5‐2 終わりへと向かう始まりの一歩
その中で、装備を新調した――と言っても槍以外前までと変わらない――リヴィと、気炎万丈と漲っているシャーリーが立っていた。
「リヴィ、準備は良いよね」
「あぁ。身体完全回復、霊力気力満タンだ。ミーシャもありがとう、槍見つけてくれておいて」
手を何度か開閉するも、違和感はどこにもない。今回は最初から万全。狩れるとまではいかないだろうが、隙を見て連れ戻す事くらいはできるだろう。
「まぁ、埋まってたのを掘り起こしただけだけどね。規模がデカすぎて話にはついていけなかったけど、とりあえずアタシはメシでも作っとくよ。三人分作っとくから、絶対に食べに来な」
「ああ、勿論だ!」
「よし、じゃあ早速【神よけの陣】のところまで――」
「——おい待てよ【
「あ?」
シャーリーの声に背後から被せられたがなり声。後ろに振り向けば、そこには眉間に皺を寄せたサトバが大股でこっちにやって来ていた。
「なんだサトバ。コッチは忙しいんだ、用があるなら後にしてくれ」
目の前でサトバが止まる。
「チッ――。テメェ今からあのクソ野郎どもをぶっ殺しに行くんだってな」
「殺しは目的じゃない。あくまでアンリを連れ戻すだけだ」
「同じ意味だろうがクソッ」
苛立ったサトバが地面を蹴る。カツカツと踵を鳴らし、リヴィを睨みつけては視線を外していた。
「……お前、もしかしてついてくるつもりか?」
「あ……!? んなわけねぇだろ。テメェみたいな自殺志願者と一緒にすんじゃねぇよ。オレは身の程を弁えてんだ」
随分と腰の引けた発言。ギルドでの諍いでも似た様なことを言っている以上、s鳥羽が命を賭けるという事はしないのだろう。
リヴィがそれを受け入れられないとはいえ【今だけを生きる者】としてはサトバの考えは正しいと言えば正しい。
だとすれば、今サトバがここにいる意味が余計に分からない。わざわざこの状況で悪態だけを吐きに来たわけでもないだろう。
「お前もしかしてアンリの事で謝罪にでも来たのか? だったらいらないぞ。アレはお前の責任じゃないからな」
「誰が白ガキなんぞに謝るかよ。お前が言うように刺したのはオレの責任じゃねぇんだから」
「だったら、何だよ……。早く要件を話せ。こっちは時間がないんだ」
ぐだぐだとし続けるサトバに若干の苛立ちを覚える。
「チッ――『深淵に仇なす魂の顕現。苦しみを以て怨敵を救済せん。霊法二ノ章【
舌打ちと共に突然の霊装解放。サトバの手に収まった直剣がギラリと光沢を放つ。
思わぬ行動にリヴィとシャーリーが警戒態勢に入ると、サトバはレックスを振り上げて勢いよく向けて振り下ろした。
「受け取りやがれ!!」
とっさに直剣を受けようとするが、刃は構えるリヴィの前を通って音も無く地面へ突き刺さった。
「お前、何を……?」
サトバの行動が全く分からない。すると、サトバはいきなりリヴィ達に背を向けて立ち去ろうとした。
「お、おい!」
「俺の【獅子の牙】貸してやる。幾分かマシになったみてぇだが、その槍よりかはもっと使えんだろ。オレの下に戻って来る前にぶっ壊すんじゃねぇぞ。んでもって、白ガキと一緒にオレに感謝しにきやがれ」
そう言い残し、直剣を置いて何処かへ飛びたったサトバ。
霊装は自分の魂そのものだ。時間経過で自分の下に戻るとはいえ、その前に破壊でもされたら魂が大きく傷ついてしまう。
「アイツ、アンリと一緒にって言ったよな」
「言ったね。多分、どんなに言われようが自分に責任があると思ったんじゃない? あの人、誰かを失う怖さは知ってるみたいだし」
シャーリーがそう言ったところで、サトバの【白忌子】への憎悪を思い出す。それを考えると、大切な誰かを失ったことは察せられた。
なら、その復讐心を隷機に強く向けて欲しいところだが、そうできない理由もあるのだろう。そこはもう追求しない。
だから今は、ありがたくサトバの魂を借りるとする。
「ったく、不器用すぎるくせに変に律儀なんだから」
「ふふっ。でもこれで絶対に生きて帰らないとね。人の願いと約束は無視したらダメなんだよ?」
「分かってるよそれくらい。願いも約束もとても大事だもんな」
アンリと交わした願いと約束。それはまだ叶えられていないけれど、絶対に叶えてみせる。叶えられる未来も0じゃない。
そのための歩みが今だ。
「じゃあ行くよリヴィ。最後の戦いだ——」
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