第35話 ジド、刺される。
「久しぶりだな。元気そうで何よりだ、エリック。今回は、逃がさないぜ」
ウギルは、歯をキラリと光らせて、そう言う。一見、陽気そうな表情に見えるが、よく見るとそう奥に揺るぎない険しいものが隠れていた。
「ようウギルさん。おかげさまでな。エギルの傷も癒えたようじゃねーか。一安心だぜ」とエリックは、ウギルの圧に負けないように強く出た。
ウギルは、一瞬にして顔を変えた。真剣一色のその顔は、横に向けられる。
「ロキは、どうした。肝心のやつが見つからない。エリック、お前一人を粉々にしてもいいが、それじゃあ俺たちを応援してくれている輩も気が晴れんだろう。どうせ、前回みたいにどこか秘密部屋にでも隠れているんだろ?」
エリックは、ロキオがいないことを知り、心の中で安堵した。他のギルドメンバーの安否も知りたくなり、かまをかけるようにこう尋ねた。
「当たり前だ。ロキ様は、今お出かけ中だ。あと、お前らの事だから無差別にギルドにいたやつらを捕えているだろうけど、俺が全部、肩代わりするから解放してやれ」
「フン!」ウギルは、鼻を高く鳴らす。
「ギルドには、ドイルとかいう婆しかいなかった。前と変わらんな。全く、ごきぶりのようなやつらめ、しぶとく生き残りやがって」
ウギルは、顎で指示を出すと、エリックはまた筋肉隆々の男二人に連れだされた。エリックは、エギル家のデザインが施された馬車に、直前で手錠をはめられて、乗せられた。
前庭に停められていたそれの小窓からでも、前の通りに反ロキのデモが復活しているのが分かった。見渡す限り人ひとひと。エリックは、むしろ馬車に乗せられて良かった、と思い、肩をなでおろした。
カラスは、ジドのいる牢獄の前に放置されていた椅子をまたがった。
椅子のコトッとする音に、横になっていたガビが反応する。上体を上げて、鉄格子の外に顔を向けた。
「エリック?いや違うわね。あれ、誰かしら。マントの男?」ジドは、眠たい目をこすり、側頭葉を働かせた。
「お前は無実だ。ここから、出してほしいか?」とカラス。
ジドは、あまり理解できなかったが、「あら、分かっているじゃない。私は、無実よ。早く出して頂戴!」と返事した。
カラスは、ポッケから、じゃらじゃらとキーが沢山ついたリングを摘み出すと、端っこから順に、鍵穴に差し込んでいった。
三分の二が済んだくらいで、やっと合うものが見つかった。黒板をひっかくような耳に効く音がしたかとおもうと、続けてガチャンと求めていた音が鳴った。
すぐさま鈍い音を立てながら、カラスは、扉を開く。ジドは、嬉しそうにそこから外に出た。その瞬間、ジドの脇腹あたりに鋭利な刃が刺さった。ジドは、突然の出来事にビックリして、「ぎょえ~!」と悲鳴を上げる。
刺したのは、カラスだ。
ジドは、意識を失いそうになる。カラスは、フラフラのガビの体を支えると、もう一度ナイフを突き刺した。
ジドの反応がなくなると、カラスは、彼を床に寝転がせて、ドクドクと血が流れ出ているのを確認してから、その場を後にした。
ロキオとマナは、ジドが血だらけで倒れているのを発見した。
二人は、駆け寄り、ロキオが眼球の確認をし、マナが傷口を視診した。
「まだ傷は新しいわ。早く病院に運びましょ、急げば間に合うわよ」
ロキオは、「本当?」と明るく。
マナは、急いで階段を駆け上がると、管理室にいる刑務官達に声をかけた。
「刑務官さんたち!下で受刑者が一人刺されて倒れてるわ!ちょっと来て頂戴」
室内にいた刑務官全員が、驚きの表情を作り、内3人が階段を駆け下りて行った。
先頭の一人が声を上げる。「あ!ロキ様!」 エギルの一件だからか、三人の刑務官は皆、殺傷行為は、ロキオのせいだとその場で承知した。
刑務官達は、一人は他の牢獄のチェック、一人は傷の応急処置、一人はロキオに説明を求めると役割分担した。
「ロキ様、どどどどうしてまたこのようなことを?」
「え?え?え?何のことです?」ロキオは、目をきょろきょろと狼狽する。
「だから、えっとこの人は..ガビさん?ガビさんをどうして刺したりするようなことをなさったのですか?」
「ぼ、僕じゃないよ~」
ロキオに対面している刑務官は、悲しい顔をした。手元においた報告シートに、ギルドマスターの二重人格の可能性について、記述した。
この街は、ほとんど崩壊したもんだ。早く家族連れて脱出しないと。
ジドは、あとから来た担架持ちの刑務官2人に運ばれていった。担架の後を、ロキオが続いて登っていった。
報告シートを持っている刑務官は、残って後片づけをしている刑務官達にため息交じりの愚痴をこぼした。
「ロキのやろうよ~。あいつは、もう駄目だぜ。いつの間にか、第一人称が僕になってやがる。ありゃ、二重人格か、それを装った犯行だな。完全に小物だ、この街がまだ成り立っているのが不思議だぜ」
「ばかっ、声落とせよ。まだ、いるかもしれんだろ?」
愚痴った刑務官は、しまったと口を抑えた。その後、3人は、小言で会話を再開した。
階段の途中で、ロキオは、刑務官たちの話を聞いていた。小言でも、彼らの話は、ロキオの耳にまで届いていた。
マナが上から、顔を出した。彼女は、暗い表情のロキオを見て、声をかけようとする。ロキオは、慌ててそれを止めた。
そして、唇の間に人差し指を一本立てて、ゆっくり階段を登って行った。
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