第22話 ガイロ、ギイロに夢を語る。

「俺のお袋はな、俺の夢、つまり俺がハンターで名だたる豪傑に名を連ねることを応援してくれてた。お袋の夢は、俺の夢だなんていつも言ってくれてな、だから俺も応えようと思って必死に頑張ってたんだ。

ほら、この傷。これは、あのトリプソンザウルにやられた傷だ」

 ガイロは、左腕をめくって、えぐれた二の腕をあらわにした。

 「そんな中で、お袋が病気で寝込んで、ほらこの街のハンターってロキがマスターになってから、低賃金だろ?だから、ハンター辞めて、もっと安定した仕事に就こうかなって。そうお袋に言ったら、あたしは大丈夫だから夢追いかけなさいってさ」

 ガイロは、言葉を詰まらせた。

 「その時のお袋、結構元気そうでさ。まあ、大丈夫だろうと思って、とりあえずは申請書出してそのままハンター活動続けていたんだけど…」

 ガイロの頬に涙がつたる。涙声になってきた。

 「遠征から帰ってきたら、お袋が息してなくて…、俺何やってたんだろうって…。自分が情けなすぎてよ、お袋の介護のためとか言ってハンター辞めたんだ。本当はもう死んでいるのによ」

 ガイロは、興奮のあまり言葉を発っせなくなった。鼻水を垂らし、涙が床にポタポタとこぼれ落ちる。

 ロキオは、少しもらい泣きした。目頭付近から鼻をつまみ、涙が出てこないよう耐えた。

 数分経つと、ガイロは落ち着いてきたのか、続けて話した。

 「俺は、もうハンターなんかやらない。あんなのやったところで、幸せになれるとは限らないし、夢が叶うとは限らない。明日死ぬかもしれないんだぞ。俺はもう、今の妻と子供を幸せにすることだけに集中したいんだ」

 

 騎士が1人やってきて、ロキオを拘束した。

 その騎士は、ロキオの顔を見て、「ろろろろろロキ?様?」と仰天する。それをガイロは、笑って否定した。

 ロキオは、騎士庁まで連れて来られると、尋問を受けた。彼は、自身のことをテイワ出身のガビと名乗った。

 すると、話を聞いてマナが駆けつけてきた。彼女は、ヴァンを連れてきていて、2人でなんとかロキオを奪還する。

 ギルドに戻ると、ロキオは、マナにこっぴどく怒られる事となった。

 「ほら、言わんこっちゃない。余計なことして、トラブル起こすんじゃないわよ」

「ご、ごめんなさい」

 

 ジドは、首を傾げた。「えっと、なんて言ったっけ?忘れちゃったわね」

 エリックは、椅子から身をのりだしていたため、一瞬気が抜けると、崩れ落ちてしまった。

 「確かね〜、あ!そうだ、思い出したわ!」

エリックが再び身をのりだす。

 「ガビ、じゃなかったロキオちゃんの好物は、アサリよ!」

エリックが再び椅子から崩れ落ちた。


 スオンは、街長との会食を済ませると、シオンの部屋に向かった。久しぶりの姉妹だけの時間だ。

 「あら、この部屋あなたにしては、センスあるじゃない」スオンは、白と黒のしましまの戸棚をさすりながらそう言う。

 「それは、私の召使いさんが選んで買ってきたものよ。私のセンスじゃないわ」

 シオンがそう言い放ったと同時に、スオンが寝室の扉を閉めた。

 スオンは、シオンに向かってまっすぐ歩く。そして、口をとんがらせてこう言った。

 「この街は、一体どうなってるの?ギルドの力が強くなってしまったのは分かるわ。だけど、街長や騎士団までいいなりになるなんて信じられない」

 スオンは、ベッドに腰掛け、身に付けている羽織を放り投げると横になった。

 「私は、あなたの姉だから心配してるの。私の真似をして、街長の妻になったのはいいけれど、無能すぎると良くないんじゃなくて?」

 シオンは、言い返せなかった。爪をかじり、ただ茫然と何かと見つめている。

 スオンは、ため息をついて呆れたようにこう言った。

 「まあ必要なら、うちが援助してやってもいいわ。勿論、利子は付くわよ。それと、ロキとかいうやつとも話をつけてやっても構わないわ。安心して、なかなかのゲス野郎って聞いてるから、驚きはしないわ。場合によっては、一発ビンタをお見舞いするかもしれないけどね」

 シオンは、スオンの方を見た。

 「何よ?」と返すスオン。「ビンタだけはやめて」とシオンは、少し怒り気味だ。


 「パパってハンターやってたんでしょ?」ギイロが無邪気にそう言う。

 ガイロは、傘を点検をしていた。自分の息子にかつての夢を語る時期が来たか、と彼は思った。

 手に持っていた雨よけを横に置くと、ギイロに向き直った。そして、気恥ずかしくも昔の夢物語について簡単に語った。下らない話でもギイロには、響いたらしく、目をキラキラ輝かせている。

 いたたまれない気持ちなったガイロは、その場を立ち、商品を持って部屋を出ていった。後ろから、ギイロがしつこく追いかけてきて、「もっと話を聞かせて」とせがむ。それを無視して、ガイロは、歩いていると、ギイロがすっ転んで泣き出した。

 コハルがギイロの頭を撫でながら、寝かしつけると、彼は安心したように小さな寝息を立てはじめた。それを少し離れたところから見ていたガイロも一安心といった顔をする。

 仕事の残りをしようと思い、立とうとすると、コハルに呼び止められた。

 「あなた、ギイロがもう少し大きくなったら、狩りにでも連れて行ってあげたらどうです。別に凶暴なモンスターをハントするだけが狩りの醍醐味じゃないんでしょ?」

 

 

 

 

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