第8話 エリック、ギルドに戻る。

エリックがギルドの守衛に顔を見せると、その守衛は、びっくりした顔を見せ、怒りを露わにした。

 「ちょっと、エリックさん。この長い間どこ行ってたのですか?ロキ様が帰りの馬車を出さないから、大怒りでしたよ」

 「いやーいやー、すまんすまん」と返すエリック。彼は、検問室をすぐに通り過ぎれるよう、足を早めた。

 「ちょっと、逃げないで下さいよ」と守衛。エリックは、その言葉を無視するように次第に足を早めた。

 ダッシュするエリックの後ろ姿に、守衛は最後の言葉を放った。

 「ちゃんとマナさんにお礼言って下さいよ!彼女が居なかったら、今頃どうなっていたことか!」

 言い終わる頃には、エリックはもうギルドの玄関扉の取っ手を握っていた。中に入る前に、彼は、守衛の方に向けて親指を立てる。彼なりのOKサインだ。それを数秒続けると、そっと中に入っていった。

 ギルドのホールには、7、8人のハンターが険しい顔をして座っていたり、立っていたりしている。受付嬢アンに新人ハンター、ヴァンが何か文句を言っているのが見えた。

 「なんで、ラージャン討伐の報酬が1000ギルしか出ないんだ!他の街なら、3000ギルは出るぞ!」

 「申し訳ございません。うちのギルドでは、どうしてもそう決まっておりますので」

 アンは、ぺこぺこしながら、そう返す。

 「いや、意味わかんねー。ギルドの上層部はどうなっているんだ?皆んな、ロキの言いなりか?」

 「い、いえ…そういう訳では御座いませんと思いますけど、ただ、うちのギルドでは、残高の割合で報酬金を決めておりますので、他のギルドより貧乏であれば、そうなることも致し方ないと思われます」

 「だ!か!ら!それが、ロキの言いなりだってことだろ?今すぐ、奴の暴走を止めろ!」

ヴァンは、受付カウンターを握り拳でドン!と叩いた。アンは、「すみません、すみません」とお辞儀を繰り返す。

 エリックは、カウンター内に入ると、アンの隣に立った。

 横に向きながら、舌打ちするヴァン。彼は、「ごみロキが…」と呟いた。

 「ヴァン」とエリックが小さな声で言った。ヴァンは、エリックの声が聞こえて、びっくりした顔で正面を向いた。

 「いやエリック様、違うのです。これは、言葉の綾と言うか」

 「いや、良いんだ。それより、ヴァン、お前お金に困っているのか?」

 「ふん、この街でハンターやってて、お金に困っていない人なんて居ませんよ」ヴァンは、また横を向いた。

 「良い仕事がある。報酬は、3000ギルだ」

 ヴァンは、目を大きく見開いて、目ん玉をこぼれ落ちてしまいそうになるくらいまで飛び出させた。

 「3000ギル?どんな怪獣を倒せば良いんだ?」

 「まあ、詳しい話は後にする。ちょっとそこで待っていてくれ」

 エリックは、そう言い残して、奥の方に入っていった。


 ロキは、皿いっぱいの桃を頬張っていた。街の農夫がお願い事ついでに贈ってきたものだ。

 「う〜ん、美味しいね〜。それにしても、エリックは、昨日高熱を出して馬車すらも呼べなかったのは本当かね?」ロキは、マナの方を睨みつける。

 マナは、ロキとは視線を合わせないよう、そっぽを向いた格好で、仕事をこなしていた。ロキの声に反応して、背筋を伸ばす。

 「ほ、本当です。べ、別に嘘なんてついてないですよ」

 ロキ顔からは、怪しい、の3文字が浮かんできた。「まあね、マナちゃんがそう言うなら信じるけど。それにしても、昼までは、元気だったのに夕方からいきなり高熱を出すもんかね」

 ロキは、胸ポケットから葉巻ケースを取り出した。机の端に置かれているマッチ箱を手に取ると、手に持った葉巻に火をつける。 

 煙をモクモクと吹かせながら、葉巻を吸う。「今日もエギルんところ行きたいんだがな」と呟いた。

 マナは震えだす。彼女は、そっと立ち上がると、無言で出口に向かって歩いていった。

 「ば、馬車の用意をさせます」 なんとか部屋の隅まで届く小声が、ロキの耳に入る。彼は、葉巻を口から離す音で返事をした。

 マナが、扉を開こうとすると、突然、扉が彼女側に開かれた。

 ガコン!、扉は、マナの額に当たり、彼女は、赤くなったところを手で覆う。

 「あ、申し訳ございません。ん?なんだ、マナか」

 エリックが、少し開いた隙間から、顔を出してそう言った。

 エリック!あ〜どうしましょ、とマナの頭が混乱する。

 「お〜、エリック、もう熱は下がったのか?」ロキは、両足を机の上に組んで乗せた。

 「はい、お陰様で。ところでまた、農夫から貰った果物食べているのですか」

 「あ?くれるって言ってきたんだから、食べてもいいだろ?」

 エリックは、ため息をついて、ロキに早足で近付いていった。机に両手をついて、威勢よく声を出そうとする。しかし、いざというところで、声が出なかった。

 こういった献上品を貰って、お返しに何かを渡そうとしたら、街人の間で不平等が生まれる。エリックは、このことを以前にもロキに言っていた。しかし、ロキは、何も学んでいないみたいだ。

 ロキは、エリックに「なんだね?」と言って睨む。エリックは、視線を逸らして「何でもないです」と呟き、その場を離れた。

 

 アレクサンダーは、自身の布団を敷くと、そこにロキオを寝かせた。ロキオは、しんどそうに熱に浮かされている。

 アレクサンダーは、彼の顔を覗き込んで、困った顔をした。

 

 

 

 

 

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