第6話 ロキオ、説得におちる。
マナの朝は早い。
空が白んでいく早朝6時、寝室のカーテンを開けた彼女は、「うっうん!」と声を漏らしながら、伸びをした。
パジャマのまま、暖炉に薪と火のついたマッチを放り込んで、部屋が暖まるのを待つ。十分だと思ったら、棚から取り出したやかんに給水器の水を数量入れて、暖炉の上の火が溢れ出しているところに、そのやかんを乗せた。
彼女は、急いでギルドの制服に着替える。ロキ好みの胸元が開いていて、スカートの丈が短い仕様だ。汚れないように名札は付けず、テーブルの上に置いた。
カップと紅茶の葉を取り出して、沸騰したやかんの水で紅茶を作った。
椅子にもたれながら、寝る前に届いた書類に目を通す。
(夜の10時頃、ギルドマスター様をお守りする際に、馬車の防御を任されていたC級ハンター3名及び彼らと交錯した街人5名が重軽傷を負う)
マナは、頭を抱えた。彼女が、あれほどロキが乗っていることを悟られぬように、御意らに忠告したのにも拘らず、バレて暴動が起きたのだ。
しかし、それはロキのせいであると、彼女は、薄々勘付いてた。以前にも、エリックの不始末でロキは、街に降りてきているにも拘らず、大声で怒鳴り散らしたことがある。その時は、案の定、反ロキの街人達が武器を手に襲いかかってきて、なんとか半分くらいが無傷で逃げ延びれた。今回もその類だと彼女は、感じたのだ。
7時になると、ハンター達が仕事を貰いにやってくる。そのため、6時半には後輩受付嬢のアンが出勤してくる。
マナは名札を鞄にしまい込むと、足早にギルドに向かって、守衛の検査を通過した。
秘書室で書類の整理をしていると、すぐにアンが顔を見せた。
「おはようございます。今日は寝坊ですか?」 慌ただしそうなマナに、アンは茶化すようにそう言った。
彼女の、茶色の髪を半分後ろに結んで、半分を横に垂らしている髪型はマナと一緒だ。恐らく、これもロキの好みなのだろうと、マナは察しがついていた。2人の顔が少し似ているのも、裏付けを強めている。
今日は、エリックがいない。彼の分も、マナがなんとかしなければならないことを、アンに伝えた。
すると、「エリック様?え〜、今日はいらっしゃらないのですか?」とアンが騒ぎ始める。エリックについて語ると、彼女は、いつもこのように、目をハートにして、敬語になる。真意は、訊いたことがないのだが、彼女はエリックに気がある、とマナは思っている。
また、それと同時に秘書になってからの仕事の忙しさから、女の子同士の恋バナや恋愛をしていないことにコンプレックスを感じた。
マナが、ふと昔について思い耽っていると、大きなベルが鳴り、朝7時を伝えられた。
アンは、慌てて秘書室を出て行く。マナは、エリックの手帳を巡りながら、本日のスケジュールを確認した。
「ほら、起きろ」 エリックは、2人に呼び掛ける。縄を巻かれ、柱に括り付けられているロキオは、目を覚ました。アレクサンダーは、相変わらず、いびきを立てながら、まだ寝ている。
「おい、お前もだ。アレクサンダー」
エリックがアレクサンダーを軽く蹴ると、彼は目を覚ました。
「何?」とアレクサンダーは、目を擦りながら、エリックに尋ねる。そして、「ろ、ロキ様!」と、ロキオを指差して言った。
「おい、バカ。それは、ロキオだ。もう忘れたのか」 エリックは、呆れたようにそう言った。
ハッとするアレクサンダーを横目に、エリックは、ロキオに近付いた。
ロキオは、布を口に巻かれていて、言葉を発することができない。「んーんーん」と言いながら、縄を必死に解こうとしている。
エリックが、彼の布をとってあげる。その瞬間、ロキオが目の先の男に向かって文句をたらたらと並べ始めた。しかし、ロキオの言葉には、全く棘がなく、エリックの心に全く響かない。
ずっと、何かを言っているロキオにエリックは、自身の話を伝えるタイミングを見失った。
エリックからしたら、ロキオをジドのように傷つけるつもりなんてさらさらない。寧ろ、ロキの代わりに顔役になるのだから、少しでも怪我を負わさないほうが賢明だった。
困ったもんだ、とエリックは、アレクサンダーの方を振り返った。アレクサンダーは、エリックの顔を見て、頷く。エリックの頭上には、ハテナが浮かんだが、数分後、アレクサンダーの作戦が上手くいったみたいだ。
アレクサンダーが何をしたのか、エリックには、全く分からなかった。しかし、アレクサンダーがロキオの前に立ち、威嚇の様なポーズをとると、ロキオは途端に大人しくなった。更には、小さくなり、震え出した。
取り敢えず、上手くいったということで、アレクサンダーは、得意げにエリックに向けて胸を叩く。エリックは、旧友の相変わらずさを不満に思うも、多少の安堵感を得た。
エリックは、ロキオに今回の作戦の全てを伝えた。
民衆を苦しめているロキに代わって、ロキオが彼になりすまし、街の支配者になること。街の改革方針は、エリックに任せること。すぐロキになりきるのは、不可能だということで5日間、練習を重ねること。
また、もし、この提案を拒否するならば、ジドの命を頂戴すると脅した。エリックは、この発言は失敗だった、と言った直後思ったが、ロキオの意志は固い様で、彼に「その必要はない」と言われた。
ロキオは、十分に納得してくれたようで、エリックは一安心した。
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