第15話 特訓の合間の告白
この世界での魔法とは、詠唱しそれを感じなければならない。
故に魔法を一つ使うのに集中力をかなり割いている。
慣れてくれば無詠唱で魔法を発動できるが、それは魔法の発動時間の省略であり、魔法に使う脳の処理範囲を省略しているわけではない。
つまりはどういうことかって?
この世界では基本的に魔法は一度に二つ以上唱える事は不可能ということだ。
「ショウヤ、お前なんだこれ? スキルなのか!?」
「あっ、いや……、分かんないです」
あれ?
なんか、可笑しいな……。
もっとこう、『流石ショウヤ!』みたいな感じで喜んでくれるかと想像して頑張ってたんだが……。
俺なんか悪い事したかな!?
タクヤさんには全く心当たりがない事だけは伝えた。
「やってみたらできたか……」
「そんなにおかしいんですか!?」
「有り得ない事ではないんだが、お伽噺の中の大魔導師が扱っていた固有スキルだったとか……」
ていうことは、今この世界ではまだ確認されてないのか。
一体なんで俺にこんな力なんか……。
まぁ心当たりがないわけではないんだがな、一応……。
「まぁ分からねぇ事をいつまで考えても埒があかない、その分身につけるスピードが早いんだから、ラッキーだったな、ショウヤ!」
タクヤさんは笑顔で俺の肩をトンと叩いてきた。
この人のこういうところ、なんか安心するな……。
「んー、おはようショウヤ」
「おはようございます、ショウヤ様!」
「おはよう! エルマ、ユミ!」
みんなが続々と起きてくる。
「さぁ、朝飯前に次の特訓に行きますか」
「あの、タクヤさん……、俺まだ寝てないんですけど……」
「……、それは自業自得だろ」
ごもっともです……。
「次はこの魔力を無意識であらゆる場所に素早くコントロールする技術を身につけて貰う」
「……?」
「まぁ……、まずは体感して貰おうか」
そう言うと、タクヤさんは広い場所に俺を手招きし、剣を俺に渡す。
「それで、俺を思いっきり切ってみろ!」
「え!? そんな事できないですよ」
「まぁ、いいから、お前の剣じゃ傷一つ付かないからよ」
そんな事言われても……。
くっそ、やってみるか。
少しだけ加減しよう。
「いきますよ!」
「早くやれよ」
「うらぁぁぁ!」
俺は剣を下腹部に突き刺す。
が、剣は皮膚の上で止まり、全く動かない。
「えっ!? マジかよ……」
「だから言ったろ」
これが、魔力の力だって言うのか!?
「今俺はお前が刺そうとした箇所を予測し、無意識に魔力を集中した。この世界において、人の強さは魔力×ステータスと言ってもいい!」
「かけ算!」
「今お前は魔力のないステータス値のみで攻撃しただろうが、それでは俺の魔力×ステータスを破る事はできない! この魔力コントロールができれば、ほぼ全ての魔物を相手にできる!」
「それができれば、タクマさんみたいになれるんですね!」
「俺より強いやつはたくさんいるよ、それに一部の魔力を使う魔物と、さらに魔族には同じことができるから気を付けろよ」
「あぁ、確かにあの魔像と魔族もそんな感じでしたね」
「えっ!? お前魔族と会ったの?」
「はい、噛みつかれましたけど、なんとか……」
「…………、よく生きてたな」
そして、次の特訓に入る。
ふん、次もお待ちかね! かなり地味な特訓だぜ。
もっとこう、激しいのを期待してたんだけどな。
「イタッ!」
「おら、間に合ってねぇぞ」
「いつ来るかわからないのに、反応間に合わないですよ」
「まだまだね、ショウヤ!」
「これもショウヤ様のため、このユミも全力で射たせていただきます!」
「ほら、こっちだぞ!」
「今度はこっちよ!」
「隙有りです、ショウヤ様!」
現世なら確実にいじめだろう。
今俺は三人から伸縮性のある輪ッかを当てられている。
まぁ輪ゴムを親指に引っ掛けて離して攻撃されている。
微量の魔力を込めて射ってくるから、ダメージは無いが少しだけ痛い。
「なんかお前ら楽しそうだな……」
「そんな事はないぞ! 丈夫そうな初心者を見つけたからと言って色々試しているわけでは断じて無いぞ! ほら、こっちだ!」
「アイタッ! やっぱりそういう事ですか!」
「私は違うのよ、ショウヤ! これが当たった時のあなたの反応が面白いからとかそういうわけでは……」
「それが一番怖いぞ……」
「違いますよショウヤ様! 私は将来を見越して、もしショウヤ様がMだった場合にわたしがその性癖を埋めていって差し上げないとと思い……」
「すっかり変態になってきたな……」
そんなこんなで、二日目は過ぎていった。
「よぉし! みんな今日もご苦労、しっかり休んでくれ! 流石にショウヤも今日は寝ろよ!」
「…はい、もう気力残ってません……」
「わー身体中腫れてるわね、ショウヤ君」
「あーサヤカさん心配してくれるんですか」
「明日は私も参加してみて良い?」
「それはご遠慮致します!」
はぁ、流石に疲れたな……。
さてと、だいたい魔力のコントロールは掴めてきた感じがする。
魔法の大きさを自由にできるし、スキル『魔力感知』の感覚も覚えてきた。
「明日はもっと被弾しなくて済みそうだ~!」
と、俺は両腕を上げてため息混じりに独り言を発した時、テントの向こうから声が聞こえてきた。
「ショウヤ様、あの……その……新しいスキルを試したいので、少しだけ見て貰えませんか!」
ユミか。
新スキルのお披露目か。
俺がアドバイスできるのかねぇ。
「スキルなら、タクヤさんに見て貰った方が良いんじゃないか!」
「!?」
「ユミ?」
「……、お願いします、一緒に付いてきてください」
まぁ、いいか。
新しいスキルなら今後の連携になるかもしれんし。
まぁ、コイツはノーコンなんだけどな!
五十メートルくらいか。
俺達の野営の焚き火が微かに見える所で足を止めた。
お互いに無言のまま歩いてきた。
「おい、ユミこんな場所でスキル見せるのか、暗くてあんまり見えないぞ!」
「良いんです、その方が……」
「ユミ?」
後ろからそっと手を巻かれる。
両腕が、俺のお腹をしっかりと掴んでくる……。
「おい、ユミ、待て、どうしたんだ! こんなこと」
マズイ、ユミの柔らかい胸が、感触が。
良い匂いが、俺の理性というリミッターに手を掛けている。
「嫌ですか?」
「えっ?」
「こういう行為は、ショウヤ様は嫌なんですか?」
「別に嫌じゃないが、こういうのは好きな人とかとやるもんだ」
俺、なんか超絶ダサくないか……。
青春もなく、務所暮らしも長かったから、こういう時なんて声をかけていいかわからない!
「私は好きですよ」
「!!!!!」
「あ、今ビクッてなりましたね、ショウヤ様カワイイ……」
「からかうんじゃない」
「からかってなんかないですよ、私は本当にあなたの心が欲しい」
「心を……」
俺は腕を振り払おうとしたが、その間際に見えた彼女の泣きそうな顔をみて、力を抜いた。
「ちょっとショウヤ! ユミもどこ行ったのよ!」
やっべ、エルマだ!
この状況はマズイ!
「おい、ユミ戻るぞ」
「もぅ、本当に勘の鋭い女ですね……」
彼女は俺から手をほどき、後ろを向いた。
「今回はここまでにしておきます!」
「……、おいユミ、それどういう意味」
「エルマさーん! ごめんなさい、ちょっとショウヤ様にユミの練習相手に」
「もー、それならそうと一言いってよね、私も付き添ったのに」
「ごめんなしゃい!」
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