第11話 エギル家、反乱。

 エリックは、ロキの寝室の扉を乱暴に開けた。

 ロキは、椅子に腰掛けていて、マナが彼の肩を揉んでいる。ロキの口には、煙の出た葉巻が咥えられていた。

 「おい、ロキ。これ以上、トラブルは起こさないでくれよ」 荒い口調でエリックは、ロキに詰め寄った。

 ロキは、何でもないような表情で、細目をエリックに向ける。口は、全く開かない。

 「おい、聞いてるのか?いよいよ、あんた死ぬぞ。お前だけじゃない、俺やマナだってどうなるかしったこっちゃない」 

 エリックの口元がプルプル震える。しかし、ロキにはその思いが届いていないみたいで、彼の顔に変化は一ミリたりとも見られなかった。

 エリックは、右手でロキをぶった。

 エリックの眼に、涙が浮かぶ。

 ロキは、ぶたれた左頬をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。マナは、そっと手を引っ込めて、数歩後ろに下がる。

 「だってしょうがないだろ?エギルの野郎がナイフ持って、俺に覆いかぶさってきたんだから。俺が刺さなきゃ、殺されてたぜ」ロキは、感情的に口を動かした。

 それにつられてエリックもより一層感情的になる。ロキの胸ぐらを掴んで、上に引っ張り上げた。そして、そのまま、ロキを後ろに押した。

 ガタン、と音を立てて、ロキの背中が壁にくっ付く。

 エリックは、鼻をすすりながら、こう言った。「あんたに任せたのが全ての間違いだった。あんたがこんな人間になるなんて、思ってもみなかったからな」 エリックは、再び右手に握り拳を作り、それを振り上げた。

 その時、寝室の扉が勢いよく開けられた。扉に立っているのは、ロキの側近、カラスだ。

 「大変です!エギル一派が反乱を起こしたようです。エギル家の元店主とその血族、及び仲間のハンター達、総勢10名がギルド前まで接近しています」

 エリックは、とっさにロキを離して、扉に向かう。そして、カラスの元まで歩くと、マナに対してこう命令した。

 「ロキをこの部屋から絶対に出すなよ。外の対処は、俺がする」

 マナは、「はい!わ、分かりました」と返事した。彼女の返答を無視するように、エリックは、カラスとともにその場を去っていった。

 

 エギル家の元店主ウギルは、ギルドの守衛に怒りをぶつけていた。

 ウギルの齢は58。エギル家は元はといえば、ウギルが経営していたウギル家という名前の店だった。それを、腰を痛めたウギルが息子のエギルに引き渡したのだ。

 ウギルには、ハンターをやっている兄弟が2人いた。さらには、その兄弟の片方の2人息子もハンターをやっている。さらには、居酒屋店主時代の客で現在もハンターをやっている人がおり、その中から、今回5人が助っ人に加わった。

 ウギルの背後には、9人のハンターが武器を構えて、前方の様子を眺めている。ギルドの守衛は、3人と心細く、ウギル達の圧力に押されていた。

 ウギルの兄、ウガルが金属の塀を蹴った。

 「おいおいおい、俺たちの大切なエギルちゃんを殺しかけておいて、ただですむと思ってんじゃねーだろうな」

 守衛の3人のうち1人が逃げ出した。残った内な1人は、新人っぽい様子で、彼はもう1人の方の体に身を隠す。 

 ウガルがウギルの前に出た。ウガルが手に持っているのは弓だ。彼は、背中の長袋から矢を2本取り出す。それを弓に添えて、糸を引いた。

 新人守衛は、遂に逃げ出して、建物に向かって走り始める。

 ウガルは、逃げる後ろ姿に狙いを変更した。残った守衛は、それに気づき、必死に抗議する。「や、やめろ。あんた達は、ロキに用があるんだろ?関係ないハンターを攻撃するは必要ねぇじゃねぇか」

 それを聴いたウギルは、ウガルに矢を収めるよう言う。ウガルは、大人しく矢を背中の長袋に戻した。

 

 エリックは、ギルドのホールに出ると、そこでたむろしているハンター達を見た。彼らは、エリックを横目に小馬鹿にするような態度をとっていて、中には陰口を言う合う者までいた。

 ハンター達の助けは借りられないか、とエリックは、再考した。やはり、自分の力だけでなんとかするしかない、と思わざるをえなかった。

 エリックが、正面扉を開こうとすると、彼を呼び止める声があった。エリックの後ろには、ヴァンとドイルが立っている。

 ヴァンは、「3000ギル貰わないとな」と言う。ドイルは、このギルドの警備員長だ。

 1人よりかは、少しでも仲間がいた方が気が楽だ。エリックは、「ありがとう」と言い、扉を開けた。

 その時、守衛をやっていたはずの1人が建物内に入ろうとしていた。彼は、新人っぽい見かけで、エリック達とすれ違いになる。

 エリックは、難儀だなと思いつつ、階段を降りて、前庭に入った。途中、また柱の裏に守衛が1人、身をかがめて怯えているのが見える。今回は、新人っぽくはなかったので、エリックは、守衛失格だな、と思った。


 エリックは、ウギルの前に立った。エリックは、武器を保持していない丸腰だが、ヴァンとドイルは、多少の装備はしている。

 エリックは、両手を上げてこう言った。「俺は丸腰だ。血を流す戦いではなく、話し合いにきた。お前らがロキを死ぬほど恨むのは分かるが、ここは少し穏便に金で解決しないか?」

 ウギルが、罵声を上げる。

 「また、金かい。カネカネカネカネ。お前らは、カラクリのように金出すしか能がないバァカかぁ??」

 

 

 

 

 

 

 

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