第31話 討伐隊集合。

 ラージャンがスンナの隣に立った。

 ラージャンは、スンナに足踏み攻撃を喰らわそうと、両前足をスンナの頭上に振り上げた。

 スンナの頭に、死の意識から走馬灯が流れ始めた。すると、故郷で親族たちとの過ごした日々が浮かんでくる。楽しくもロスタルジックな思い出に、未練がましい感情が湧いてきた。

 勢いよく下される足に、スンナは、間一髪でかわすと、散らばった弓と矢を走って回収した。そして、さっきと同じように巨大な輝弓を三点で支えると、思いっきり弦を引いた。

 ラージャンは、さっきと同じように発光を抑えて始めた。

 スンナは、その隙に弦を離した。

 輝矢は、ラージャンの今度は右脇を貫いていった。

 ラージャンは、両前足をやられた反動で、前方に崩れてしまった。顔面を地面に強打すると、そのままの状態でスンナの方に顔を向けて、悔しそうなため息をふかした。

 「ぐおおおおおお!!」と化物のため息は、深く爆音で、耳に染みる。

 スンナは、ラージャンと目が合い、寒気が、特に肩から脇にかけて、全身に流れた。 

 眼前の化け物に対する恐怖と、あともう少しだという緊張から、手の震えが止まらなくなった。弓をもう一度セットしようとするも、おぼつかない動きになる。足が滑ったと思うと、手からも弦が抜けて、弓が後方に転がっていってしまった。

 スンナは、慌ててそれを取りに行った。 

 スンナがラージャンに背中を向けた瞬間、ラージャンは、後ろ足をバネのように扱い、地面を一蹴りしてスンナに飛びかかった。

 突然、迫りくる明かりにスンナが気がつくも、もう遅い。ラージャンは、スンナの背中に溜まった脂肪をガイッと歯で噛んだ。

 スンナは、悲鳴を上げた。

 その時だった。ラージャンの額に、緑色に輝く剣が刺し込まれた。

 ラージャンは、呻き声とともにスンナの背中から離れた。負傷した前足で額の剣を抜こうとするも、上手くいかない。そうしているうちに、今度は黄色の剣が、どこからともなく飛んできて右頬に刺し込まれた。

 ラージャンは、遂に崩れる。

 「スンナ大丈夫か!」ソフィーの声だ。

 ソフィーは、いきなり暗闇から姿を現すと、ラージャンに刺さったままの二本の剣を抜き取った。それらを自身の二本の鞘にしまう。しかし、その動作を途中で止めた。

 「こ、これって…」

 ソフィーは、剣から滴り落ちる血に目がいった。

 彼女は、勢いよく剣を抜きとると、もう一度、染みのようになった血を見つめた。

 「この血って、触れただけで鉄が錆びると言われている…なるほどね」

 ソフィーとラージャンは、睨み合った。

 ソフィーは、愛用していた双剣が使えなくなり、途方に暮れる。予備の武器も一本あるが、使うと錆びてしまうので、どうしようもなかった。ラージャンは、ランクSSのハンターに気圧されて、身動きがとれない状態だ。

 ランタンを持ったアンが遅れてやってきた。

 彼女は、背中をさするスンナを見つけるなりすぐに、手当てを施した。

 ラージャンは、スンナの復活を恐れてか、自身の光を消して、真っ暗な森の中に消えていった。光がないため、ラージャンは、バキッバキッと木々を押し倒しながら、逃げていった。

 

 「スンナの矢だ!」ラリッドが言った。

 ラリッドは、空を指さしている。ココも同じ反応をして、こだまさせた。

 「早く行こうぜ!」ラリッドが付け加えた。

 

 討伐隊全員が揃った。

 しかし、スンナとリリアンが負傷。ココが軽い怪我を負っていて、ソフィーの武器がおだ仏になっていた。

 アンは、ラリッドに命じてスンナの手当てを手伝わせた。流石ベテランといったところか、ラリッドの手つきはアンをはるかに超えるものだった。

 一瞬でスンナの背中に、血止めが張り付けられた。

 「ありがとうございます。ラリッドさん!」アンは会釈した。

 「みんないるスンネ?全員集合スルル?」

 スンナが首をほぼ半回転させて、そう訊いてきた。

 疲労からか、無言を貫いてきたリリアンがスンナを見て「ひっ!」と悲鳴を上げる。

 「大変スル!ロキスンとマナスンがいないスル!」

 スンナ以外の5人は、一瞬にして血の気が引いた顔をした。

 「ままままままずいんじゃねーか?早く探しに行かないと!」とラリッド。

 「くそ、なんでこんなとこにロキとマナが!」とココ。

 「手分けして探しましょう。彼らはランタンとか持っているのかしら」とアンがいうと、ソフィーがそれを止めた。

 「待って、アンさん。私たちは、戦闘準備が不十分だわ。今、ロキ様たちが危機的状況なのは分かる。だけど、行ってもこの中の誰かが死ぬだけだと思うの。

 相手のモンスターの正体が分かったわ。ラージャンよ。そいつは、この世でもトップクラスに速く動けて、特にリリアンやラリッドには太刀打ち出来ない化け物なの」

 「おいおい、俺だって速く動けるぜ」とラリッドは、胸を張って否定した。

 「ハンマーを速く振れるかって話をしているのよ、ラリッド。確かに、あなたは足が速いって聞くわ。だけど、そんなの関係ないのよ。人間が出せるスピードじゃないの。普段から超スピードモンスターに慣れてないハンターたちには、荷が重すぎるわ。

 ラリッド、リリアン。2人は帰った方がいい」

 ソフィーは、心を鬼にしてそう言った。

 言い終わると、自身の双剣をチェックして、予想通り錆付いているのを確かめた。

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