第21話 ロキオ、ガイロと出会う。

 ロキオとマナは、マスタールームに帰ってきていた。

 ロキオが変装用のハット帽子を服掛けにぶら下げる。そして、もう着替え終わっているマナに話しかけた。

 「ガイロさん、結婚してたんだね。しかも、子供までいるし」

 「ほらね?要らぬ心配なんかするもんじゃないのよ。人ってもんは、なんやかんや幸せになるものなのよ。それに今さら何をしようっていうの?あの申請書よく見たら、3年前のものだったし」

 「でも、おふくろさん死んじゃってたみたいだったね。今でも、そのこと気に病んでたみたいだったし」

 「いいのよ、死んじゃったものはしょうがないじゃない。それに私たちが何かできる問題なの?あなたには、これから沢山の苦労働が待っているのよ」

 「僕、また明日行って確かめてみるよ。何かできることがあるかもしれないし」

 「へぇ、あっそ。別に勝手にすれば?でも、私がやってって言った仕事はちゃんとこなしてよね?」

 コンコン! 扉がノックされた。

 マナが「どうぞ〜」と声を上げると、扉が開かれる。顔を見せたのは、カラスだった。

 「ガイロについて少し調べさせていただきました」カラスは、手元に数冊の本を重ねてその上に一枚の紙を乗せている。

 「ガイロさんね。年は、32。ハンターは、3年前に辞めている模様、ハンター時代の職業は、槍使いで、寝たきりの母を1人にはできないといった理由で引退と」

 カラスは、顔を上げた。「どうです?ここに書いておきました。いります?」

 カラスは、その紙をロキオやマナに、交互に腕の伸び縮みで差し出す動作をとった。

 「いらないわ。そのガイロって人、結婚しているの。だから、もう私たちにはかんけいわ…」「もらおうか」ロキオは、マナの発言を遮った。

 ロキオは、わざわざカラスのところまで行ってその紙を受け取る。そして、綺麗に畳むとポケットにしまった。

 「ありがとう。助かったよ」

 ロキオの笑顔にカラスもついニヤける。

 カラスが部屋を後にすると、マナも「勝手にしなさい」と愚痴って出ていった。


 ジドは、眼を覚ますと、自身が牢屋に閉じ込められていることに気付いた。

 「やっと、起きたか」

 暗いが牢屋の外に、椅子にまたがっている男がいる。ジドは、眼をこらすと、それがエリックだと分かった。

 「思い出したわ、あなた、私の脇を粉砕した拉致男…」

 「ああ、そうだ。だが今はそんなことどうでもいい。俺が聞きたいのは、何故、アレクサンダーの家を爆破する必要があったのかだ」

 「違うの。私、渡されたの。火薬を」

 「誰から?」

「それは…」

 

 次の日、ロキオは、再び、ガイロの庭に隠れていた。

 家内からは、女と少年の声だけが聞こえる。ロキオは、注意深く2人の会話を聞いていた。 

 ガイロについてこれといった情報は得られなかったが、女の名前がコハルで少年の名前がギイロということはわかった。

 しばらく経つと、コハルとギイロは玄関を出て、2人でお出かけに行くみたいだ。庭のすぐ隣の道路を、会話しながら通過した。

 彼女らが通り過ぎると、ロキオは、腰をかがめながら、茂みを抜け、そろりそろりと縁側に近付いた。

 物音一つしない。ガイロも居ないのだろうか。

 ロキオによからぬアイデアが浮かぶ。空き巣に入って、ガイロのことを調べてやろう。

 ロキオは、侵入することにした。

 靴を脱いで、中の戸を開く。簡単に開いたため、不用心だな、とロキオは、思った。

 次に、すぐ目の前の部屋の扉を開く。そこは、まさかのトイレだった。

 ロキオは、ぐるりと眼を一周させると、そっと扉を閉じた。

 次に通路を右折して、突き当たりの扉を開いた。そこは、リビングになっており、皺のついたソファーや少しズレた椅子、テーブルが生活感を漂わせている。

 少し進むと、しっかり掃除が行き届いているのが分かり、ちりやほこりが全く姿を現そうとしない。物入れの上に飾られている家族写真に眼を奪われた。

 ガイロ、コハル、そしてまだ赤ちゃんのギイロが太陽をバックに満面の笑みを浮かべている。特にガイロの顔は、大きく写され、これ以上ないくらいの笑顔が目を留めさせる。

 その時、ロキオの首は、後ろにグイっと曲げられた。口には、ロープのようなものが押し当てられている。そのまま、彼の後ろに立っている男に体が密着した。

 「おい、今何しようとした」深みのある怖い声だ。

 男は、ロキアのハット帽を取って、顔を覗き込んだ。

 「ロキ!?貴様!何しにうちに来たんだ!お前のせいで俺のお袋は死んだんだぞ!」

 ガイロは、ロープの力を強めた。貧弱なロキオは、ロープを必死に振り解こうとするも、びくともしない。

 ロキオの歯が一本歪んだタイミングで、ガイロは、力を弱めた。

 「お前、ロキじゃないな。弱すぎる。ロキのそっくりさん、そうだろ?」

 ロキオは、血のついたロープを地面に落とすと、静かに頷いた。

 「それで、ロキのそっくりさんが何の用だい?うちには、金目になるものなんて置いてませんよ。貧乏だからね」

 「お、お袋さんがロキに殺されたって…それってどういうことですか?」ロキオが口を抑えながら、言う。

 「質問に答えろよ。まあいい、どうせお前はムショ行きだ。ロキに似ているせいで辛い人生だったんだろう。可哀想にな、ろくに定職にもつかなかったんだろうな。お袋か?ああ、ギルドが全く俺らの相手してくれなくてよ。それで死んだんだ」

 

 

 

 

 

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