第26話 討伐隊、集結。

 「はぁ〜、うちの妹ったら。浮気なんてしちゃって、もうどうしたらいいの…」

 スオンは、ソフィーに愚痴をこぼした。

 2人は、宮殿のベランダで一休憩をとっている。彼女たち以外には、誰もそこにいない。

 「街長も街長だわ。彼、絶対浮気に気付いてるはずなの。シオンさんの演技力ですぐ分かっちゃったわ」ソフィーは、今朝負った自身の傷の様子を眺めながら、そう言う。傷口が塞がりはじめているのを見て、鉛を降ろしたような表情をみせた。

 「みんな腐ってるんだわ、この街の上の者は。

 私ね、ここに来た時に何となく感じたの。街人たちも、薄々気付いてるって。1人残らず腐っていることに。

 あ、でも、ロナウドとかいう騎士は、真っ当に感じたわ。街人たちもみんな彼のことが好きみたいだったしね」

 「ああ、あのナルシストのことね。私は、心配だわ。彼、自分がよく映るよう立ち回る癖があるのよね」

 「あら、ソフィーさんがそうおっしゃるなら、そうなのかしら。アレクサンダーからロナウドに代わって少しは好転するように感じたけど…まあ、しょうがないわ。ゆっくり外野から、滅びゆく街でも俯瞰してみようかしら」

 ソフィーは、視線を青空に向ける。しばらく無言を貫くと、慎重深くこう呟いた。

 「私の狩猟会に明らかに不釣り合いな親子がいたの。普段は、一般市民は観客できないのよ、あれ。ギルドの計らいでしょうけど、一体誰が考えたことなのかしらね」

 「考えすぎよ、ソフィーさん。間違って、庶民が紛れ込んだだけ。

 それより、私、ロキと一回、一対一で話してみたいわ。どんな神経してたら、あんな身勝手なことが出来るのか知りたい」


 ギルドの前庭に、5人のハンターが揃った。 

 右から順に、片手剣使いのココ、ハンターランクA級。

 ハンマー使いのラリッド、ハンターランクS級。 

 ランス使いのリリアン、ハンターランクA級。

 弓使いのスンナ、ハンターランクB級。

 そして、両手剣使いのソフィー、ハンターランクSS級。

 「皆さん、ちゃんと時間通りに集まりましたね」アンは、懐中時計を凝視しながらそう言った。

 「先に、告知していた通りに、今日集まって頂いたのは、モグリの森で突如出現した謎のモンスター討伐のためです。

 本日は、エリックさんがいらっしゃらないみたいですので、代わりに、この私が指揮を取らせて頂きます」

 アンは、言い終わると胸を張る。しかし、右足が震えていて、緊張しているみたいだ。

 「スルスル、アンちゃんがんばろーね?」スンナは、舌を出しながら、励ましの言葉を述べた。

 それに対して、横に立っているリリアンが気持ち悪がった。

 「あーやだやだ。ほんと気持ち悪いわ、この生き物」

 スンナは、容姿のことだろう。性別不明の彼は、体が水色のカビゴンみたいな風貌をしている。

 一部のハンターたちは、彼のことをモンスターの一種だろうとささやき合っている。しかし、モンスター図鑑にこのような見た目の生き物は、載っていないので、誰も強く出ることが出来ていなかった。

 「がははは、リリアンちゃん、まだスンナに慣れてないんだな!」大声のラリッドは、口を大にして笑う。

 「慣れるもんじゃないじゃない。ちょっと、この無神経な男になんか言ってやってよ、ココ」

クールなココは、腕組みをしていた。リリアンのキーキー声にも動じず、ゆっくり口を開く。

 「慣れることも大事だぞ。そもそも差別は良くない」

 「なんでよ!人じゃないじゃない!!」

 リリアンがココに飛びかかろうとしているところを、ラリッドが抑えた。

 怒った猫のようになっているリリアンをほったらかしにして、アンが話を進める。

 「えっと…、今から出発するのですが。準備は、良いですか?」

 「私は、良いわよ」

 終始、無言だったソフィーが即答した。彼女の一言で、残りの4人が彼女に視線を集めた。そして、皆、口々に「ソフィーさんがそう言うなら」などと納得するような小言を発する。

 アンは、少し心が安らんだように「では、行きますか!」と声を上げた。


 エリックは、カラスを隠し通路で見つけた。

 カラスは、2日間飯を食っていないのか、頬が凹んでいる。ろうそくを持つエリックと目があっても、逃げるような素振りを見せなかった。

 「よつ、久しぶりだな。何してたんだ?」

 カラスは、澱んだ唇が上手く動かないのか、少しの間、口をぱくぱくさせる。

 「クロヌマ…どこ…だろう…って」ようやく形になった言葉がエリックの耳に入った。

 「クロヌマか。どうして、あいつを探してるんだ?てか、あいつの遺体処理したのお前じゃなかったっけ?」

 エリックは、周囲にロウソクの明かりを向ける。

 「骨に…なった。俺が殺したのかもしれん」

 エリックが光をカラスに戻すと、彼の手元で白い棒が回されているのが見えた。そして、それが次第に骨に見えてきて、エリックは、ゾッとする。

 「おい、カラスそれって。骨じゃないか?もしかしてクロヌマの…」

 カラスは、一度エリックを見上げて、次に彼が指差す方を見た。手元の物以外にも、自分の陰になって見辛いが、骨が散乱しているのが分かった。

 カラスは、ハッとなってエリックの方を向いた。

 「クロヌマの遺言です。ロキを殺して下さい。もし、殺さなかったら、私を殺して下さい」

 カラスは、そう言い終わると、最後の一筋が切れたように、その場で姿勢を崩した。エリックが様子を確認すると、カラスは、気を失っているようだった。

 エリックは、カラスを背負うと来た道を急いで引き返していった。

 

 

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