第3話 騎士の正体は?

 「店長ちゃ~ん、男二人いけるかしら」

 顔だけ入店したジドが、二本指を立ててそう言う。

 「お~、ジドさん、また来てくれたんだ。いつも悪いね」

 「えっとね~」と呟きながら、店長は店内を見渡す。どうやら、全席埋まっているようで、店前で立っている二人には残酷な事を伝えなくてはいけない。

 「すまんね~、ジドさん。今、満席でよ。少しの間だけど待っててくれるか?」

 ジドは、お腹をさすりながら、辛そうな顔をする。それを見た店長は、「すまんねー、直ぐには出せないから、他あたってくれんか」と申し訳なさそうに言った。

 ジドが、店の扉を閉めると店長の脳裏に閃くものがあった。

 そういえばさっきの大男、食事中にトイレに駆け込んだが、もう食べれないんじゃないか。

 店長は、まだ誰も手を付けていないアレクサンダーのパスタを見た。まだ、できたてで湯気がふわふわしている。アレクサンダーは、荷物用にと、もう一つ席を余分に奪っている。

 店長は、叫んだ。

 「ジドさ~ん!席空いてますよ!!」 

 2,3秒で、扉が再び開かれた。ジドが顔をだし、細い目で店内を伺う。

 店長は、彼に気付いて、アレクサンダーの荷物を端に寄せる手を止めると、手招きした。

 ジドは、店長を見ながらこう言った。

 「あのぉ、連れが。どこかへ行ってしまいまして。いや、あのね、私がもう動けな~いって言ったら、僕探しに行ってきますだって。ほら、この辺、食事できるところ少ないじゃない」

 「やめになさいます?」

 ジドは、「いやっ」と呟いて、あごに手を付けると考え始めた。しかし、それはものの数秒で、終了した。店長の横に美味しそうなパスタが見えたからだ。

 水分で光る麺に、レモンと胡椒が乗せられている。

 ジドは、すっ飛ぶように店長が空けた席に座った。そして、さっきのパスタを見る。

 「ねえねえ、店長ちゃん。これ食べてもいいかしら」

 店長は、困った顔をした。さっきは、もう食べれないと憶測したが、もしそうでなかったらどうしよう。この失態が原因で、悪い口コミが広がったら取り返しのつかないことになる。

 その時、後ろから男の声が聞こえた。

 「おう、悪いな。席とっちまって。そこのパスタ、ちょび髭の兄ちゃんにやるよ」

 声の主は、アレクサンダーだった。彼は、端にあったバッグと剣を手に取る。

 「店長、お勘定は?」 アレクサンダーは、カッコつけて言った。

 「1700ギルになります」

 アレクサンダーは、1000ギル札を二枚と一枚の似顔絵を取り出して、「釣りはいらん。それより、この似顔絵に似た男を知らんか?」と言った。

 店長は、札をポケットにしまい込んで、似顔絵を見る。そこには、昔ガタヤマと呼ばれていた街で、現在独裁政治を行っている男の顔が凛々しく描かれていた。

 「ロキか、、」 店長は、悶絶するように言った。

 「流石は、凄腕のパスタ職人だな。そうだ、ロキに似た男がこのテイワにいると聞いて、探しに来たんだ。なにか知っているなら、教えてくれ」

 「通りでその服装、見ないなと思ったらガタヤマの方の」店長は、アレクサンダーの服を見てそう言う。そして、「ふん、俺は知らないね、ロキに似た男なんぞ」ときっぱり言った。

 「悪いな、あと余分に渡した300ギルで、この店の客たちに聞いて回る権利をくれ」

 店長が、仕方なさそうに頷くと、アレクサンダーは、早速近くのちょび髭に話しかけた。ちょび髭は、アレクサンダーが残したレモン風味のパスタをむしゃむしゃ食べている。

 「この似顔絵に似た男を近くで見なかったか?」 アレクサンダーは、店長から奪い返した絵を提示した。

 ジドは、とぼけた様にアレクサンダーを見上げた。

 「これは、ふーん、どこかで見たような」

 ガビちゃんに似ているけど、少し違うわね。あの子は、もっと呑気で優しそうな見た目をしている。こんな、ずる賢そうで威厳のある顔できるわけないわ。

 「う~ん、知らないわね~。パスタくれたのにお役に立てなくて、申し訳ないわ」

 ジドは、悲しい目で再びアレクサンダーを見上げた。

 アレクサンダーは、その目が気持ち悪く感じて視線を逸らす。そして、「あ、ありがとよ」とだけ残してその場を去った。

 彼は、店内の客全員に一通り、聞いて回るとしょんぼりして店を出ていった。有益な情報が手に入らなかったからだ。

 しかし、気を落ち込ませては、見つかるものも見つからない。気を取り直して、次の聞き込みに向かった。


 アレクサンダーが去ってから、数分間が経っていた。

 ジドの姿が消えたということで、ロキオは、パスタ屋周辺をぐるぐると探し回っていた。

  せっかく空いている店を見つけてきたのに、ジドさんはどこに行ったんだろう。

 ロキオは、試しにジドを待たせていた行きつけのパスタ屋を覗いてみる事にした。

 小さな声で「失礼しま~す」と言いながら、扉を開ける。パスタを丁度食べ終えたジドの姿が彼の目に映った。

 幸福そうに、新たな注文を店長に伝えるジド。ロキオは、出かけていた涙を引っ込めてジドの近くに駆け寄った。

 「ジドさん、探しましたよ」 ロキオは、安心した顔でそう言う。

 「あ、ガビちゃん。遅かったじゃないの。待ってたわよ、ささ、注文して頂戴。今日は、私の奢りよ」

 ロキオは、ジドの隣に座ると、メニュー欄を見る。

 すると、店長が話しかけてきた。

 「ジドさんから聴いたよ。ジドさんの為に、レストラン探し回っていたそうだね」

 「そうなのよ~、ほんといい子だわ~」 ジドが付け加えた。

 ロキオは、それを聞いてか聞かずか、「ハーブ香る2種類の魚介ボンゴレビアンコ」と注文した。

 「それより、ジドさん。あと、ガビ君にも聴いてほしいんだけど」

 ロキオとジドが、店長の真剣そうな顔を見る。

 「ついさっき、隣町のアレクサンダーとかいう騎士様が、ガビ君を探してここで食事とっててよ。ほら、ガビ君、独裁者ロキに似てるじゃない。きっと、あの騎士は、ガビ君の噂を聞きつけて、ロキの影武者奴隷を探しに、ここを訪れたんだと思う」

 「独裁者ロキ?」 ジドは、首を傾げた。

 

 

 

 

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