第25話 ロナウド、ギルドに訪問。
ロキオは、新たな申請書を手に持っていた。
内容はこうだ。
最近、モグリの森でとある謎の巨大モンスターが出現しており、それを討伐するための討伐隊を編成して派遣してほしい。実力が未熟なハンターたちは、皆そいつにやられ、また、熟練のベテランでも命からがら逃げるのがやっとだったそうだ。しかし、狩りが仕事のハンターたちにとってモグリの森は、命を繋ぐ狩場だ。至急、申請してほしい。
「マナさんどうすれば良いと思う?」
「え~、またエリックいないの?私もよく知らないんだよね、こういうの。エリックが返ってくるまで待てない?」
「駄目だよ。さっき、マナさん、ハンター業の発展がどうとか言ってたじゃない」
「あー、もう分かったわよ。やればいいんでしょ!」
マナは、読みかけの本を面積の狭い机の上に置いた。ロキオに近寄り、彼の持っている紙に目を通す。
「目撃者からの情報によると、四本足の角を生やした巨大モンスター。そして、時折金色に輝く姿も目撃されている」
「マナさん的に、このモンスターなんだか分かる?」ロキオは、マナの顔を見ながらそう訊いた。
「う~ん、いくつか候補があるわ。ただ、モグリの森に突然現れて、ハンターたちが苦戦しているということは、外来種の可能性も考えられる。もしそうなら、調べないと。結構時間がかかるわ。カラスにもお願いしてみようかしら」
「カラスさん..いるかな」ロキオの視線が下にいった。
「いるんじゃない。ギルドマスターが大人しくなってから、特にやることもないでしょうに」
その時、扉がノックされて、ドイルが入ってきた。
彼女は、傷がおおかた癒えたようで包帯も全て取れている。以前とは、老眼鏡のレンズの大きさが変わっていて、今は、大きめになっていることから優しい印象になった。
彼女は、室内に足を踏み入れるなりすぐに、背筋を伸ばしてこう言う。
「騎士団から、ロナウド様がやって来られました。前団長のアレクサンダー様に代わり、新しい騎士団長に任命されたことの報告に参られたとのことです。通しますので、応接間でお待ちください」
ドイルは、ロキオやマナのリアクションすら確かめようともせず、部屋をさっと出ていった。ロキオとマナは、目が点になった。
「ロナウドさんって、どんな人なの?」ロキオは、線の細い声で尋ねる。
「街の英雄よ。ナルシストだけど」マナは、げんなりした顔でそう答えた。
扉が開かれたと思いきや、襟を立てて自信たっぷりの顔をした男が、舞うような動きで入室してきた。
右手首が頂上に来たところで、動きがとまる。よく見たら、左足が床から離れている。
「おお、マナさん。お久しぶりで~す。元気そうで何よりです」左目だけをマナに向けながら、そう言う。
マナが、苦笑いをすると、彼はさささっと足音を立てずに彼女に寄っていった。
マナがビックリしているのをお構いなしに、ロナウドは、彼女にささやく。
「それでいて、ロキ様の悪行はいかがなものですか?可能なら、私がお助けいたしますぞ」
ロナウドは、マナの胸元を一瞬見て、続けてこうささやく。
「あらなんと、ロキ様もついにマナさん卒業かな?」
ロナウドのハの字眉毛にマナは、白い歯をこぼした。
ロキオは、2人がこちらを見て笑っているので、「なんだよ」と少し不機嫌になった。
ロナウドは、姿勢と服装を正すと、厳粛な態度でロキオの方に足を進める。それに対して、ロキオも背筋を伸ばし、椅子に座り直してみせた。
「ああ、ロキ様。お久しぶりです。わたくし、覚えていてくれてたでしょうか?騎士副団長をかねてより務めさせていただいてたロナウドと申します。本日からは、完全無欠であったアレクサンダー前団長様に変わりまして、団長の称号を頂戴させて頂く者で御座います」
ロナウドは、右手で空を仰ぎ、お辞儀と共に降ろした。ロキオは、「あ、どうも」とかしこまったまま返す。
二人は、握手を交わす。そのあと、ロナウドが怪しげな表情を浮かべ、鼻をクンクンさせた。
「おやおや、ロキ様、雰囲気お変わりましたね。ハンターだけでなく、街人全員が待ち望んでいたロキ様になっている、そんな気がします」
ロキオは、簡単に「ありがとう」と返した。
ロナウドは、胸ポケットからワッペンを取り出すと、それをロキオに差し出す。
「これは、私とあなたを繋ぐものです。必ずお持ち下さい、きっとこれが手助けとなることでしょう」
ワッペンには、新しい騎士団長のデザインが全体に施されていて、表面には、ドラゴンが描かれている。そして、裏面には、謎の古代文字が縫い付けられていて、ロキオには、まったく読めない。
ロナウドは、用がすむとすぐに部屋を出て行ってしまったので、このことについては聞くことができなかった。
ロキオは、マナを呼び、読めるか尋ねた。すると、「これは、旧ホクトウ地域の文字ですね。訳すと、旧ロキ政権に栄光あれ、と書かれてあります」と彼女は、答えた。
「旧ロキ政権?」ロキオは、首を傾げた。
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