第33話 ラージャン討伐達成。

 ラージャンのパンチをソフィーは、間一髪でかわすと体勢の制御が上手くいかず、着地に失敗した。頭を打った彼女は、たんこぶに手を乗せながら立ち上がった。そんな彼女に、息を吐く暇も与えない次なる攻撃が襲いかかった。

 またかわすと、彼女は、次は木の陰に隠れた。モグラ叩きの要領だ。葉の茂みを利用し、適当な木を決め、それにつたって降りると、ラージャンは惑わされる。

 ラージャンは、ソフィーの狙い通り突然の消失に戸惑いを見せつつも、どれかの木の陰に彼女がいることを推察しているようで、眼前の木々一本一本に目を配る。ソフィーは、こっそり地面にあった小石を隙を見計らって、投げてみた。すると、ラージャンは、まんまとそれに騙されて、小石の転がっていった方向に歩いて行った。

 ソフィーは、これは使える、と思った。

 ソフィーは、大声を上げた。それは、ラージャンをおびき寄せるためだけでなく、周囲のモンスターたちを追っ払う意味でもあった。

 ラージャンは、もちろん大声のした方へ歩いて行った。行く手を阻む木々は、ソフィーの出現を警戒しながらも勢いよく横殴りをして、吹き飛ばす。

 4本目の木を吹き飛ばそうとした時、その木の上からソフィーの大声が再び聞こえた。

 ラージャンが、上を向きソフィーの影を発見した。上半身を持ち上げて、後ろ脚をバネのように扱い、それにとびかかろうとする。しかし、途中で影がソフィーのものではないことを証明する不自然な穴が見えた。

 中途半端な腹出しの姿勢。ラージャンが、偽ソフィーに気付いたのと同時に、どこかの上空から舞い降りてきたソフィーがラージャンの腹を剣で思いっ切り突き刺した。

 ラージャンの中途半端な注意深さが仇となった。そのまま、飛び上がっていれば、ラージャンは逃れられていただろう。またまたソフィーの狙い通りになった。

 彼女の剣は、ガードの手前まで埋まった。ラージャンは、膝から崩れ落ちて、それより上はしなるように激しく地面にたたきつけられた。腹を地に向けて倒れたため、剣はさらに奥深くまで埋蔵されることとなった。

 ラージャンから発せられていた光が、少しずつ弱くなっていく。彼女のおかげで、昼間のようになっていた周辺も、視力が下がっていくように見え辛くなっていった。

 ラージャンの光が、完全に消滅してしまう前に討伐隊がソフィーの元にやって来たた。ココを先頭に、アンがリリアンと身を寄せながら続いて、最後にラリッドがスンナを背負っている。

 ラリッドは、体重の計り知れないスンナを運んだため、降ろしたあと、両足の震えが止まらない様子だ。スンナがそれを見て、申し訳なさそうにするが、気前のよく兄貴肌なラリッドは、「気にスンナ」と明るく返した。 

 

 夜明けの少し前にようやく、ロキオとマナが討伐隊と合流した。

 討伐隊は、皆よかったよかった、と胸をなでおろす。しかし、ココだけは、しばらくすると渋い顔つきになった。

 「どうしたの?ココ」とソフィーは、尋ねた。

 それに対して、ココは、冷や汗をかきながら話始めた。

 「子供のラージャンは、基本的に、母親と一緒に過ごすんだ。移住をするとき以外はな。

 オスは、そもそも人間のすむところまで降りてこない。だから、人間と接触するラージャンは、基本的に子供とメスのみとなる。この二つは基本安全だ。好戦的じゃない。

 だけど、前にも言った通り、ラージャンは身内や所有物にうるさい。子供とその母親が殺されたとなると、ラージャンのオスどもは黙っちゃいてくれねーだろうな」

 「オスは、メスよりも狂暴なのか?」とラリッド。

 「もちろんだ。オスは、デカいんだ。あのメスよりな」ココは、ラージャンの死体へ顎でくいっと示すと、話を続ける。「ただ、子供を守るメスよりかは弱いかもな。とはいえ、おそらく、今回のラージャンは、モグリの森に迷い込んだ子供に脅威となるハンターを片っ端から、脅していただけに違いないがな」

 「オスはオスでも、集団のオスたち全員でしょ?私、どっかで集団のラージャンに潰された街の話聞いたことあるわ」とソフィーは、言った。

 ココは、「その通りだ」と得意げに返した。

 ココの話を聞いていた他の全員は、顔を青ざめる。おどろおどろしい話に、お互いの顔を見合わせた。

 ココは、自信ありげにフンと鼻を鳴らした。

 それに対し、リリアンが「あんたが狩りなんてしなかったら、こんな危ないことにはならなかったのよ」と突っ込んだ。

 この乱れている空気をただすのはマスターの役目だ、とロキオは、思った。

 彼は、一行の中心に立って、右手を振り上げた。

 「みんな!聞いて!!」

 全員の顔がロキオに向いた。

 「今回は、ラージャンって分からなかったから、手こずった訳でしょ?でも、分かった今なら対策を取れるよ。作戦を練れるよ。それに、スンナやソフィーだって分からずの状態で、好戦できてたわけでしょ?戦えるよ!!」

 ロキオは、みんなを勇気づけるいい演説ができたと思い、口元が緩む。しかし、彼を取り巻く視線は冷ややかなものだった。

 「うるせぇよ」「お前が戦うわけじゃないだろ」と、どこからか聞こえる。舌打ちも聞こえた。

 ロキオは、おじけづいた。身を縮め、湿った目であたりを見渡した。

 だれも、ロキオをいい顔で見ていない。ロキオは、その場を離れて、マナにすり寄った。

 

 

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