第12話 戦争の世界で
「………」
「あっ! 目覚めましたか、ショウヤ様」
目を開けると、二つの山の間から、ユミが顔を覗かせていた。
後頭部には柔らかい枕、そっか、俺眠ってたのか……。
「あっ~~~! そういえばロゼは!?」
「あの魔族は、ショウヤ様が倒れた後、すぐに消えてしまいました」
「消えただと、くそ、まだ聞きたい事があったんだがな……」
まだ頭がクラクラするぜ。
これじゃ褒美じゃなくて呪いだっての。
「そういえばエルマは?」
「あそこで泣き疲れて、いや、叫び疲れて寝てらっしゃいます」
「よかった、とりあえず無事か」
エルマの取り乱し様、尋常じゃなかったな。
いつか聞いてみるか。
「ところでユミ、なんでお前は俺に膝枕を?」
「それは、ショウヤ様が目覚めた時に癒されるようにと、男はみんなこういうの好きなんですよね!」
「いや、まぁ確かに男は好きだがな、こういうのはその……」
「なに照れてらっしゃるんですか、ショウヤ様。あなた様さえ望めば、私は何だって差し上げるというのに」
「なんだって、ですか!?」
なんか、今日は妙にユミが強気だな。
少し異常というか……。
「おい!そこのバカップル! イチャついてないで、早く元の次元に帰るぞ」
「あっ、おっさん居たんだ!」
「居たよ! おめぇが出ようって誘ったんだろが!」
「む~、空気読んで下さいよオジサン」
俺はエルマを背負い、おっさん、ユミとともに入り口まで戻った。
久しぶりの外な気がする。
扉を開けると、俺が焼け野原にした、大地が広がっていた。
「よし。エルマ、ユミ、町へ戻るぞ!」
「それじゃ俺はここで別れるぜ」
「おっさん! なんだよ、町へ行かないのか」
「あんな町へは二度と戻ってたまるか! でもよ、お前のおかげでまた外へ出られた。そのさ、あんがとよ」
「あぁ、おっさんも引きこもってないで、出歩けよ。現状維持するだけなんて、つまんないだろ!」
「この野郎、痛い所つくぜ」
そして、俺はおっさんと別れ、三人でマアレの町に戻った。
明後日にはドラゴン退治に向かう事になる。
今日はもう休むとしますか。
次の日、俺は宿屋から外へ出ようとすると、嫌な視線を感じた。
俺を見ながら、陰口を言ってやがる。
宿屋から出て町をぶらついてみても、それが消える事はなかった。
「いたよ、あいつだよ。昨日大事な狩り場を一人で全滅させたらしいよ」
「マジかよ! 一人でって、メチャクチャ強いんじゃねぇか?」
「強いならもっと他所に行けっての! これじゃ腕に自信のない冒険者はどうするんだよ。全くルールだけは守って欲しいな」
「それにアイツ、その前も冒険者半殺しにしてたやつでしょ! どうせ自分勝手で腹黒い奴なんだよきっと……」
ははーん、昨日の焼け野原の件か。
これは弁解の余地はないな。
俺が百パーセント悪い。
「あっ!?」
女性の声が聞こえ、振り向くとエルマが立っていた。
しかし、すぐにエルマは目を逸らす。
「その、昨日はごめんなさい、私取り乱して……」
「まぁ別に気にしてないよ、エルマが無事ならね」
「えっ!? アンタ、その性格もどうかと思うわよ」
「ん!?」
「なんでもないわ! 魔族は私苦手でね」
エルマは昨日については触れて欲しくなさそうだな。
「ところで、ランチでもどうですか? お嬢さん?」
「えっ!? 何よその言い方……、まぁいいわ、ちょうど昼食取ろうと思ってたとこだし、勿論ショウヤの奢りでね!」
二人で手頃な定食を頼む。
そういえば、こうやってゆっくり話すのも初めてだな。
まだ、来てばかりでイベント三昧だったからな……。
「そういえば、エルマってなんで冒険者になったの?」
「!?」
「いや、ここは日本人が多いだろ、わざわざどうしてと思ってな?」
「そんなの、冒険者に憧れてたからに決まってるでしょ!」
「そうなのか」
思えば俺はまだ、この娘についても、世界についても何も知らない。
「なぁエルマ、この前魔族がいたが、あれはなんなんだ、その辺にもいるものじゃないのか」
「はぁ、ショウヤ何言ってるの!」
「いや、実は何も知らなくてさ、魔族って当たり前にいるものと思ってたから」
「しょうがないわね、説明してあげる」
エルマはため息混じりに返事をする。
魔族とはそんなにレアな生き物なのか?
「元々この世界は魔物と人間だけが住んでいたの。でも大昔に突然魔族が誕生して、その数をどんどん増やしていったわ。そして、魔族だけの国を造ったの。」
「なるほど」
「そこまでは良かったんだけど、魔族には魔物の特性や耐久力、人間の知性や魔法など、二つの生物の両方を兼ね備えていたから、武力においてはどんどん人間側が劣性になっていったの」
「そりゃ魔物が知性持って魔法扱ってたら今よりしんどいだろうな」
「人間と魔族、お互いにお互いを認めようとしなかったんだけど、十年前に突然、魔族が宣戦布告してきて、戦争が勃発した。最初の戦は、人間が五万に対して、魔族側は五十くらいでやったらしわ。」
「五十!? それは人間が楽勝だろ」
「普通ならそうね。でも魔族はどういう事か、魔物を使役しており、魔物の軍勢が約一万集まったそうよ。結果は人間側が壊滅。魔族側は魔族のほとんどは無事だったみたい。」
「魔族側はなんか様子見してるみたいな戦略だな、魔物を使って人間の強さを確かめたみたいだ。」
「まぁ実際そうよね、恐らく人間がどれだけ強いか確かめたんだと思うわよ。その一年後に今度は魔族千、魔物三万で攻めてきたの。でも人間側もそれから不思議な事が起こったの。それは貴方たち転移者の存在よ。ちょうど十年前くらいから目撃され始めたの。貴方たちはなぜか、この世界にすぐに順応でき、レベルの効率的な上げ方を知っていた。」
「えっ!? レベルの上げ方知らなかったの?」
「まぁ前わね。でもこれが広がって、転移者もかなりの戦力となり、人間側も最初と同じ五万という兵力で、なんとか魔族を撤退させたの。」
俺達転移者の存在が、人間側の状況を好転させたわけか。
なんか都合がいい話だな。
「それから今までずっと均衡状態を保ってるの。国境付近で小競り合い等はあるらしいけど、大きな衝突は今のところ起こってないわ。だから、魔族がそこら辺にいたら、人間達から袋叩きに合うでしょうね。まぁ帝都に行くと、奴隷だったり見せ物にされてる魔族を見ることはあるけど。」
「そうなんだな、ありがと、エルマ」
奴隷に見せ物。
俺が思う以上に魔族は人間に受け入れられていないんだな。
「その……、ショウヤはどうするの?」
「!?」
エルマは少し震えているのだろうか。
苦しそうな表情で俺に問う。
「ショウヤ……、帝都では強い兵士を募集しているの。勿論冒険者や転移者も歓迎してる。こっちに来たばかりだけど、ショウヤなら魔族との戦争で大きな力になれると思うの。それだけの魔力を冒険者として終わらせるには勿体無いと思う……」
いきなり何を言ってるんだ。
俺に戦争に参加しろって。
そんな事言われても困る。
俺は、誰かの理想のために殺すつもりはない。
「ん~、もう少し冒険者やってみて考えてみるよ」
「そう……、そうよね、ごめんね急にこんな話、あーもう私昨日から最悪だ……」
「何やってるんですか、お二人さん!」
「ユミ!?」
「……」
「あー! ショウヤ様、エルマさんを泣かしてますね! 意外とSなんですね、私にも罵倒してもらって大丈夫ですよ!」
「余計な勘違いしてんじゃねぇー!」
「えー、もうっ! ショウヤ様、私を罵って下さいよ」
「だーもう! 抱きつくなこの変態ノーコン娘!」
「変態ノーコン娘!? 少し幸福感が増したかも。もっと欲しいです~ショウヤ様!」
「くそ~! おめぇら! 明日の早朝、町の入り口で集合だからな、はいこれランチ代! じゃあな!」
俺はダッシュでその場を離れ、宿に引きこもった。
明日からのために、今日は早めに寝よう。
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