第5話 ガビを守るため、ジドが本気を出します。
ジドは、尻餅を付いた。
「こここ、こいつだよ。ガビちゃん」指を差しながら、そう言う。
「早く行こうよ」と言いながら、ロキオは、ジドを引っ張った。しかし、ジドは、足がガクガク震えてて立てない。遂には、ロキオの目からうっすら涙のようなものが見えてきた。
エリックは、その泣き格好を見て呆れた気分になる。
これがあのロキの弟か。まるで、ロキの弱いところだけを掻き集めたみたいじゃないか。こんな男がロキに代わって、街の象徴になれるものだろうか。
エリックは、ビクビクしている2人に何故そんなに怖がっているのか尋ねてみた。
すると、ジドが口をとんがらせてこう言った。
「ふ、ふざけやがってぃ。この大男は、ガビちゃんに意地悪する悪党よ。アンタもこれのグルなんでしょー?」
「悪党?まあ確かにこいつは、悪党かもな。酔っ払って店で暴れてたし」エリックは笑ってみせた。
「僕とロキって人が似ているから、僕を囮役として拉致しようとしてるんでしょ?」涙声でロキがそう言う。
エリックは、もっとおかしくなって笑い声を上げた。
「あははは、それは傑作だ。ロキの影武者ね。しかし、あながち間違いでもないな」
「でも、ガビちゃんに酷いことするのは確定でしょ?」ジドは、エリックの笑い声にほぐれて、強気に出た。立ち上がり、ボクサーのポーズをとる。しかし、不慣れなのか、踊り子の様に見えた。
「ガビがロキオか。ふむふむ」エリックが呟く。続けて、「痛いようにはせん。そのガビとやらを大人しく引き渡せ」とジドに向かって言った。
それにカッチーンとなったジドは、ロキオの前に立つ。ちょび髭をとんがらせて、鬼の形相を見せた。
「何よ、さっきから。笑ったり、命令したり、私のこと舐めているの?私だってね、本気となれば、貴方の二本指を貴方の鼻の穴に突っ込ませて、そのまま背負い投げできるんだからね!」
ジドの大声でアレクサンダーが目を覚ました。エリックの頭上には、ハテナが浮かぶ。
アレクサンダーが目を擦りながら、むくりと起き上がった。それを見て、ジドとロキオは再び、縮こまる。
「あ、あれ。あーーーーー!!」アレクサンダーが大声を上げて、ロキオを指差した。
彼は、「エリック、エリック」と周囲をキョロキョロ見渡す。しばらくすると、エリックの気配にやっと気付いたのか、直ぐ隣の彼を見た。
「あ、ここに居た」アレクサンダーは、エリックを見下ろしながら、ロキオの方に指を差す。「ロキオもいるね」と、おまけ具合に付け足した。
「こ、殺すなら、私からにしてよ。その代わりに、ガビちゃん見逃してくれねーかぁ?」 ジドが涙ながらに土下座のポーズをとった。
エリックがすぐさま「駄目だ」と返す。
「こいつはよ〜、働き者でよ〜、良いやつなんだよ〜」
「駄目だ」
「人の嫌がること率先してやるしよ〜、近隣の住民からは愛されてるしよ〜」
「駄目なものは駄目だ」
「見逃してくれね〜か〜?」いつの間にか、ジドはエリックに近付き、彼の両肩を掴んでいる。涙を流しながら、エリックに顔を近づけた。
「ちっ、汚ーな」 エリックは、そう言うと、ジドの脇腹に蹴りを入れた。
ジドは、死んだような顔をして、脇腹を抑えながら、倒れ込む。
エリックは、そんなよれよれ人間を無視して、ロキオに近付いた。
「別に殺しゃしない。寧ろ、殺しの手伝いをして欲しいんだよ」 エリックは、地面に手を付けているロキオに、手のひらを差し伸ばした。
「い、嫌だよ!」ロキオは、精一杯声を上げる。「僕は、ジドさんに強烈にキックをする奴なんて信用できない。僕のこと殺したければ、さっさと殺せばいいよ。だから、ジドさんにもう暴力を振るわないで!」
エリックは、ため息を吐く。「何度も言ってるが、俺達は殺そうと思っている訳じゃない。寧ろ、人々の命を救おうとしているんだ」
それでも敵意を向けるロキオに、エリックは、決断するしかなかった。エリックは、ロキオを担ぎ上げる。ロキオの貧弱な力では、エリックには到底及ばないようで、彼は、体を一定の姿勢に保てた。
「アレクサンダー、帰るぞ」
この掛け声と共に、アレクサンダーは、横に転がっている自身の荷物を手に取った。エリックが先頭を歩いて、それにアレクサンダーが続く。
ジドは、あまりの痛さにその光景を黙って見守るしかなかった。
コツコツコツ
ロキが、大怒りの様子でギルドに帰ってきた。
彼は、前庭の守衛当番をしているハンターの胸ぐらを掴む。しばらくの間、プルプルプルとハンターの服を震わせるも何も言わず、手を離して、建物内に入って行った。
服に皺がはいったハンターは、ロキの後ろ姿を見て、愚痴をこぼす。小さな声だからどうせ聞こえていないだろうと安心するが、ロキの後ろを遅れて続く御者に、全て聞かれてしまった。
しまったと思ったハンターは、口を隠して、服を整える。御者は、それを見て、おどけるように(ロキに告げ口するぞ)といった仕草をとった。ハンターは、笑って彼を見送る。彼もロキが嫌いなのだろうと察したからだ。
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