第30話 ラージャン対スンナ
ロキオは、落ち葉と枝を拾って集中させると、そこにマッチで火をつけた。
マナがスンナの腕を引っ張って、スンナを火まで近づける。彼は、自身の虚な目に炎の陽炎を反射させた。
時刻は、陽が落ちる頃合い。空には、雲を縫うように炎色の夕空が広がっていた。
ロキオは、空と火を交互に見て、ほぼ同じ色彩になる瞬間を待つ遊びを始めた。マナは、夢中になっているロキオのために、カバンから毛布を取り出して、それを背中にかけてあげた。
突然、スンナが立ち上がった。指を指してこう言った。
「スルスルスル〜、あれ何スルか〜?」
スンナの様子は、通常通りではない。明らかに、心が乱されている。
しかし、普段のスンナを知らないロキオは、特段気に留めなかった。しかし、何もしない訳にはいかないので、スンナの指さす方を、体を傾けるだけして眺めた。
「何もないじゃない」
「スルスルスルスル、金色の生き物が点滅してるスルル〜!」
ロキオは、もう一度体を傾けた。彼の場所からだとスンナの言ってる方向は、火と被って見えづらい。ロキオには、その金色が切れ火に見えた。
「気のせいじゃない?それか水面かなんかに反射して、夕陽が映っているんだよ」ロキオの返答は、適当だった。
ロキオは、横で荷物整理に忙しいマナにも同意を求めた。
「ね、マナもそう思うでしょ?」
マナも「あん」とこれまた適当な返事をした。
「近付いてきてるスルルルルル〜!ロキ様逃げるスルル〜!昼間の奴スルルル」
スンナは、自身の服を剥ぎ取り、それで風を起こして火を消そうとした。
「待って待って!スンナ!どうしたんだよ」ロキオは、スンナのそばにより、彼の動きを止めた。
再び、スンナが指をさした。「ほら、いるスルいるスル」
ようやくロキオは、スンナの言っていることが分かった。
金色に光ったラージャンが、もうすぐそばまできているのが見えた。木を押し退けながら、ゆっくり歩いている。
ロキオは、全身に電気が流れると、大声でマナの名を呼んだ。マナもよくやくことの重大さに気付き、悲鳴を上げた。
「逃げよう!」とロキオは、2人の服を引っ張った。しかし、スンナは、動こうとしない。
「みんなで逃げても、殺されるだけでスルル。夜は光っているから、狙いやすいスル。ここは、僕に任せて欲しいスルル」
スンナの巨体には、鉛が詰まっているのか、さらに引っ張ってもびくともしなかった。
「行くスル!任せるスル!!」
ラージャンがあと5mくらい間近まで、迫ってきていた。輝くゴリラ顔の中でも一際、眼球が光りを放っていて、ライト代わりにもなっている。それがスンナたちを照らし始めた。
ロキオは、ついにその場を離れることにした。
マナと2人で真っ暗な森の奥へ進む。最初の数メートルは、ラージャンの明かりで分かるが、それ以降は手探りだ。マナと体を寄せて、4本の腕をフル活用させた。
ラージャンが、スンナの目前で大きく口を開き、吠えた。けたたましい爆音と、それによる衝撃が周辺に広がった。
ロキオとマナは、耳を塞いでその場にしゃがみ込む。しかし、スンナは、耐えて、顔色一つ変えなかった。
スンナは、木製のバッグを地面に置く。その時、ドシンと鈍い音がした。バッグをシャッター状に開くと、中から青白い弓と普通の木の矢を数本取り出した。
スンナは、弓の弦穴に矢を通すと、そのまま引いた。弓は光り、弦を引く力を強めるたびにその神々しい明かりは、強度を高めた。
ラージャンは、負けじと自身の光を強めた。またそれと同時に、毛が逆立ち、体が増幅しているように見えた。
「スルスルスンナッナ!」
スンナが突然、呪文を唱えたかと思うと、彼の持っている弓が3倍の大きさになった。手だけで扱える代物じゃなくなったので、下部を地面の土で固定して、左足で弓柄をグッと押し込んだ。
ほんの数秒、2体はただ向き合い、ラージャンの飛びかかりがそれを壊した。
ラージャンが狙いの位置に来たのを見計らうと、スンナは、弦を離した。
離した瞬間、弓の光が矢に全て移った。矢は、目では決して追えないような速度を上げて、ラージャンの脇を貫いた。
ラージャンは、呻き声を上げて、背中から落ちるもすぐに立ち上がった。血が溢れ出す左脇を気にしだすも、すぐにスンナの方に向き直った。
スンナは、慌てて2本目をセットした。
例の如く、弓を3点で支えて、矢を放つ。
ラージャンは、その瞬間、自身の光を弱めたかと思うと、一瞬でスンナの脇に立った。
腰を抜かすスンナ。不発に終わった輝矢は、花火のように上空で爆発して散った。
ラージャンは、目で追えない速度のパンチを繰り出した。
スンナの体は、木のてっぺんを少し超えるくらい宙に浮き、やがて地面に落下した。
スンナは、終わった、と思った。
ラージャンがスンナに近付くなか、スンナは、恐怖で身動きが取れなかった。夜空を眺めながら、ラージャンの重たい足音を聞いていた。
リリアンは、治療の為、服がはだけていた。
施術を施したのは、ラリッド。リリアンは、彼に怒っていた。
「ねぇ!私の胸見たでしょ?キモいんだけど」
「ちゃんと、隠したぜ。リリアンお嬢様」ラリッドは、含み笑いをした。すると、リリアンは不貞腐れたように黙り込んでしまった。
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