第34話 エリック、目覚めたら。
マナのおっぱいをかぐように、ロキオは彼女の傍に立った。
背中から、ため息や小言が聞こえてきた。険悪な雰囲気が背筋から流れ込んできて、首筋をピリピリとさせた。
「マナさん..どうして僕こんな悪く言われてるの?」ロキオは、泣き声でそっとささやいた。
「これがロキの代役を務めるということよ」とマナは、小さく返した。
ロキオは、討伐隊の方を振り返ってみた。
ラリッドが、ロキオを睨んでいる。スンナを背負って運んであげる優しさを目の当たりにしていたロキオは、彼の冷たい目線に涙が零れ落ちそうになった。
ラリッドが視線をそらすと、入れ替わるようにアンがロキオの方を見た。
彼女は、悪い雰囲気をどうにかしようと周囲をキョロキョロしていた。悪く言われていたロキオに、悲しみの眼差しを送りながら、手と足をパタパタさせている。
「ラージャンの集団ってのは、大体何体ぐらいいるんだ?」と重い空気に耐えかねたラリッドがココに訊いた。
「5体から10体が平均だよ。もちろん例外もあるがね。俺も街、丸ごと潰した話を聞いたことがある、ソフィーと同じ話かどうかは分からんが。その時は、ラージャンが約20体くらいいたらしいんだ。今回は、違うことを望むね」
「ふっ、ラージャンが20体か」ラリッドが、そう言うと後ろにやった両手で飛びあがるように地面を突いて、立ち上がった。「俺の使えるつてをフル活用して、ラージャンの襲撃に備える。今日は、各自、街に戻って傷をいやそう。負傷者もいる、みんなよく頑張った。休もう休もう」
ラリッドの掛け声で、他の討伐隊全員が立ち上がった。
アンは、みんなの顔色を窺いながら、まだ自身の指揮が必要なのかを思案している。そんな彼女をお構いなしに討伐隊は、リリアンを筆頭に次々とその場を離れていった。
最後に残ったのは、ソフィーだった。ソフィーは、アンに歩きより、「街までお送りしましょう」と声をかけた。アンがにっこり笑い、「お願いするわ」と返事すると、ソフィーは、次にロキオ達の方を見た。
「ロキ様、マナ様。お二人も私がお守りします」
「ありがとうソフィーさん。さっ、ロキオ行きましょ」
ロキオとマナは、顔を見合わせた。二人とも、口元を抑えている。
「ロキオ?」とソフィーは、訝しそうに言った。
「違うの。こ、これは、言い間違えて」とマナは、必死になって訂正しようとする。しかし、それがさらにソフィーを怪しませる要因となった。
「マナ!隠していることがあるなら、言って!私は、街のハンターの顔なのよ。私にだって知る権利があるわ」
マナは、アンと顔を見合わせた。アンは、諦めたようにうなずいている。
マナは、渋々ソフィーにすべて打ち明ける事にした。ソフィーは、案外分かってくれた。さらには、歯にずっと詰まっていた物がとれたようにすっきりした表情を見せた。
マナは、一安心するも、エリックとの約束を守れなくて、どうしようかと頭を悩ませることなった。
エリックが目を覚ますと、自身がカラスのベッドの上に寝かされていることが分かった。どうやらお酒を飲んで、少し気分がよくなったあとウトウトして、気がついたら寝てしまっていたみたいだ。
カラスは、部屋にいない。
毛布を掛けたのはカラスか、とエリックは、毛布を見ながらあれこれとおもいばかる。次に、カラスはどこだ、と思い、ベッドから飛び降りた。
身のまわりのポケットを手探りで確認すると、目的の懐中時計が見つかった。
えっと、今は6時..まだ夕方か。いや俺がカラスを見つけ出したのは、6時半頃だったはず。ということは....。
エリックは、焦った。ここ最近、寝れていなかった代償がここで出たか、と思った。
エリックは、慌てて部屋を出た。彼は、何としてもカラスを見つけ出さねばならなかった。
エリックは、分かれ道まで行くと、勢いよくUターンして、さっきの部屋に戻ってきた。
分かれ道で、エギル一家が攻め込んできているのが分かったからだ。
どうやら、まだエリックがいる側の通路には来ていないみたいで、「こっちには、いないぞ」などと話し合っているのが、エリックの耳に入った。今回は、エギルもいるみたいで彼の名前が呼ばれているのも聞こえた。
エリックは、当然、心が慌ただしくなり、部屋の中を行ったり来たりする。あれこれ解決策を並べてみるが、カラスのことを頭の片隅に置き続けていると、すべてが今一つな物に感じた。
そうこうしているうちに、通路を歩く足音が響いてきた。
エリックは、とりあえず、部屋を見渡し隠れれそうなところを探す。
さっき右往左往していた時に感じた床の違和感を頼りに、わずかにゆがむところを引っ張り上げてみた。
空間が顔を出し、エリックよ中へおいで、と誘っている。エリックは、いざなわれるように、身を中に投じると床板をそっと閉じた。
床板は、閉じなかった。エリックの頭の上に乗っかり、部屋を忍者屋敷に変貌させた。
エリックは、閉じきるように体の折り方を工夫するも、ガタガタ音をたてているうちにエギル一家が、中に入ってきた。
当然のように、エリックは、潤沢な肉体美の大男二人に持ち上げられ、ドンのウギルいるとこに連れていかれた。
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