第28話 スンナ、ロキオとマナと会う。
轟音の正体が襲ってきたら、ハンマー使いのラリッドが横振りをし、ランス使いのリリアンが頭上に槍を突き立てる。
これが、ラリッドの提案する全方位攻撃形態だ。下は、地面がすぐそこにあるため、危険はないだろうとみているみたいだ。
リリアンは、それに渋々同意した。
例の轟音がするまでその場で、休憩をとることにした。リリアンは、腰にかけていた布袋から、水筒を取り出した。皮革製のそれは、女性向けには少し大きくて、彼女が飲む時は、視野がかなり狭まる。
口に含んだ時、見えないところの茂みがざわめかされる物音が聞こえた。
「そこにいるのは誰?!」リリアンは、水筒を投げ捨てると、そう叫ぶ。警戒の目を向けつつ、横に転がしてある槍にゆっくりと手を伸ばした。
「な、なんだなんだ?」逆側を向いていたのか、ラリッドがリリアンの叫び声に反応した。
「そこの茂み、足音がしたわ。何かいる」
「どうせ、動物か、小さめのモンスターだろ」ラリッドは、リリアンが神経質になっているかのような物言いをした。
「妙よ。これ、私が今まで聞いたことない足音だわ」
ラリッドは、戦闘体勢のリリアンにならい、同じく武器をとった。彼女より少し後方に立ち、茂みからの敵に備えた。
2、3分経っただろうか、急にガササっと音がすると、視界に1人の男が入ってきた。
「ココじゃない…」リリアンは、腑抜けたようにそう言う。
ココは、背中の籠の中をゴソゴソいじくりながら、2人の存在に気付いた。
「あ!リリアンとラリッドじゃないか。ここで何してるんだ?10分までには戻らないと行けないぜ」
何も知らないのか、ココの口調は、とぼけているようにも聞こえる。リリアンは、当然のごとく、頭に血が昇った。
「なによ!あの轟音聞こえなかったわけ?そもそも10分経っているでしょ!あんた、一体何してたの?!」
「あれ、もう10分経ってるっけ?」
ココは、自身の懐中時計を取り出した。
「今で、9分と45秒だ」脇から、ラリッドが口を挟んできた。
「ほぼ10分じゃない!時間きっちりのココだと聞いてたんだけどね。嘘だったんだ!」
「何言ってるんだ?俺なら、ここから1秒足らずで、さっきの集合場所まで行けるぜ」
「流石、瞬足のココ。噂通りだな」ラリッドは、感心するようにそう言う。
「1秒?私をカモかなんかと一緒にしてるわけ?そんなこと出来るわけないじゃない!そもそも、集合場所がどこか正確に分かってるわけ?」
「分かるぜ」ココは、手に持っていた血濡れのジャッキーナイフを指で回転させ、腰の鞘に刺しこんだ。
リリアンは、あきれて黙ってしまう。
ラリッドは、「ふっ」と笑った。「血がついたままだと、使いもんにならなくなるぜ」とついでに助言する。
「大丈夫だ。これは、じき使い物にならなくなる。ちょっと珍しい生き物見つけてな、そいつの血に当たると、鉄は、必ず錆びてしまうんだ」
「オオシノヘビザイか?これまた珍しいものを見つけたな」
スンナの目の前に、ロキオとマナが現れた。
「あら、スンナさんじゃない」とマナ。ロキオは、装備したモンスターと初めて出会って、目をまん丸くする。
「マナさん、何すんか?」
「しゃ、喋る!?」ロキオは、一歩後ろに下がった。
「こちら、討伐隊のスンナさんよ。見た目は、人間っぽくないけど、立派にハンターやってるお方よ」
腰を下ろしていたスンナが立ち上がった。
「あれれれれ、ロキすんじゃないっすんな〜」
スンナは、手を伸ばす代わりに、舌で握手を求めた。マナは、慌ててそれを静止して、「こらこら、ロキ様に失礼でしょ?」と注意する。ロキオも、マナの発言に反応して、出そうとしていた手を下に降ろした。
「スンナ、他の皆んなはどこにいるの?ロキ様に討伐の様子をお見せしようと、連れてきたんだけど」マナは、続けてこう言った。
「スルスルスル〜、それが分からないすんな。みんなで休んでいると、いきなり轟音が聞こえて、そしたら、突然誰も居なくなって…」
スンナは、頭を抱えた。
マナは、彼のそばに寄り、背中をさすってなだめた。
「それで、吹き飛ばされてみんなと離れ離れになっちゃったってこと?」ロキオは、スンナの足元にあるへっこみを見てそう言った。
「そうする〜。吹き飛ばされたする〜。どうしよ、どうしよ」
スンナは、頭を抱えたまま、しゃがみ込んでしまった。
ロキオとマナは、その様子を見て、困った顔をした。
「どうしましょ〜、スンナさん、こうなると長いのよ」
マナとロキオは、顔を合わせると弱り顔をお互いに見せ、その場で彼の復活を待つことにした。
エリックは、ずっと無言のカラスが口を開いてくれるのを黙って待っていた。彼らがいるのは、カラスの個人部屋だ。
頬が痩せていたカラスは、エリックの勧めで、なんとか昼飯を口に運んでくれた。そのおかげで、彼の顔色は、幾分マシになったといえる。
エリックは、気が楽になれば話せるかもしれない、と思い、別部屋から酒を持ってきた。
それを、コップに半分くらいまで注ぎ、カラスの手元に差し出した。
「俺も飲むからさ。お前も飲めよ」エリックは、作り笑いを見せた。
カラスは、とりあえず差し出されたコップを手に取る。中の液体を少し眺めて、やっと口に運んだ。
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