第24話 シオンの浮気がバレる。

 ガイロは、ギイロよりも楽しんでいるようだった。 

 ショーが終わると、ソフィーが客席に近付いて、握手を提供する。彼女が目の前にくると、ガイロは、興奮しきった様子で手を差し出した。

 「あらあら、僕も見にきてくれたの?」

ソフィーは、ガイロのことなんかお構いなしに、ギイロに視線が釘づけになった。ギイロのミニチュアな手を彼女は、握る。

 満面の笑みのソフィーに、ガイロは、チャンスだと思って、こうお願いをした。

 「この子、ソフィーさんの大ファンなんです!もしよかったら、この子の服にサインしてくれませんか?」

 ガイロは、カバンからペンを取り出して、それを差し出す。そして、ギイロの背中を向けて、そこの布を張った。


 ロキオは、ソフィーが慣れた手つきで、ギイロの背中にサインを書く姿を遠くから眺めていた。

 彼がいるのは、高見台の頂上。下からだと、顔を出さない限り、そこに人がいるのかどうかも分からない構造となっている。

 ギイロ以上に、ガイロのテンションが高いのが分かる。ロキオは、成功だな、と満足した。

 そうしていると、背後から、エリックが梯子を登ってきた。彼の息は荒く、目付きが殺人鬼だ。

 「どうしたの?エリック」ロキオは、すかさず声をかける。

 「カラスは、いるか?ギルドにはいなかったんだが」雰囲気とは裏腹に、口調は荒くない。

 「ここにはいないけど…どうかしたの?」

 「やつかもしれない。アレクサンダーとクロヌマを殺した犯人が」

 ロキオは、アレクサンダーという言葉に目を2往復させた。

 「アレクサンダーさんが殺された?どういうこと?」

 「なんだ、マナから聞いてなかったのか。アレクサンダーは、ジドに家ごと爆破されて死んだんだ。そして、ジドに爆薬を渡したのが」

「え?!ジドさんが?ここには、いないはずでしょ?そんなはずないよ!ジドさんがそんなことするはずない!!」

 「まあ、残念だがそれは事実なんだ。ただ、ジド自体、騙されて爆薬待たされたらしい」

 「それがカラスさんってこと?」

「憶測だがな」

 2人の会話が終了すると、エリックは、ギルドに戻っていった。


 ロキオは、マナに呼ばれて梯子を降りると、そこにはシオン、スオンとソフィーが彼を待っていた。

 ロキオの姿が見えると、ソフィーは、目を地平線のように細めた。シオンが彼に寄っていくと、ソフィーは、横に歩いて壁に寄りかかる。

 「ロキさん!お久しぶりです〜」

 シオンの表情は、明るい。胸の前で両手を合わせ、すりすり上下に擦る。

 「あ、え?ああー、お、お久しぶり?」

 ロキオは、戸惑いつつも返事し、マナの顔を伺った。彼女は、彼に駆け寄り耳打ちした。「とりあえず、イエス、と返事すればいいです」

 マナが離れると、シオンがまたニコニコしながら、話しかけてくる。

 「また今度お食事に連れて行って下さいな。この前行ったイタリアンとっても美味しかったです。次は、マックトリュフティーユに挑戦したいわ」

「イエス」

 「まあ、本当ですの?行くなら、早いうちがいいわ。例えば、今日…」

 「イエス」

 「あら、今日は、夫の前世代での法事あるんでした」

「イエス」

「う、うん。明日は、」

「ちょっと!」スオンが間に割り込んできた。

 「い、イエス?」

 「あんた達、食事の話をする前に考えることがあるでしょうが。あなたたちが何もしないから、この街では今でも飢えで苦しんでいる人がいるんですよ」

 「うるさいわね」シオンが咄嗟に返す。

 スオンの視線がシオンに一瞬向いた後、ロキオに注がれた。

 「え、い、イエス?」

 「呆れたわ。2人とも、街人たちには興味ないのね。せっかく助けてやろうと思ったのに、シオン、あなたまで腐っていたとは、がっかりだわ」

 「イエス」

「ちょっと待って!私は腐ってないわ。私は、自分自身に素直なだけなの!ああロキさん、あなたもどうして私が腐ってないと言ってくださらないのですか?」 

 「む?イエ…ないな。これは違うな、えっと」

 シオンの顔から余裕が完全に消えた。

 「言えない、違う?私があなたのことをどれだけ愛していると思っているの!!はっ!」

 スオンは、シオンを注視している。ゲスを見るような目に彼女は、後退りをした。 

 「お姉さま、こ、これには訳が…」

「本当に腐っていたのね、あなた。我が妹ながら、軽蔑するわ」

 スオンは、護衛を引き連れて、足早に会場を後にした。怒った足取りにみえるのだが、彼女の顔は繁華街で財布を落としたようなくらいしょげていた。

 

 ジドの前に、フードを被った男が立っていた。

 「あなたは、クロヌマかしら?」ジドは、目を凝らしてそう言う。

 「そうだ。お前に火薬を渡した者だ。しかし、アレクサンダーさんを殺すつもりはなかった。何故、火薬に火をつけた」

 「つけたのは私じゃないわ。わたしは、ただ玄関にそれを置いただけなの。それが何故か、わたしがロキオちゃんが見えたところまで戻っていたら、急に爆発して。本当に理解できなかったわ」

 「お前がやったことではないのだな?」

 「違うわ!それより、真の罪人はあなたでしょ?私の代わりにここに入りなさいよ!」

 フード男は、何も答えず、マントをひるがえして、来た道を引き返して行った。

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