第4話 エリック、テイワに向かう。

 「なんだ、ジドさん。ロキの事、知らないのか」

 「初耳よ。あーそれで、ご近所さんみんな、ガビちゃんのこと怖がっていたのね」

 店長は、頭を抱えた。

 「とにかく、さっき言った騎士には気を付けた方がいい。彼は、独裁者ロキの部下だから、ガビ君に何しでかすか分かったもんじゃない」

 「ええ、気を付けるわ」 


 「ロキ様、午後1時から街の記者がやってまいります。今度のハンター学校支給費削減についてだと思います。一旦、お食事をおやめになって、背広にお着替えになさった方がよろしいかと」 マナは、自身のメモ帳でロキを隠しながら、そう言った。

 彼女は、扉の近くに立っている。ロキは、フォークとナイフでビーフを切っている最中だった。

 「ああ、あれか。めんどくせえなぁ」ロキは、手を止めた。そして、エリックの方を向いてから「おいエリック、代わりにやっといてくれないか?」と言った。

 椅子にもたれながら、書類に目を通していたエリックは、眼鏡を外し、「何の話ですか?」と言った。どうやら、マナの話を聞いていなかったみたいだ。

 彼は、ロキに近づいて、「また、私が代わりに対応すればいいんでしょ?」と顔を伺いながら言う。ロキは、口元を緩めて、ゴマをすりながらこう言った。

 「今から、用事があるのよ、エギルんところに」

 「また、お酒ですか?」 エリックは、言い返す。

 「まあ、それもあるけどね。ほら、男なら分かるだろ?」

 エリックは、エギル店の綺麗な奥さんを思い浮かべた。

 「あの方とも不倫をなさっているのですね」 飽きれた口調でそう言う。

 エリックの言葉に、マナが震え出した。

 「まあ、そう言わずに黙って馬車出してくれよ。デモで外も出歩けねえし」

 デモもそうだがエギル店は、街のはずれにあり、ここから距離がある。馬車を使うのは、妥当だ。

 「わかりました。記者の対応は、私がしておきます。馬車も準備しておきましょう」

  エリックは、そう言うと、扉に向かって険しい顔で歩き出した。マナの隣にまで来ると、彼女の肩に腕をまわした。

 「行きの馬車は、用意する。だが、帰りの分は用意しないつもりだ」

 マナは、小さな声で驚いた。

 「俺は、テイワへ向かう。アレクサンダー一人では、ロキオを探すのは不可能だと再考した。ロキにはその為の時間稼ぎとして、エギル店に少しでも長くいてもらう事にする。記者には、マナお前が対応してくれ。なぁに、適当に答えれば何とかなるさ」

 エリックは、ぶつかるように扉をこじ開けた。


 アレクサンダーは、散髪屋から出てきた。そこでも収穫がなかったのか、しょんぼりしている。

 彼のような大男が、げっそりとした顔をしていると、周囲からは気味が悪いようで、街人たちは、皆彼を避けて歩く。

 懐中時計を懐から取り出し、時刻を確認すると丁度午後2時を回ったところだ。太陽の暑さに身も心も疲弊してきた。

 疲労と、終わりの見えない任務に嫌気がさしてきた彼は、無意識に居酒屋もついでに探すようになる。一度探し始めると、酒の味ばかりが頭によぎるようになった。

 しばらく歩くと、(キャバクラコムギ)とピンクの光輝く看板が見えてきた。

 アレクサンダーは、休憩と称し、店内へと入っていった。


 6時15分。商店街でのジドの用事を終えると、二人は、夕食を食べて帰ろうという流れになった。

 ジドが、「普段、行かな~いお店がい~い」と駄々をこねたので、飯屋も兼ねている(キャバクラコムギ)という店に向かった。

 キャバクラ未経験のロキオを、意気揚々としているジドが先頭に立ってひっぱって行く。

 中に入ると、暗い店内に奥の方でドタドタと人が暴れる音が伺えた。萎縮するロキオに、つられてジドも体が小さくなる。

 ひょこっとスーツ姿の男が顔を出した。彼に、一言二言質問され、席に案内される。

 座ると直ぐに、厚化粧の女の子が2人、彼らを挟むようにして隣に腰を下ろした。

 

 エリックの目には、あれがアレクサンダーであると直ぐに分かった。店頭で待ち構えていたボーイの腕を振りほどいて、店の奥に走っていく。

 酔っぱらったアレクサンダーが、複数のボーイに押さえつけられているのが見えた。

 「おい、そこの走っている不審者取り押さえろ!!」振りほどかれたボーイが叫ぶ。

 アレクサンダー付近に集まっていたボーイの中の2,3人がエリックに気付き、彼に敵意の目を向けた。

 前方からエリックに向かって走ってくるボーイ達。彼らをかわすために、彼は衝突する直前に横の椅子を踏み台にして、大ジャンプを披露した。

 エリックの股を見上げながら、ボーイ達は立ち尽くす。

 着地後、2,3歩歩くともうアレクサンダーは目と鼻の先だ。

 「帰りが遅いから、そうだろうと思ったよ。おい、何やってんだ。どうせ、まだ見つかってないんだろ?」

 エリックは、アレクサンダーの頬を思いっ切りビンタした。

 アレクサンダーは、正気に戻り、エリックの顔を見る。

 「あ!エリック!い、いや、これは誤解だ。俺は、断じて酔っぱらってなどいない」

 「いいから、行くぞ」 エリックは、アレクサンダーの手を引っ張り、立たせる。手を繋いだ状態で、周囲のボーイ達に頭を下げまわった。

 お金を払おうと、店頭へ向かった。エリックは、酔いでふらふらのアレクサンダーを何とか店前まで引っ張りだす。

 もう二度と来るなよ、と言った目の会計のボーイにエリックは、またお辞儀をして、店を出ようとした。すると、扉を通せんぼうしているアレクサンダーに、手こずっている様子の男2名の後ろ姿があった。

 エリックは、謝罪しながらアレクサンダーの背中を押す。無事一人分が通れるようになったところで、2名のうちのちょび髭の方から順番に外に出ようとした。

 その時、エリックに衝撃が走った。

 ちょび髭の後ろに続いて出ようとしているのは、まさしくあのロキオではないか?横顔位しか分からないが、それはロキそのものだった。

 無事外に脱出できた二人は、アレクサンダーに会釈する。続けて、アレクサンダーの顔を見て、震えあがる挙動を見せた。

 

 

 

 

 

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