に入りのシオンの花壇が..。今夜は、ここで寝れないわね」

 二人の目の前には、ロキの絵にバツ印を加えた看板を掲げる街人達の姿があった。彼らの中には、日常的な刃物を携えている者までいた。

 マナの家から、3、4人の男達が出てくるのが見えた。彼らの手には、角材や鉄の桑が握られている。

 「あら、ヤダ」マナは、口を抑えてそうこぼした。流石に家の中にまでは、被害が及んでいないだろうと思っていたのか、マナは、ショックを隠しきれない様子だった。

 「マナさん、早く行きましょう。ここは、あぶないです」

 ロキオは、顔を俯かせるマナの腕をひっぱり、人気のない路地裏へ連れて行った。

 路地裏で、マナは、しっかりと泣いた。涙を流して、悲しそうなボイスも少しだが出た。ロキオは、彼女を慰めつつも、周囲の目を意識した。すると、ばったり表を歩いていた年嵩の女と目が合い、様子を伺いに彼女がロキオ達の方へ歩いてきた。

 「あらあら、大丈夫かいな。お兄ちゃん、なにかしたんかい?」と女は、冗談交じりに言う。

 ロキオは、慌てて後ろを振り向くと、大きなハット帽の下にある付け髭を直した。戻って、「ま、まさか~」とロキオは、笑いながら手を振って否定した。

 女は、ニコニコしながら、手提げからみかんを一つ取り出した。「これでも食べる?」と言って、それをマナに差し出す。

 マナは、小さく「あ、ありがとうございます」と感謝を述べて、それを受け取った。

 その時、どこからか男の声が聞こえてきた。「もう、おばあちゃん。うちだって家計が大変なんだから、折角の売り物を上げないでよ」

 女の元に、どこからか若い男が走ってやってきた。彼は、着くなり手渡されたみかんを取り上げた。

 「なによ、いいじゃないの。あんたはいっつもいっつも、売り上げのことばっかり。そんなケチくさいことばっかやっていたら、そのうち貧乏病になっちゃうからね!私の若いころは..」

 「あ~もう、うるさいな~。実際に貧乏なんだから、仕方ないだろ。だから、早くこの街から引っ越そうって言ったのに、ばあちゃんが残るってうるさいんだから」

 「そら、あんたはまだ生まれて20年も経っていないかもしれないけどね、アタシは、この街に50年以上も住んできたんだからね。このあほ孫が!」

 「あ!私、いらないです」とマナが二人の間に割り込んだ。右手を振って、拒絶を強める。

 「あら、そう?ごめんなさいね。迷惑だったね。は~あ、こんなに貧乏じゃなければなぁ。こんな貧しくてつらい生活を送らされているのは、すべてロキのせい。あいつさえいなければ..」

 「もう少しの辛抱だよ、ばあちゃん。近所の魚屋さんが、エリックの親の家を襲撃しに行ったらしいぜ。マナやカラス達の身内のもすでに群衆の手がいっている。今日、いや、ここ数日でこの街のゴミは、すべて排除されるだろうな」

 マナは、すぐさまハッとし、表情をおどろおどろしくさせた。立ち上がり、男の肩をつかんだ。

 「お、おう。そんな怒るなよ、いきなり喧嘩見せちまって悪かっな」と男は、話す。そう言っても、マナの問い詰める雰囲気が変わらなかったので、男は、気味が悪くなった。

 男が困り果てているのを見て、ロキオは、マナを彼から引き離した。

 ロキオは、声を変えて「申し訳ないです」と謝罪する。そのまま、彼女を強引に引っ張って別の人気のない路地裏に連れこんだ。


 「引き揚げろ」 

 ウギルが、そう命ずると二本のチェーンが同時に巻かれ、水で満たされていた大樽の中からエリックが顔を出した。エリックは、上裸で激しく息切れをしている。彼の睨んだ先では、ウギルとエギルが悠々とあぐらをかいていた。

 エリックの後ろを通る横向きの丸太に、彼は両手を括り付けられている。丸太の両端には、先ほど巻かれたチェーンが結ばれていて、それが引き揚げのシステムを担っているようだ。

 「そろそろ、ロキのありかを話す気になったか?」とエギル。

 それに対して、エリックは、「知るかよ。お前らの言う、秘密部屋にでもいるんじゃねーのか?」と返した。

 ウギルは、立ち上がってこう言った。

 「そうか、それならこうしよう。お前が話す気になったら、合図をくれ。引き揚げてやる。ただし、ふざけたことぬかしやがったら。ただじゃすまねーからな」

 「望むところだ」エリックは、二ヤついてそう言った。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る