第14話 基礎練

「来たな、ショウヤ」

「はぁ来ましたよ、一応……」


 俺は早朝、村の入り口に向かっていた。

 今日から俺は、Sランクの依頼に向かう。

 まだ片方の手で数えられるくらいしか、実戦経験ないのに、ドラゴンなんて、本当に大丈夫なんですかね。



「はぁ~」

「なんだなんだ! ため息なんて運が逃げちまうぞ!」

「そうは思うんですが、不安で」


「大丈夫だって! 道中で俺が鍛えてやるよ。お前ならアイツ達にだって負けてねぇからな」

「アイツ達?」


「あっ……いやいや、こっちの話だ」


 なんか誤魔化されたな。


「も~遅いよタクヤ! 早く早く!」

「タクヤさんはいつも時間ちょうどっすよね~」

「お~悪い、悪い、サヤカにマサト!」



 タクヤのパーティーはもう既に着いていた。

 すると、サヤカさんがこちらに近づいてくる。


「ちょっとショウヤ君、二股は止めといたほうがいいわよ…」


「はっ!? 何言ってるんすか! 俺がそんな不埒な事をするわけないじゃないですか~」

「そーなの? じゃあ、あれどうにかしてよ!」


 あれとは?

 奧に二人の人影が…。


「ちょっと、あなたはここに残った方がいいわよ、弓矢当たらないじゃない!」


「エルマさんこそ! この前敵の前で取り乱してたじゃないですか! あんなんで、ショウヤ様を守れるはずありません!」


「私は魔法使いよ! サポートでは負けないわ」

「私こそ! 心身共にショウヤ様をサポートしてあげます! ウヘヘ…」


 またかよ、アイツら。

 よくもこんな早朝から喧嘩できるもんだな…。


「あの二人、ずっと言いあってんすよ! ショウヤさん、モテモテっすね!」

「モテモテね~、誰が?」


「ガクッ! いや、ショウヤさん、鈍感系主人公すか!?」

「なんだ、そりゃ……」


 ユミは元から来る予定だったが、エルマも着いてくる気か?


「さーて! お前ら! 今から俺達はフーレス村へ暴龍の撃退に向かう。王都を経由して、約五日程で到着予定だ。お前らは俺が守る、だから、お前らも協力してくれ!」

「ええ!」

「わかったっす!」


 タクヤさんカッケェ………。


 さて、村を出発して二時間くらいたっただろうか。

 俺らは六人馬車にて向かっている。

 馬車はマサトさんが手綱を任されている。


「さて、ショウヤ、お前にはこれから毎日魔力の修行をして貰う」


「タクヤさん、ここ馬車の中ですけど、こんなところでやれるんすか? 瞑想みたいな感じですか?」


「いや、寝る時以外は常に魔力を放出して貰う」


 ヤッバイ……。

 なんか、地味でとてつもなくハードな気がしてきた……。


「お前、ファイヤーボールを使えるんだよな! だったらこれをやって貰う! ファイヤーボール!」


 そういうと、タクヤの人差し指に小さい一センチ程の火の玉が放出される。


「このサイズの火の玉を作って、一時間維持できたら次だ」


 マズイ、これは恐らく地味だが確実に基礎練だろうな……。


「ファイヤーボール!」

 俺は人差し指を立て、その上に火の玉を形成する。


 ボッ!


 いきなり一メートルくらいの玉になってしまう。

 ヤッベ! もう少し小さく小さく……。

 だーもう! なかなか小さくなんねぇ!


「本当ですね、確かに玉の大きさを設定されるとかなり難しいです!」

「あら! ユミはできないの? 私はできるわよ!」


「むー、あなたは魔法使いなんですからできて同然ですよ!」

「言ったわね!」


 なるほど、単に魔法を唱えただけでは、魔力を込めすぎてたり、足りなかったりするのか。


 ゲームみたいにステータスに合わせて上がるのかと思ったが。


「魔力のコントロールと維持力、これは魔力を使う戦闘では必須のスキルだ! 自分が思った力をどれだけ素早く顕現するか、そこが最も重要なポイントだ。」


 そしてこのコントロールだが、大きくするよりも小さくする方が難しい!


 大きくするには魔力を込めればいいが、小さくするとなると、ある程度までは抑えられるが、少しでも脱力が過ぎると消えてしまう。


 俺はその調整に三時間掛かった。


「ハァハァ、くそ、やっとできた!」


「うん、思ったよりは早かったな、あとはそれを一時間維持だ」


 この小さい玉を作るのに、集中力をどれだけ使ったことか。

 それを今度は一時間も維持しろだと!


「ちっくしょう! やってやりますよ!」

「よーし、その調子だ」


 それから馬車で揺られ続け、夜となった。


「よーし、今日はここで夜営する! マサト、テント貼れ!」

「承知っす!」

「ショウヤ様着きましたよ、馬車から降りましょう」


「待ーて、ユミ、もう少しなんだ……もう少しで一時間できそうなんだ」

「おーい! エルマちゃんにユミちゃんもソイツはほっといて飯の準備だ!」


「あっ! はーい!」


 もう少しで一時間。


 あと三十秒。


 三、二、一……。



「よっしゃー! 終わったぜ、見たかタクヤさん!」


「モグモグ、うん? おーショウヤ! 終わったのか、さぁお前もこっちで飯食えよ」


「もっとこっちに感心持ってくださいよ!!!」


 空腹も満たし、各自自由行動となった中、俺はタクヤにレッスンを受ける。


「それじゃ次やってみるか」

「ちょっと飛ばし過ぎじゃないですか、タクヤさん?」


「なーに、お前の魔力量なら、まだまだ切れないよ」


 なんか、パワハラの部活に入った気分だ……。


「次は、さっき作った火の玉をあらゆる部位から出してみろ!」

「あらゆる部位?」


「例えば、お前は人差し指で出していたが、これを小指で出す、薬指で、中指で」



 タクヤさんは、一瞬で小指から順に火の玉を作って見せた。


「さらには足で、頭の上で、肘で、お腹で」

「こっ、これは!?」


「俺達はなんとなく魔法は手のひらから出す物だと思っているが、どこからでも出せる、これは身体中から魔力を放出できるからだ。これで、身体中の魔力コントロールをマスターして貰う!」


 マジかよ、人差し指だけであんなに掛かったのに、どんだけ時間掛かんだ、これ……。


 その予想は的中していた。


「くそ、人差し指の感覚と、小指の感覚が全然違う、どうやって力抑えてたっけな……」


「焦るなよショウヤ、感覚を研ぎ澄ましてやってれば明日にはマスターできるはずだ」


「おーいタクヤ! 私達先に寝るね!」

「おぅ! 分かった!」


「みんなで先に寝ててください、タクヤさん。もう少しでコツ掴めそうなんで、あとちょっとだけやっていきます!」

「お、おぅ、まぁ程々にな……」




 このくらいか。

 よっしゃー小指マスター!


 次は中指!

 ちょっと待てよ……。


 部位一個づつやっていったら、流石に日が暮れるな。

 もう夜中なんだが。


 いっそ、二個ずつやれないかな……。

 人差し指やりながら小指で。


「ファイヤーボール!」


 人差し指はきれいな火の玉、小指は大きな火の玉が現れる!


「なんだ、やればできんじゃん!」

「なら、これを利用して練習する部位を増やせれば、早く身に付くはず!」


 次の朝、俺は夜通し火の玉を作り続けた。



「ふぁーあ、よぉ、早朝から自主練とは青臭いじゃあねーか」


「あ……、お…はよう…ございま…す、タクヤさん……」

「うん? お前なんてクマだよ、もしかして夜通しやってたのか!?」


「は…い、何とかこの通りです……」


 俺は、片手の五本指全てに均等な大きさの火の玉を作った。


「!?」


「どうすか!? タクヤさん! 完璧でしょ!」

「ちょっと待て、これは……努力のレベルを越えてるぞ!?」



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