第2話 ロキオという男
ロキが暗殺される一週間前、彼に非常に似た容姿を持つ男がいるという噂がギルドに伝えられた。
その男は、山を2つ超えた所にあるテイワという街で、木こりをやっているそうで、その前は何をやっていたのか、彼自身も一切記憶にないらしい。素性の知れない彼であったが、気の弱く、真面目で働き者であった為、近くの住民たちは彼に対して同情に似た温情を持つようになったそうだ。
エリックは、その情報を聞きつけると、直ぐに街の騎士団長アレクサンダーにその男の顔を見に行き、彼がロキオであれば連れて帰るようにと命じた。エリック自身は、その男の存在がロキの耳に入らぬよう、ギルドの職員に忠告してまわった。
アレクサンダーが出発した日の夜、エリックは、ロキが寝静まったのを見計らって、マナを自室に呼び出した。
「ロキ様の暗殺ですか、、」
マナは、背筋を伸ばした姿勢で椅子に腰かけながら、紅茶を啜っている。ティーカップの取っ手を持ちながら、エリックの言葉にビックリした。
「ああ、ロキには見た目が瓜二つの弟がいた。名前は、ロキオというんだが、ロキが父の跡を継いで権力者になってから、唐突に消息を絶ったんだ。死んだと思われていたんだがな、もしかすると生きているかもしれない」
「ふむふむ。だけど、そのロキオさんが生きていたとして、私たちに何か関係でもあるの?」
マナは、首を傾げた。
「彼には、ロキ暗殺後の代役をやってもらう。民衆もロキの独裁に我慢の限界だ。かといって、ロキをただ闇雲に殺して、指導者を消しても更なる混乱を招く恐れがある」
「それで、ロキオという方をお呼びになるのですね」
マナは、紅茶を口に運び、空になるまで飲み干した。そして、ふ~、と一息つき、何か考え事をするように上を見るとこう言った。
「だけど、右も左も分からないロキオさんにギルドマスターなんて大役つとまるかしら」
「ふん、そんなの俺たちが、フォローしていけばいいだろ」
「うふ、それもそうね」
マナはそう言って、カップとソーサーを両手で持ちながら、席を立った。エリックに目をやり、口元を緩ませる。
「そうしたら、エリックのやりたかった事も実現できそうね」
彼女は、そう付け加えると、部屋から出ていった。
早朝6時、ロキオは住まわせてもらっている木こり一家の為に、まき割りをしていた。彼は、一家の幸せそうな笑顔を想像して、休まず斧を振り続けていた。
朝ということもあり、気温はまだ低い方ではあったのだが、彼の半袖には、汗ががっつり浮き出ている。家の中から、一家の大黒柱であるジドが顔を出して、ロキオの様子を見に来た。ジドは、ちょび髭が特徴的な男だ。
「お~、ガビちゃん、おっは~。あれ~、ガビちゃん汗びっしょりじゃないの~」
ガビとは、ロキオの事である。
ロキオは、手を止めて、ジドに正対した。
「ジドさん、おはようございます。いえいえ、私にとってはこれくらいの労働、当然ですから」
「ふ~ん、でもねガビちゃん。働きすぎは、体に毒よ。ママが今、朝食作っている最中だから、もうお家に帰っておいで。じきにできるわよ」
ロキオは、もう一度斧を振り上げる。そして、こう言った。
「ありがとうございます。だけど、もうちょっと頑張ってみます。皆さんには、本当にお世話になっていますから」
ジドは、諦めて「そ~う?」と呟き、家に引き返していった。
アレクサンダーは、テイワの宿泊所から出ると、昨日の続きを再開した。
今回の任務は、極秘ということで、彼一人でロキオの捜索に取り掛かっている。その為、彼の疲労は中々のものだ。
木こりという噂だけでは頼りなかったので、人の多い商店街から探し回った。
しかし、ロキに似た男の話は、意外にもなく、確証に至る情報は全然掴めない。
しばらく捜索すると、アレクサンダーの大食いのお腹が音を大きく鳴らした。彼は、朝から何も食べていないことを思い出して、遅めの朝食を取ることに決める。どらの様な腹音を抑えるようにして、レストランを探した。
近くからいい匂いがする。その匂いに誘われるように彼は、{仲良し食堂}と書かれた店に入っていった。
朝ご飯を家族一同で食べ終えたロキオとジドは、2人だけで商店街に向かった。
彼らが、そこに着いた頃にはもうすでに、正午になっていた。早めの朝食を取っていたので、二人のお腹はもうペコペコだ。
「ガビちゃん。アタシもうお腹ペコペコよ~。おつまみ程度でいいから何か買ってもいいかしら~」
ジドは、お腹を抑えてそう言う。どことなくちょび髭も、しょんげりしているように見えた。
「昼の12時にもなりましたし、そろそろお昼ご飯にでもしますか?」
ロキオは、胸ポケットから懐中時計を取り出して、そう言う。
「いつものところでい~い?ガビちゃん」
ジドの発言にロキオは、口を緩ませた。
「パスタのおいしいあのお店ですね?」 ロキオのお腹がぐ~っと鳴った。
「ここのスパゲッヒィすへ~うめ~な」
アレクサンダーが、言葉を発すると、彼の口の中が調理中の店長に見えた。
「お、おう。ありがとよ」 店長は、極力アレクサンダーの方を見ないよう引きつった顔をしている。
彼が、食事を始めて、かれこれ30分以上が経過しようとしていた。一口目から、パスタに病みつきになった彼は、息をするように麺を口に運ぶ。そして、常に手の付けていないパスタの皿が横にあるよう、頻繁に注文を行った。
「おにーちゃん、よく食べるね~。うちのパスタは、この辺では凄い人気で皆、大体2,3皿頼んで帰っていくんだけど、おにーちゃん程食べる人は初めてだよ。かれこれ、15皿か?」
店長が、口角を上げてそう言った。
「1,2,3、、、15と今食べていふので、16皿っふへ」
「へへ、そうかい。うれしいね~」
店長がそう言ったその瞬間、アレクサンダーに便意の衝撃が走った。
「う、う~。ト、おトイレお借りしてもよ、よろしいでしょうか?」
店長がコクリと頷く。アレクサンダーは、大急ぎで店内のトイレルームに駆け込んでいった。彼を見ていた店内の他の客達が、一斉に笑った。
そんななか、新たに2人の入店客があった。
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