第12話 エギル家、ギルドに侵入。

 エリックは、心の中で舌打ちした。権力者でないエギル一家を、権力者と同じ扱いにしてあげればいいっていう訳ではないみたいだ。 

 「なら、こうしよう」エリックは、右手の人差し指を立てる。「エギル家に有益となる条例を一つ制定して、さらにそこにいるハンター達には、優先して好物件のハント依頼をまわす。これでどうだ?」

 「有益になる制定?例えばなんだ?」 ウギルの後方にいるハンターが声を上げる。

 「例えばだなぁ」エリックは、右手を自身の顎に持っていって、立てていた人差し指を頬につんつんさせ始めた。

 「例えば、エギル屋は、最近出前を始めただろ?しかし、メニューには汁物も多くて、困っている。もし運んでいる途中でこぼしでもしたら、全てエギル屋の過失になるわけだ。そこで!」

 再び、エリックが右手を顎から離し、人差し指を立てる。

 「もし誰かと衝突して、商品を落とした場合、その代償は、出前とその衝突した相手側の折半になる。どうだ?」

 エリックは、じっと彼らの態度を伺う。ウギルは、目を光らせた。

 「無理だな」ウギルは、そうきっぱり言った。「俺たちの求めているのは、ロキの死ただそれだけだ」

 彼の声に反応して、彼の仲間たちも「そうだ!そうだ!」と声を上げる。

 エリックは、うつむきながら、右手を頭の上に乗せた。

 「討つぞー!!」ウギルが大声を上げると、複数の雄叫びが上がった。

 ウギルの兄弟、ウガルとウグルがエリックに向かって、武器を構えながら、突進してきた。エリックは、丸腰なので、体を後ろに向けて、逃げの構えをみせる。

 「逃げろ!殺されるぞ!!」エリックは、走りながらそう叫ぶ。しかし、どうやらそれは遅かったらしく、ヴァンがウガルの息子、エガルとオガルにリンチされていた。ドイルは、それを見て、あたふたしている。

 後方にいたハンターの1人がドイルを思いっきりぶん殴った。彼女の体は数メートル先に転がる勢いで吹っ飛び、老眼鏡の割れる音がエリックの耳まで届いた。

 エリックは、前を向いて一目散に走った。

 ロキとマナに伝えなくては。いよいよ、終焉の時だと。

 ウガルの矢は、間一髪でエリックには当たらなかった。エリックは、正面扉を開けて、中に入った。

 状況を知らないハンターたちが、エリックの慌てようを見て、笑っている。エリックは、そんなことお構いなしにアンに話しかけた。

 「アン、逃げろ。エギル家を抑えるのは無理だ。ロキを秘密部屋に隠すから、アンも一緒に来い」

アンは、うなずき、先を急ぐエリックの背中についていった。

 

 ウギルは、正面扉を思いっきり蹴り開ける。観音開きのその扉は、片方が蹴りの衝撃で傾いてしまった。

 ホールにいたハンターたちは、騒然となった。彼らは皆、固唾を飲んで、反乱者たちの立ち振る舞いに注視する。

 ウギルは、一斉に集まった視線を送り返した。そして、「ロキは、どこにいる?」と大声で言った。

 ホールのハンターたちは、皆顔を合わせる。1人が奥に続く扉を指差した。

 ウギルが先頭になって、エギル家一行は、受付カウンターを乗り越えると、指差された扉を開けた。長い通路を通り、分かれ道に出る。すると、マスターエリアと書かれた金のネームプレートが目に入った。

 ウギルは、後方に命令する。「俺とウガル、ウグルはこのマスターエリアに入る。あとのお前らは、残りの通路を探してくれ。ロキを見つけたら、すぐ俺に知らせるんだ」

 ウギルの言葉に、一同が頷く。


 暗く長い階段を降りきると、木の扉が見えてきた。ロキの側近、クロヌマが鍵を取り出して扉の鍵穴に挿した。

 鈍い音を立てて、鍵が回る。ギギギギ、と音を鳴らしながら、クロヌマは扉を開けた。

 埃くさい小部屋が姿を現す。クロヌマは、持ってきていたキャンドルに火を灯すと、部屋の真ん中にある机に置いた。

 喋りながらロキとマナが遅れてやってきた。その後ろをエリック、アン、カラスが続く。

 ロキは、部屋に入るなりすぐに手で何かを払い除けるような動きをしながら、「埃くせえな」とぼやいた。マナが、口を抑えて咳き込む。

 ロキは、真っ先に目についた椅子に腰掛けた。そして、扉の方を向き、ちょうど部屋に入ろうとしていたエリックにこう言った。

 「おい、エリック。俺は、一体いつまでここに入ればいいんだ?」

 エリックは、扉の隣に立つと、考える姿勢を見せる。

 「う〜ん。エギル一家が去るとなると、どうでしょうねぇ。せめて今日一日中は、厳しいんじゃないかなぁ」

 はぁ〜、とロキがため息をつく。

 クロヌマは、ロキを睨んだ。少しばかり握りこぶしに力を入れて、前傾姿勢になっている。無意識にロキに喧嘩をけしかけようとしているみたいだ。

 カラスは、慌ててクロヌマを静止させる。彼は、クロヌマがロキのことを強く嫌っていることを知っていたのだ。

 クロヌマは、カラスに耳打ちされると、壁に寄りかかって腕を組んだ。そして、その姿勢で事の成り行きを見守った。


 「ウギルさん!大変です!!」

 分かれ道に帰ってきていたウギルは、別の通路から戻ってきていた仲間に声をかけられた。ウギルは、ちょうどマスターエリアでなんの収穫も得られず、気を落ち込ませていたところだ。

 「なんだ?」と返答するウギル。

 それに対し、その仲間は、「ギルドの金庫を発見しました。しかし、中身が空っぽで、蓋が開けられていたままで…」

 「まさか、ネヅミか!」ウギルは、食らいつくようにそう言う。

 「そうです。金庫の中には、ネヅミの置き手紙がありまして…」

 「おのれぇ、ネヅミの野郎、俺たちの反乱に乗じて盗みを働きやがったな」

 ウギルも以前、ネヅミという盗人に自宅の金品財宝を全て盗まれたことがあった。彼は、そのことを思い出して、怒りが沸点に上昇した。

 「ネヅミを探せぇ!!ロキのついでだ。やつもひっ捕らえて、ぶち殺してやる!」

 

 

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