第10話 ユニーク職

「シンニュウシャヲハイジョシマス」



 おいおい、これがボスかよ。

 最初にしては強そうだぞ。

 勝てるのか、俺。



 魔像は持っている斧を振りかざす。

 そのスピードを俺は捉える事ができなかった。



 マズイ! 

 早すぎる。



 当たる瞬間、目で追えなかった攻撃は、一瞬遅くなっている事に気づいた。

 いや、回りがスローモーションになっているんだ。

 もしかして、さっきゲットしたスキル『瞬間反射』のおかげか。



 俺は斧を避け、短剣を魔像へ突き刺す。



 カンッ!

 刃は通らない。


 くそ、なら『急所視認』!

 マジかよ、急所がない。


 俺は急所探しにより、警戒を怠った。

「グフッ!」


 斧は俺のボディを捉え、エルマ達の元へ吹っ飛ばされる。



 痛ってぇ、わけじゃないな……。



「大丈夫! ショウヤ!」

「ショウヤ様!」



 ちくしょう……。

 ここは逃げるしか。



「エルマ! ユミ! 逃げるぞ!」

「えっ!? わ、分かったわ!」

「私が残りますので、ショウヤ様はお逃げ下さい!」

「死に急ぐな、ノーコン野郎!」


 俺はユミを担ぎ上げ、エルマとともに元来た道を戻る。



「マチナサイ、ニガシマセン!」

「くそ、あの大部屋以外にも追ってくるのかよ!」

「スピードヲアゲマス、カクゴシナサイ!」



 ギュイーン!

 何かしらの機械音と共に、魔像の動きは早くなる。



「ちょっと待て、この石野郎、早すぎだろ!」

 マズイ、追い付かれる。


「こっちよショウヤ!」

「えっ? でもそっちは」



 あのおっさんの結界があった。

 だが、今さら遠慮してられん。



「スミマセン! 中に入れて下さい! お願いします」

「ちょっと入れなさいよ、同じ人間でしょ」



 騒々しい声に、男は気付き、こっちを見る。


「またお前らか、もう来るんじゃねぇよ! あっち行け!」

「いや、もう死んじゃうから、頼むから中に入れて下さい!」

「たく、しょうがねぇな……」



 男は渋々立ち上がり、こっちに手を翳す。

「解除」



 その一言で目の前の壁がなくなり、俺達三人は勢いよく前に転がった。


「パーソナルエリア!」

 その一言で、見えない壁がまた現れる。



「シンニュウシャ、ニガシマセン!」

 バン! バン!

「ナンデスカコノカベハ、コワレナイ」



 魔像は壁に何度も攻撃している。

 とりあえず助かった。



「ありがとう、助かりました」

「別に、お前の頼み方が、あまりにも醜かったからな、すぐに出ていけよお前ら」

「そう言わないでよ、感謝してるんだから」

「ふん」


俺達三人は、とりあえず腰を下ろした。

 ここなら魔像が煩いが、少しゆっくりできそうだ。

 自己紹介としておくか。



「俺はショウヤ、こっちはエルマとユミって言うんですけど、あなたのお名前は?」



「聞いてねぇよ……」

「あはは、そうですか」



 そもそも、何でこの人はこんな所に一人でいるんだ?



「あのー、何でこんな所にいるんですか?」

「そんなのどうだっていいだろ」



 はぁ、完全にダメだな。

 拒絶されてる。



「おっと、そろそろ時間だな」


 ん?

 何だ、急に独り言か。


「危ないショウヤ、後ろ!」

「!?」



 俺はエルマの声に反応し、後ろを振り返る。

 そこには魔物、アントウォーリアーが立っていた。



 くそ!

 俺はすぐに臨戦体勢になる。



 その魔物の手には武器などではなく、木の実やら果物やらを大事そうに抱えていた。

 何なんだ、コイツは。

 襲ってくる気配は無いようだが……。



「そこに置いて、さっさと出てけ!」

 おっさんが魔物へ命令する。

 すると、魔物は一礼して、寂しそうに去っていった。


 どゆこと?


「さー、飯だ飯だ、お前らの分は無いからな!」


 おっさんは魔物が持ってきた物を豪快に食べていく。

 何なんだ、このおっさんは!

 魔物が食べ物を持ってきた?



 俺があれこれ考えている間に、おっさんは食べ終わった。


「プハー! 食った食った!」

「あのー今のは?」

「あー? 別に何でもいいだろ」

「もしかして、あなたは魔物を操れるんですか?」

「魔物を操るって、そんな魔法聞いたこと無いわよ、ショウヤ」

「たくっ、そんな大した物じゃねぇよ、これは……」



 おっさんは少し寂しげな声で、細い目を地面に向ける。



「お前、ユニーク職だよな」

「えっ!? 何でそれを」

「俺もだからだよ」



 この人もユニーク職。

 じゃあさっきのは魔法じゃなくてスキルで操っていたのか。



「俺はニートなんだよ」

「えっ?」

「なんだよ、ニートだったら悪いかよ」

「あ、いやっ、そういう訳じゃ」



 やべぇ、つい素の反応しちまったぜ。

 しかしニートだから何なんだ?



「俺は日本では、クズのニートだったんだが、こっちに来て何かカッコいい職業でも貰えるのかと思ってたら、職業『ニート』だとよ、やってられるかってんだ。この職業でできるスキルは二つで、六畳一間の結界を作る事と、誰か一人だけ母親役にできるって事だ」



 マジかよ!

 ニートなんてユニーク職があるなら、最早何でもアリだな。


 しかし、日本でもこっちでも同じ職なら、元の生活にある程度影響されているのか、この世界は。



「この壁が六畳一間の結界何ですか?」

「あぁ、そうだ。この結界はどうやら中からも外からも壊すのは不可能らしい」


「めちゃくちゃ強いスキルじゃないですか! 良いなぁ~!」


「最初は皆にもそう言われたが、こいつは結局中から攻撃は出来ないし、結界のサイズも調整できないから、すぐに見捨てられたよ……」


「……」



 そんなもんなのか、こんなに鉄壁なのに。

 そういえばもうひとつのスキルが。



「母親役というのは?」


「俺はよ、親のスネかじりながら、毎日部屋にこもってゲームしてたんだよ。毎日同じ時間に、朝昼夜、母親はドアの前に飯を持って来るんだ」


「その役を、魔物にやらせてるのか?」


「あぁ、あの魔物はこの穴の中に一匹だけいやがった所を、スキルで操ってる、下手に動くと、そこの魔像にやられるからな」


「イイカゲンニデテキタラ、ドウデスカ? ハァハァ」



「ちなみにあいつを操れないのか?」

「あの魔像は無理だよ、レベル差なのかわからんが、全く効かなかった」



 とりあえずこのおっさんの事は少し分かった。

 この人はクズじゃない。



「ここから出ようとは思わないんですか?」

「ここから出る? 無理無理、出口なんて無かったんだからな」

「えっ!? そうなんですか? じゃあ俺達が入ってきた扉はいったい……」

「なに、扉? ちょっと待てお前ら、あの女に飛ばされてきた訳じゃないのか?」

「いえ、俺達は地面に扉があったんで、入ってみただけなんですよ」

「本当か! ここから出れるってのか……」



 おっさんはここを動けなかったらしい。

 しかし、あの女に飛ばされてきたと言ってたな。



「あの女って誰なんですか?」

「あれは、詳しくはわからんが、俺に対して『あなたは生産性がありません』と言って、俺の真下の空間に穴を開けて、ここに落としたんだ」


「酷い事しますね」

「あぁ、分かったのは珍しい空間魔法を操るくらいだな」




 今聞けるのはこんな所か。

 ここは、俺達が見つける前は、入り口も出口もない。

 空間魔法で、おっさんは飛んできた。

 もしかしたら、ここは次元そのものが違うのかもな。

 そこへ入り口ができたということは。



 気になるのは、謎の声と、大部屋のあの少女。

 行ってみるしかねぇな。




「よーし、おっさん! あの魔像倒そう!」

「何言ってんだ、あんなやつ倒せるわけないじゃないか!」

「いや、俺とおっさんが力を合わせれば倒せる、倒したら外に出て、一緒に飯でも食おうぜ!」

「何なんだお前……」







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