第13話 エギル家の残し火

 「ぐぬぬっ!」ロキは、欠伸をしながら、伸びをした。

 彼は、ベッドから起き上がると、すぐに胸ポケットから葉巻ケースを取り出して、その中から一本取り出す。右手で挟んで、吸うポーズをとった。

 「あれ?」とロキは、とぼけた声を出す。「エリックは?」

 部屋の隅でアンと小さくなっていたマナが、ロキの応答のために立ちあがった。

 「えっとえっと、エリック様は、ちぢょ、地上に戻って、えじ、エギル一家の残存について確かめに行っておら、おられるようです」

 ロキは、腕時計を自身に向けてひっくり返す。

 「あ〜、もう朝か」

 「もう昼でございます」

 ロキは、もう一度腕時計を見た。確かによく見ると、12に短針が向いている。

 「いや〜、今日は早起きだなぁ!昨日は、色々あったし、疲れていたんだな!」ロキは、そう言うとニコニコしながら、もう一度欠伸をかました。

 壁に寄りかかって静止していたクロヌマが、部屋を出て行った。カラスが慌ててそれについて行く。2人が出て行くと、階段の方で壁を蹴る物音が部屋にまで響いた。

 ロキは、机に置かれているマッチで、手に持っていた葉巻に火をつけた。しばらくして、口に溜めていた煙をふかすと、マナにこう問う。

 「カラスのやつは、俺のことが嫌いなのかね?」

 ロキに見られて、マナは、視線を上に向けた。彼女は、考えるふりをして、話をはぐらかそうとした。しかしロキは同じ質問を、今度は最後にアンとつけて、訊いた。

 アンは、ちくはぐする。「えっと、クロヌマさんは、あ!カラスさんか。カ、カラスさんは嫌いではないと思います、かね?多分はい」

 アンがロキの方を振り返ると、彼の眼に涙が浮かんでいた。

 「あれでも、俺がギルドマスターになる前からの仲間なんだがね」ロキは、そう言いながら、震えるように葉巻をもう一度口につけた。


 「おい、お前いい加減にしろよ。今大事な時期なんだからよ。お前のせいでロキのクソ野郎の暗殺に失敗したら、どうするんだよ」カラスは、クロヌマを叩く。

 2人は、階段を登りながら、揉めていた。

 「知るかよそんなこと。いやだけど、お前こそよく演技であいつに好意的な態度取れるな?俺よりも嫌っているくせによ。気持ち悪りーな」

 「お前みたいに馬鹿じゃないんでね。感情には流されないんだよ」

 「おう、カラスとクロヌマ」

 よく見ると、エリックが階段を降りてきている。

 「また、揉めてんのか?別に良いけど、あんま大きな声出すなよ。ロキに聞こえたら、どうするんだ」

 クロヌマが鼻息を立てた。カラスとクロヌマは、エリックとすれ違い、上に登っていく。

 すれ違ってすぐに、エリックが2人を振り返った。「あ〜、そうそう。エギル家の皆さんはもういないから、外出ていいよ。あと、ロキも上あがらせるから、そのつもりでね?」

 カラスは、再び壁を蹴った。クロヌマは、無言で登りを再開させる。カラスは、エリックを睨みつけると、クロヌマについて行った。

 

 「ロキ、そろそろ上がっていいぞ」扉のふちに立ったエリックがそう言った。

 部屋は、ロキの葉巻の匂いで充満している。

 ロキが扉に近づくと、エリックが先導して階段を登りはじめた。ロキの後ろに、アンとマナが続く。

 歩きながら、エリックが上の様子を話し始める。

 「ギルド内部は、ものすごい荒らされようでした。カーペットは、全てびりびりに破かれて、装飾品は粉々。机や椅子も細かくされてます。使用人の皆さんを帰らせた後でよかった。あと、ギルドの金庫がすっからかんでした」

 「ふん、俺の妙案が役に立ったな」

 ロキは、ギルドのお金を私利私欲に使うために、半分くらいをマスター室の隠し金庫に入れていた。

 エリックは、顔を歪めながら、話を続ける。

 「金庫泥棒の犯人は、エギル家ではなく、ネヅミでした」

 ロキの顔色が変わる。「そうか、ネヅミか。エリック、お前が言っていた通りになったな。そろそろやつが来るって」

 「ええ、厳重に警戒していたつもりでしたがね、とうとうやられてしまいました」

 「まあ、いい。それより、どうなんだ?俺の隠し持っていた金でギルドは回りそうか?」

 「それは断言できかねますが、おそらく持ち堪えれるでしょう。なんて言ったって、消費税25%の街ですからね。また、街の本部からお金を頂きましょう」

 「ふはははは、それは名案だ」

 エリックは、行き止まりにたどり着いた。壁と同じ色の取っ手が見える。彼は、それを横にスライドさせると、ギルドの廊下に出た。

 廊下をよく観察すると、エギル家が残していった傷が至る所にあるのが分かる。

 ロキは、それらを見てニヤついてこう言った。

 「エギル家の野郎どもめ。いつか、報復をしてやらねえとな」


 カラスとクロヌマは、大急ぎで使用人たちに命令して、ギルド内の掃除と新しい家具の購入をさせる。建街祭は、4日後に迫っており、それまでにはなんとか綺麗な状態にしておかないといけないからだ。

 今日来ている人だけでは、物足りず、休みの使用人まで呼ぶ始末となった。

 特にマスターエリアは、ボロボロな挙句、ロキの性格を考えると口うるさく言われそうなので、優先的に作業が行われた。

 

 

 

 

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