第29話 巨大モンスターとの戦闘。

 ココ、ラリッド、リリアンの三人は、ココの案内で、集合場所だった開きに向かっていた。

 時刻は、夕時にさしかかる頃。風が涼しくなり始めていた。寒気で服に染みている汗が気になった。昼時に集まった討伐隊にも、若干の疲れが見えてきた頃あいだ。

 「私たちって、いつ帰るんだっけ?」リリアンが言った。彼女は、歩きながら、槍をさかさまにして、それを杖のように扱っている。

 「陽が落ちるまでには、帰るつもりだったはずだけど」ラリッドが、受け応えた。リリアンに比べたら、彼は、まだ元気な方だ。筋肉量の差だろうか、彼は、ハンマーを背負れるくらいの潤沢な体を持っていた。

 「しかし、なんでこんな遅くの時間にわれわれを招集したのだろうか。討伐対象が、光るといううわさからだろうか」ココは、あごに手をあててそう言った。小動物狩りに従事していた彼であったが、三人のなかでもっとも元気な様子をみせている。

 ココが突然立ち止まった。前を向きながら、後方の二人に掌を見せた。リリアン、ラリッドは、すぐに立ち止まった。立ち止まったのを確認すると、ココは木の陰に隠れるようにして、その先の景色を注意深く眺めた。

 「しっ。ラージャンだ。おそらく、こいつが今回の討伐対象だろう。特徴が一致している。この森では、めったに現れない生き物だがな」

 ココは、そう言うと、木に背中からもたれかかって、腕を組んだ。

 「俺は、昔だがこいつの討伐に成功したことがある。もちろん、一人ではなく、10人以上のハンターたちとでだ」

 「本当か?助かるぜ。それで、弱点はなんだ?俺達は、どう戦えばいい?」

 「戦術はまだだ。弱点はだな、基本的に夜間だと思ってもらえればいいい。ラージャンは、昼間は非常に俊足でとても手に負える状態じゃない。しかし、夜間になると、発光する習性があるため、その間は発光にエネルギーがとられて速さが昼間とは比べ物にならないくらい落ちる。

 あとは、腹と目だな。ラージャンは空気抵抗を避けるため、胴体が縦に細長くなっている。そのため、大事な臓器が腹の底に溜まっているわけだ」

 ココが一通り説明し終わると、ラリッドもラージャンを覗こうと、前進した。ラリッドには、物珍しい生き物でも見てみよう、という気持ちであふれかえっていた。しかし、それが足元不注意のトラブルを起こす結果となった。

 ラリッドの足が、落ちている小枝を数本折った。その音に反応したのか、寝転んでいたラージャンが立ち上がった。

 ラージャンが立ち上がったおかげで、それの全貌が明らかとなった。ゴリアの顔に、獅子の体、そして悪魔のような長い角を2本、頭に携えている。

 ラージャンは、注意深く周囲を見渡した。これといった異常が感じとれなかったのか、その場を離れようと歩き出した。

 不幸なことに、ラージャンが歩き出した先は、ココたちのいる方面だ。

 ラリッドの顔色が曇り、リリアンは、彼の表情を見て、覚悟を決めた。 

 ココが口に人差し指を当てて、手の動きで次の指示を出した。

 ココの出した右左の交互の指示は、ラリッドとリリアンを逆方向に歩かせて、ラージャンの注意を分散させることが目的だ。

 狙い通り、ラージャンは、右にリリアンを発見するも、同タイミングで逆側にラリッドの姿も発見した。

 ラージャンが戸惑う夢のひと時は、刹那と共に終わりを迎えた。ラージャンは、リリアンに襲いかかった。しかし、それを読んでいたかのようにココがリリアンの横から姿を現すと、ラージャンの角を両手で抑え、腹の部分に蹴りを入れた。

 ラージャンは、横転し、大笑いしているかのように、腹を抱えてドタバタ暴れた。

 ココは、すかさず、ラージャンの上に飛び移り、腰から片手剣を抜き取った。持つ向きを変えて、剣を真下に突き刺した。刃は、確かに刺さったが、皮膚の硬いラージャンに、深くは侵入しなかった。

 ココが作った時間を無駄にしないよう、ラリッドがハンマー構えながら、ラージャンに迫った。リリアンも布袋を引っ張って、槍を裸にさせた。

 ラリッドの一振りが、ラージャンの腹にぶち込んまれそうになった瞬間、ラージャンの目に光が宿った。

 ラージャンは、一瞬で、その場を抜けるとリリアンの背後に移動した。リリアンは、背後に迫る殺気に悪寒が走った。

 ラージャンの消失に合わせて下がってきたココ。ラリッドの一振りは、勢いを途中で抑えこまれず、ハンマーがそのまま下から上の持ち上げられた。ラリッドに鈍い感触が伝わってきた。

 ココの片手剣は、空中を舞い、ココの右手に激痛が走った。彼は、地面に足がつくなり、膝もつき、右腕を抱えたまま獣のようにもだえ始めた。

 「きゃーーーーー!!」

 リリアンにも激痛が走った。

 ラージャンの足に槍を突き立てたようだが、それと同時にリリアンの体が一発ぶん殴られて吹き飛ばされた。リリアンは、脇腹から血が噴き出し、死んだようにぐったり倒れ込んだ。

 ラージャンは、その後数秒間、ココと対峙し、睨み合うと、そそくさとその場を離れていった。

 後ろ姿を見ていると、ラージャンの皮膚は、徐々に、金色に発光し始めていた。

 

 

 

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