第18話 2話

 ロキオは、火を放った銃をテーブルの上に置いた。

 彼は、顔に汗を滲ませながら、息切れしている。

 エリックは、ロキの死体を広いところまで運ぶと、首筋の脈を測った。続いて、瞳孔のチェックも済ませる。

 「よし、死んでるな」

 エリックは、腕時計を見て時刻とスケジュールを照らし合わせた。

 「いい感じだ。よし!ロキの死体は、隠し通路に運ぼう。あそこで埋葬してやれば、世間も許してくれるだろう」 

 エリックは、部屋を出ていった。残されたマナとロキオは、顔を見合わせる。ロキオが首を傾げると、マナも真似て顔を横に倒した。

 急に扉が開いて、エリックが戻ってきた。彼は、後ろにカラスを連れてきている。

 「おし、カラス。ロキの頭部分を運んでくれ。俺は、下もつから」

 エリックの呼びかけで、ロキの死体は、2人がかりで部屋の外に運ばれる。死体が案外重たいらしく、掛け声を出し合ってゆっくり移動していく。力む彼らをロキオとマナは、横目で傍観していた。

 エリック達の掛け声が遠のくと、マナは、ロキオの対向にある椅子に腰掛けた。彼女は、ロキが残していった葉巻ケースから葉巻を一本抜き取る。そして、エリックが忘れていったマッチで葉巻に火をつけた。

 ロキオは、彼女の豹変に少しびっくりした。

 さらにマナは、はだけていた胸元のボタンを閉じた。咥えていた葉巻を口から離して、足を組む。そこから横を向いたので、女王様のようなオーラを醸しはじめた。

 「やっと、居なくなったわね」

 ロキオは、じっと彼女を見つめる。

 「せいせいするわ。7年間も私に嫌がらせしてきて…」

 マナは、ロキオの方を振り返った。彼の驚いた顔を見て、「なによ」と文句混じりの発言をする。ロキオが何も言わないので、はぁ〜、とため息をつくと、葉巻を灰皿に押し付けた。

 「おかしい?私だって葉巻ぐらい吸うわよ。子供じゃないの、大人なの。そういった幻想は、アンにしてやりなさい。あら、まだアンのこと知らなかったわね。でも、その内覚えるわよ」

 マナは、膝に肘を乗せて、その手で顔を支えた。少し上目遣いになって、こう言った。

 「それで、アレクサンダーとの特訓はどこまで進んだのかしら?」

 彼女の問いかけに、ロキオは、戸惑いを見せた。実は、風邪を言い訳に上達どころか、何も進んでいなかった。

 ロキオは、目を逸らして、口を歪ませる。マナは、それを見て、ニヤリとした。

 「全く?あらそう。なら、これから引き受ける仕事がいかに大変なのかも分からないようね」

 ロキオは、手を組んで両腕をそれぞれの膝の上に置くと、肩をすくめた。怯えた眼でマナを見返した。

 「いい?あなたのやる気は、エリックから聞いているわ。でもね、こんな大役そうそうこなせるもんじゃないわよ?まずロキの浮気性は、あなたに務まるかしら。彼、街長の奥さん、シノンさんとも浮気しているのよ」

 ロキオは、目を大きく広げた。

 「そう、驚きでしょ?今の悪政体制でも成り立っていたのは、これが原因の一つ。シノンさんが夫になんとかお願いして、ロキは守られていたのよ。彼、奥さんには弱いから。そして、もしそれがなくなったとなれば、なんとか支えられていた館も崩れ落ちるのよ」

 マナは、高笑いする。 

 「あなたが来る前からこのギルドは、崩壊しきっていた。エリックが何を企んでいるのか知らないけど、手遅れなのよ」

 マナは、もう一本葉巻を取り出すと、火をつけて煙を吸い始めた。

 

 守衛服のヴァンは、エリックとカラスが秘密通路から帰ってくるまでの見張りをしていた。立っているのは、マスターエリアの入り口、どうやらその中に秘密通路があるみたいだ。

 ヴァンが、しばらく暇を持て余していると玄関の呼び鈴が鳴った。流石にここを離れるわけにはいかないので、無視する。

 しかし、それから数分の間、何度もしつこく呼び鈴が鳴らされた。

 エリックとカラスが帰ってきた。「ありがとう」「すまないね」と感謝の意を述べる2人。ヴァンは、無用に思い、その場を離れて急いで玄関に向かった。

 

 玄関では、来客をアンが対応していた。彼女は、困ったように顔でその客人を追い返そうしている。ヴァンは、急いで彼女のところまで行き、代わっておもてなしをしようとした。

 客人の見た目は、いかにもここ数日間お風呂に入っていない身体に着変えてない薄汚れた服を身にまとっているおじさんだ。ちょび髭が特徴的だが、それ以外にも無精髭が口元から顎にかけて生えている。ポケットからは、風呂敷が少し飛び出していた。

 ヴァンは、その姿を見るなりすぐに、朝のアレクサンダー家を訪れた街人だと気付いた。ジドは、ヴァンの姿が見えると、こう言った。

 「ちょっとそこの警備員さん。ロキに会わせてちょうだいな。私、彼に用があるのよ」

 彼の発言にヴァンは、アンを守るようにおじさんとの間に立った。

 「すみません、それはできかねます。マスターとの面会でしたら、予約制になっておりますので…」

「なによ!なら、ロキに似た男はいるんじゃない?私、彼に用があるのよ」

 ヴァンは、この時、このおじさんはロキオの知り合いなのではないか、と察することができた。しかし、ひとまずは断りを入れることにした。

 「私には、なんのことやら。やはり、面会の方でしたら、予約していただく事となります」

 

 

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