第20話 ガイロさん家、訪問。

「このガイロさんの居所は、分かりますか?」

 マナは、目を逸らして、苦笑いをしている。

 「えーっと、え?会いに行くの?」

「もちろんです!助けないと!!」

 マナがロキオの眼を再び見ると、意志のある輝きが伺えて、一瞬ひるむ。頬をポリポリして、戸惑った。

 「わ、分かりました。カラスに訊けば、探してくれるんじゃない?」

 ロキオの眼がより一層輝いた。

 「あ、案内しましょうか?カラスのところまで」

 ロキオは、大きく頷いた。


 エリックが面会室の扉を開くと、騎士団員2人と、ジドの姿がそこにあった。

 エリックは、ジドが眼につくと、すぐに彼の胸ぐらをつかんで、足が浮くまで持ち上げる。ジドは、苦しそうにしながら、足をバタバタさせる。

 「きさま、きさまだけは、許さんぞーー!!」エリックは、顔が真っ赤だ。

 騎士たちは、慌てて彼をジドから引き離そうとする。しかし、エリックの馬鹿力のせいで、ジドの顔はみるみる青くなっていった。

 ジドの口からぶくぶくと泡が噴き出るようになると、エリックは、我に返ったのか、手を下げた。そして、「すまん」と呟く。

 息切れしながらも騎士たちは、片方がジドを強引に椅子に押し座らせて、もう1人がエリックを扉近くまで引っ張った。

 「はぁはぁ、エリックさん!お気持ちはわかりますが…もう罪を認めましたから…一旦落ち着きましょう!」

 「すまん、つい…くそ…」エリックは、握り拳を扉をぶつけた。

 「それで、それでこいつは、なんでアレクサンダーの家を爆破したんだ」

「そ、それが訳わかんないこと言ってまして。ロキがそこにいるとか、ガビちゃんもいるとか。もう訳わかんなくて」

 その時、エリックの動きが止まった。彼は、ジドの顔を覗き込む。

 その特徴的なちょび髭に、おっさん面。

 ロキオと一緒にいた男か!と、エリックは、思い出した。

 「ど、どうかしたんですか?エリックさん」目を丸くしているエリックに騎士は、声をかけた。しかし、エリックは、それをやめると、無表情で「いや、なんでもない。こいつは、牢獄にぶち込んどけ」と言った。

 「え??死刑にしなくていいんですか?」と、ジド側にいた騎士が声を上げた。

 「いい。いいんだ。いい」エリックは、急に顔を後ろに向けて、なんでもなかったように部屋を出ていく。残された騎士たちは、同時に「あ、い?入れときます?」と呟いた。


 カラスは、いくつかのファイルを手に取ると中身を見比べる。目的の一冊が見つかると、それ以外をしまいこんで、そのファイルを急いでめくった。

 「ごめんね〜、ちょっと時間かかりそうっすわ」カラスは、ファイルをいじりながら、そう言う。

 「住所変わっているのかな?」

 そう呟くカラスをロキオとマナは、ぼんやり眺めていた。

 「ガイロさんの居場所が分かったとして、どうするの?」マナは、ロキオに耳打ちした。

 ロキオは、考えるように首を傾げた。

 「う〜ん。ハンター辞めているなら、復帰させて…」

「あら、辞めてるって?そんなのわからないよ?」

 「辞めてるよ、多分。だってガイロさん、お母さんの介護で支援を受けようとしていたんだよ」

「あら、そうなの」

「しっかり、読んでよね!」

 マナは、笑った。しかし、ロキオは、怒ったように彼女を睨みつけた。おっと、と彼女は、顔を引く。

 その時、カラスが声を上げた。

 「あったあった。ガイロさんね。もうハンター辞めて、今は、傘屋さんやっているみたいだわ」

 カラスは、簡単な地図を描いて、それをロキオに手渡す。

 「お前が街を変えてくれるんだろ?俺は信じてるぜ」

 カラスは、ロキオの右手をがっちり握り、想いをこめるようにそう言った。

 ロキオとマナは、部屋を出た。やる気満々のロキオを見て、マナは、呆れたようにこう訊く。

 「まさかじゃないけど、いまから行くつもりじゃないわよね?もう夕方よ」

 「行こうよ!時間がもったいない」

 ロキオは、足を速めた。マナは、渋々その後をついていった。


 ガイロの庭に侵入して、家の中を覗いた。

 子供の走る音が聞こえる。ロキオは、もう一度カラスからもらった紙に目を通した。

 「母親と二人暮らしじゃなかったっけ?」

 「知らないわよ。母親死んで、結婚でもしたんじゃない?」

 「ちょっと中のぞいてみよう」

 ロキオは、しゃがみながら、茂みの中を移動した。角度を変えると、違ったものが見えるかもしれないからだ。

 すると、庭の縁に古傷だらけの男が顔を出した。彼は、庭用のスリッパを地面に置くと、それに履きかえて、少し歩いた。

 「あれがガイロさんかな?」とロキオは、マナにささやく。マナは、「そうなんじゃない?」と適当に答えた。

 男は、夕方の空を眺めながら、薄ら涙を浮かべた。そして、「おふくろぉ」と呟く。

 マナは、それを見て、姿勢を改めた。

 「パパァ!」と叫びながら、小さな男の子が庭を飛び降りて、男に抱きついた。男は、その子を抱き上げると、満面の笑顔を作った。

 奥から、妻と思われる女性も顔を出す。

 「こらこら、パパは、忙しいの。ほらあなたも、向かいのお医者様の注文がまだ残っているでしょ?折角、ガイロ傘屋の景気がノリにのっているのに」

 


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