第23話 ソフィーの狩猟会。
「そうだそうだ、思い出したわ。私に爆薬くれたのはね、確かクロヌマって人だったと思う」
水を飲むために上を向いていたエリックは、びっくりして、後ろに倒れた。立ち上がり、びしょ濡れの顔を、すぐさま鉄格子に近付ける。そして、真正面にジドを見つめた。
「クロヌマ?そうそいつが言ったんか?」
「そうよ。彼がね、あの家が爆破するとかなんとか。わたし、訳わかんなかったから、最初は断ったのよ。でも、その人、あの家は、ロキの隠れ家だって言うの。
ロキって人が街中から嫌われているのは知ってるわ。それを使って、心理をかき立てようとしたのは分かる。でも、わたし、この街の人じゃないじゃない。だから、知りませんって返事しようとしたら、彼はもういなかったの。
それで、どうしようかどうしようかと悩んでいたら、言われた家からロキオちゃんが顔を出すの!
もう、わたしビックリしちゃって、とりあえず、ほっといたら危ないから爆薬持って訪問したのね」
ジドは、急に口を大きく開けて、唇まで全体を手で覆った。
「あらやだ、喉乾いたわ。お水頂戴」
エリックは、息を吐くと、どこかへ歩きながら、「看守は、いるか?罪人が水欲しいってよ」と叫んだ。
それに対して、何故かジドが「あらやだ、罪人だなんて」と照れる。
「ねぇねぇ、マナ、どう思う?」
ロキオは、たくさんある書類を目の隅においやり、上を向きながら物思いに耽っていた。
「なにが?さっさとそれ片付けてね」マナは、予定を見比べながら、スケジュールの調整をしている。彼女は、ロキオの方を見ずにそう言った。
「ガイロさんのことだよ。ギイロ君、ハンターに興味あるっぽいんだよ。何かしてあげられないかな〜」
「ハンターに興味あるなら、ソフィーさんの狩猟会に招待してみたら?うちの街で豪傑っていったら彼女くらいだし、両手剣使いで見応えあるし」
「それだ!呼んであげようよ!」ロキオは、机の上に身を乗り出した。
マナは、反対こそしなかったが、あまり乗り気じゃなかいみたいだ。
「まあ、何もしないよりかはいいかもね。予約しておくわ」とだけ言うと、部屋を出て行った。
「お姉ちゃん、こちらソフィーさんよ」シオンが水色のドレスを身にまとった女性に手を向ける。彼女は、スオンに向かって足をクロスさせながら、お辞儀をした。
「まあ、あなたがソフィーさんね!」スオンは、テンションマックスでソフィーにかけよる。そして、握手を求めた。
2人は、手を繋ぎ合わせて、お互いペコペコする。
「3日後の狩猟会、私も出席していいかしら?!」
スオンが興奮しながら、そう尋ねると、ソフィーは、心をこめて「もちろんです。ぜひぜひ、特等席でご覧下さい」と応えた。
一見、何の変哲もないように見える森の前で、物見台とテントが設置された。そして、その周りには、柵が設置されて、狩猟会と書かれた看板が立てかけられた。
主役のソフィーは、前日の下見に訪れていた。
建築の管理者とエリックが話しているのを見て、彼女は、彼らに近づく。
「あらエリック、いいゴミぶんだこと」
ソフィーのとんがった言い方にエリックは、反応した。彼は、管理者に二言発して、遠ざける。
「なんだ?俺になんか用か?ああ、分かってる。お前の言い分は、こうだろ?この会の収入、ギルドが中抜きすんなだろ?毎年毎年、しつこいやつだな」
「なによ。だってそうじゃない。いつもいつも、外交が大事なのは分かるけど、街一の名手にも気を遣ってよね!
あら?目にくまができてるじゃない。ウフフ、自業自得ね。
最近、デモの活発化も進んできているらしいじゃない。ロキ政権は終わりだわ。そしたら、あなたも終わりよ」
「いや、俺たちには秘密兵器がある。残念ながら、ロキ政権はまだ終わらないぜ」
ソフィーは、「ふん、勝手にしなさい」と鼻息を立てると、どこへか去っていった。エリックは、管理者を呼び出して、さっきの続きは再開した。
「いや〜、マナさん。ご招待ありがとうございます。仕事もひと段落ついた頃ですし、気兼ねなく息子と楽しめます」
ガイロの腕の中で、ギイロが大人しく真正面のおねぇさんを見つめている。
「さっ、ギイロ行くぞ」
ガイロは、ギイロを一度持ち直した。受付を通過すると、座席の書かれた厚紙を渡される。その指示通りのところに向かうと、最前列だということが分かった。
ガイロが周囲を見渡すと、周りは金持ちばかり。身を小さくしながら、開演まで待つことにした。
マナが出てきた。
「レディースアンドジェントルメン、ボーイズアンドガールズ!皆さん、お待たせ致しました。いよいよ、我が街が誇る豪傑、ソフィーさんの登場です!!」
誰かが拍手をし始め、それが侵食するように観客たちの拍手が大きくなる。
ガイロも慌てて真似て、手拍子をした。そして、ギイロにもそれを促した。
しばらくすると、マナが出てきたところからソフィーがゆっくり歩いて姿を現した。
憧れだった英雄に、ガイロも心が躍る。ギイロの存在なんかお構いなしに、興奮して、ステージの方を見物した。
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