第13話 世界と少女と魔王

「続いてのニュースです。今月21人目の受刑者の死刑が決行されました。佐藤死刑囚は、若いながらに17人を殺害し死刑となり、半年で刑が執行されました。」


「へぇ~、また死刑かよ、ここ数年でバンバン国が殺してんな」

「確かにな、まぁこれで自殺者も増えてるってんだからな」


「そうだよな~、国の景気も良くなって、給料も上がったってのに、幸福度はなんで下がるのかね~」

「それもあるだろうが、噂じゃ自殺サイトが理由じゃって話だ」


「あん、何だそりゃ?」

「苦しい人に突然メールが届いたり、動画が送られてきたり、一緒に自殺したいって人が寄ってきたりするんだと」


「そんなバカな、都市伝説だろそんなの!」

「それが、それに触れたら最後、自殺願望がなくても自殺しちまうってんだ!」

「かー!怖ぇ世の中になったもんだぜ」



 

 この世界には希望はない。

 私の全てだったあの人も、もういない。


「カナ~!おーい?」



 私があんな風にしてしまった。

 私が殺しちゃったんだ。

 こんなことなら、あの時にお母さんと一緒に殺されれば良かったんだ。



「カナ~!大丈夫!?」

「わっ!? どうしたの由依ちゃん」

「こっちの台詞だよ、ぼっーとしちゃって、何考えてたの?」


「うーん、ちょっとね……」

「本当に大丈夫? 何かあったらすぐ言ってよ、友達なんだから!」

「うん、ありがとう由依ちゃん!」



 ダメダメ、私またネガティブになってる。

 お兄ちゃんの事は受け止めて生きていかないと。

 友達もいるんだ、楽しいはず……なのに……。



「ただいま~! って誰も居ないんだけどね」

「よし、洗濯してお風呂掃除してご飯作って、明日に備えて寝よう」


「って、何に備えてるんだろ。未来なんてもう見えないよ……お兄ちゃん……」


「ピロリーン!」

「ん? メール?」


『あの人が居なくなった世界なんて生きている意味なんてないですよね。私と一緒に死んでくれる方を募集しています。興味があれば返信下さい。』



 なんだろう、これ?

 知らないアドレスだ。

 イタズラかな?


 あの人が居なくなった世界……。

 確かに意味なんてないのかも。


「おーい、カナ! 起きなよ、授業始まるよ!」

「う~ん……」

「なに、寝不足?」


「ちょっと最近眠れなくてね……」

「カナが学校で寝るなんて珍しいね」



 最近学校が楽しくない。

 どうしちゃったんだろう、私……。


「ただいま~」

「……まぁ誰も居ないんだけだね」


 さぁて、家事でもやりますか。

「ピロリーン!」


 あ、メールだ。


「お返事ありがとうございました。私も似た境遇を持っています。よければお話しましょう」


 本当に帰ってきたよ。

 でもどうしてだろう……。

 メールなのに、他人には思えない。


 それからというもの、私は他愛もない話をメールでやり取りしていた。

 そしてついに話を持ちかけられる。


「一緒に死んでくれませんか?」

「………はい」


 メールが届いて三日後、私は学校をサボり、地元の駅にいた。

 そこに一台の乗用車が止まった。


「奏江ちゃ~ん! こっちこっち!」

「あっ、どうも……」

「さぁ乗って乗って!」

「はい、失礼します」


 車は駅を抜けて、見たこともない道へ向かい走る。


「あの~、世界さんですよね?」


「そうだよ! あっ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私は神作世界って言うの、宜しくね!」

「私はその、佐藤奏江って言います」


 彼女はこれから死ぬとは思えないくらいに明るかった。

 こんな人が死のうとするなんて、勿体無いな。


 車は高速に乗り、半日程乗っていただろうか。

 着いた場所はどことも分からない山奥だった。


「さぁ、死のう死のう!」


 そうやって彼女は車のトランクから荷物を取り出した。


「これは?」

「いわゆる練炭てやつだね、これが一番楽だよ」


 車の窓を締め切り、鍵をかけ、準備をする。

 車の中で睡眠薬を飲み、練炭を燃やす。

 よかった、苦しくなさそうだ……。


「あとはお任せします、世界さん!」

「うん、またあっちで会えるといいね、お兄さんにも!」


 私は睡眠薬を飲み、すぐに意識が遠のいていった。

 やっと謝れるね、お兄ちゃん……。



 私は目を覚ました。

 あれ、死んだはずだよね。

 ここは死後の世界?


「お目覚めですか、奏江さん」


 目を凝らすと、目の前には天使の様な女性が立っていた。


「奏江さん、あなたはとてもイレギュラーですけども、こっちに連れてきちゃいました!」


 えっ?

 何の話です?


「戸惑っていますね、良いんですよ別に、何を考えていようが関係ないですから」


「何の事ですか?」


「あなたには、趣向をこらすための生け贄になって貰います。記憶も消しちゃいますので悪しからず!」

「えっ、ちょっ!」


 身体に電気が走ったような、そんな気がして、私は私を失った。


「精一杯に彼を踊らせてくださいね!」


 私は誰?


 ここは?


 ドーン!


 爆発音の様な音を辺りに響かせ、私は着地した。


「なんだ、何が落ちてきた?」

「人間どもの新しい兵器か!?」


 私はいったい?

 この人達は何なんだろう?


 なんか、とても重要な事を忘れてるような。

 ダメだ、思い出そうとすると、頭が痛い……。


「おい小娘! 貴様何処からきた?」

「……」

「なんとか言ったらどうなんだ?」

「分かりません……」


 とても怖い。

 でもどうしたらいいかわからない。


「何の騒ぎだ?」

「あっ! これは魔王様、申し訳ございません、侵入者です!」

「侵入者? コイツがか?」

「はい、急に空から降ってきまして」


「!?」


「ん? いかがしましたか、魔王様?」

「まさか……いや、そんな事が……。こいつを牢屋にぶちこんでおけ! 俺の奴隷として使ってやる」


「かしこまりました、魔王様。それでは地下牢に連れていきます!」

「ヒッヒッヒヒ、おい人間良かったな、普通なら殺されるところを、死ぬまで奴隷として使ってやるってよ!」


 あぁ、私連れていかれちゃう。

 なんか、とても悪い予感がする。


 でも何で抵抗しないといけないのか、抵抗したとしてその後どうするのか、全くわからない。



 私は牢屋に入れられ、手足を錠で縛られた。

 何をしないといけないのか、全く考えれない。


「おい、人間の娘! 名はなんと言う?」


 この人はさっき魔王って呼ばれてた人だよね。


「カナエと言います……」

「そうか、カナエか……」


 

 寂しげな表情を浮かべた男は、そう言うと牢屋の鍵を開けて、中に入ってきた。


「少し痛いが、我慢するがいい」

「え!?」


 男は、私の首筋に爪を立て、少しずつ私の中へ爪を突き刺していく。

「痛っ!」

「動くな、我慢しろ」


 私は顔を抑えつけられた。

 血が出ているが、どちらかというと中に何か入ってきている感触。



「よし、これで終わりだ」

「私にいったい何を?」


「貴様に魔族の血を分けてやった。我々魔族は匂いや感覚的なもので相手が人間であるとわかる。これで大半の魔族には貴様が人間だとは一目では分かるまい」


「私に魔族になれと?」

「貴様が生きる術は一つだ。俺に忠誠を誓い、今後魔族として振る舞うがいい」



「くっくっく……、あっはっはは~! あ~可笑しい!」


「貴様! 何を笑っている?」

「だってあなた、私を苦しめたいのか、助けたいのかどっちなんですか!?」


「なんだと! やはりここで殺されたいか!?」

「分かりました! 魔王様、これよりカナエ、全身全霊を持ってお仕え致します!」



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