第9話 呼び声

「リカバリー」


 エルマのおかげで再度俺の麻痺が取り除かれる。



「おい、ユミ! わざとやってないだろうな!?」

「申し訳ありません。ショウヤ様、私、弓矢を扱うなんて初めてで、こんなに当たらないなんて思いませんでした」

「それならいいんだが……」



 俺はとんでもない仲間を迎え入れたのかもしれん。

 こんなんでやっていけるのか。

 まぁ、何かあれば俺が……。



 さて、少し休憩するか。

 そういえばコイツを使ってみるかな。



「エルマ、魔導書紙の使い方ってわかる?」

「あら、ショウヤそれ買ってたのね、いいわ、教えてあげる」



 俺はエルマに魔導書紙を渡す。

 エルマはその紙を地面に置いた。



「それじゃショウヤ、この紙に手をかざして、魔力を込めてみて」

「魔力を込める……」



 俺は手をかざし、手や腕に力を込める。

 しかし、特に何も起こらない。



「あの、魔力ってどうやって込めるんですか?」

「んー、じゃあショウヤが怒る出来事を思い浮かべてみて!」



 怒る出来事?

 あまり思い出したくはないんだけど、やっぱりあれだよな……。



 手が震える。

 視界が歪む。

 あれを思い出すと、我を忘れそうになる。



 大気が揺れる。

 グリーンボア達が逃げ出す。

 数秒で魔導書紙が輝き始め、俺の身体を包む。



《魔法名『ファイヤーボール』を習得しました》



 おっ!

 本当に覚えたのか!?



「エルマ、これで大丈夫なのか?」

「たぶんもう使えるはずよ! 詠唱も思い浮かべると勝手に出てくるわ。試しに私がやってみるから見ておきなさい!」




 そう言うと、エルマは目の前の樹木を指差し、手のひらを向けた。



「我が血潮よ、熱く猛り、眼前の敵を焼き撃て、ファイヤーボール!」



 エルマの手のひらからは大きさ三十センチメートル程の火の玉が出現し、目の前の樹木を折り、焼き払った。



「うぉー、スゲー! 流石はエルマ!」


「ムムム、悔しいですが、向こうの方が一枚上手です……」


「そんなに言われる程のものじゃないわ、ショウヤも一発でできると思うわよ」



 そんなに簡単なのか?

 まぁ、初級魔法らしいからな。

 こんな所で時間をかける訳にはいかない。



 俺は目の前の樹木に焦点を当てる。

 魔力を引き出すために過去を思い出す。

 一回目よりも魔力を引き出すのに時間がかからなかった。

 おそらく慣れたのだろう。



「我が血潮よ、熱く猛り、眼前の敵を焼き……」


「ちょっと! ショウヤ! 聞いてるの、止めなさい!」



 なんだ、なんかエルマが言ってるぞ……。


 俺は目を開ける。

 目の前には、先程見た火球の百倍はあるだろうか、さらに大きくなっている。



「えっと、何これ!?」

「何これ? じゃないわよ、早く消しなさい! ここら一体吹き飛ばす気!?」



 そんなことを言われても、初めてでどうやって戻すか判らん!

 こうなれば、大きくなる前に、町とは逆方向に……。



「ファイヤーボール!」


 ドッカーン!!!


 映画や戦時中の映像で聞いた音よりも激しい爆音とともに、辺りを焼き尽くした。


《グリーンボアを三百四十八体討伐、アントウォーリアーを五百二十三体討伐、マジカルラビットを二百十一体討伐その他以下省略……総計千五百六十体討伐》



 あちゃー、マジかよ……。



《レベルが七十八に上がりました》


《スキル『聴覚強化』、『ディメンションゲート』、『瞬間反射』、『修羅』、『分身』、『麻痺耐性』、『魔力感知』を習得しました》



 スッゲー覚えたな……。

 それよりも、焼け野原になっちまった、どうしよう!



「すごいです、ショウヤ様! こんなにすごい魔法を」


「すごいじゃないわよ! どうすんのよ、狩り場消滅しちゃったじゃない!」


「いやー、その、これは魔王の攻撃だったということにしよう」

「すぐバレるわよ!」



 しかし、あんなデカイ魔法になるとは。

 どうやら俺は本当に魔力量が多いらしい。

 それは有り難いんだが、調節できないと厄介だな……。




・・・やっと見つけた、王の資質を持つものよ。


・・・妾を助けてくれ。




 くっ! 頭が痛い。

 何か声が頭の中に流れ込んでくる。

 王の資質? 助けろ?

 何を言ってるんだ。


「ショウヤ! 大丈夫?」

「ああ、エルマ、ちょっと疲れただけだよ」


 それにしても今のはなんだったんだ。


「あっ!? 見てくださいショウヤ様! あそこに扉みたいなのがありますよ」

「えっ!?」



 そんなわけないだろ。

 こんな焼け果てた大地の真ん中に扉なんて……。



「本当だわショウヤ、これ扉よ、もしかしたらダンジョンかも」

「てっ、マジで有るんか~い!」



 何これ、地中に埋まってたのか。

 隠しダンジョンなんじゃねぇ。

 草原吹っ飛ばしたら出てくるなんて、誰も見つけられねぇよ。

 製作者出てこいってんだ。




「ショウヤ様! 入ってみましょうよ」

「ちょっと待った! ユミ!」


 たく、レベル上げのつもりが、とんだダンジョン攻略になりそうだな……。

「スキル『空間把握』!」



 俺の声とともにエコーを飛ばし、ダンジョン内の立体的な地図が頭の中に浮かび上がる。


 これはほぼ一本道みたいだな……。

 いくつか部屋みたいなのがあるが、そんなに広くない。



「よし、入ってみよう」


 俺達三人は扉の中に入った。

 中には所々に光る鉱石があり、数メートル先の視界は確保できた。




「宝箱とか探せよ、ユミ!」

「はい、ショウヤ様、隅々まで抜かりなく」

「何やってんのよあんたたち……」



 何って、ダンジョンって言ったら探索だろ。

 宝箱があって、奥にはボスがいて、さらに報酬が。



「はぁ、悪いけど使えそうなのはこの鉱石ぐらいね」

「えっ! 剣とか鎧とか用意されてるんじゃないの!?」

「誰がそんなもの用意すんのよ……」



 まぁ、確かに言われてみれば、現実に置き換えると不思議な話だな。


 ダンジョン攻略ってあんま意味ないんじゃね?

 もうすぐ終点だってのに。



 終点手前に一つ、六畳くらいのスペースがあった。

 俺達はそのスペースに入ろうとした。

 すると目に見えない壁に阻まれた。



「なんだこれ、通れないぞ」

「魔法かしら、でもこんな結界見たことない」



 俺達は目を凝らして、奥の部屋の状況を見ようとする。

 そこには、横になり、半裸でくつろいでいる中肉中背のおっさんが横になっていた。



「誰だ、あのおっさんは!?」

「なんだ、久しぶりの人間だな、お前らもあのクソ女にやられたのか!?」



 ん?

 何のことだ?

 おっさんの問い掛けは訳がわからない。



「俺はもうここから出る気はねぇんだ、あっち行ってろクソども!」



 この結界はこいつが張ってるのか。

 しかし初対面でいきなりあっち行けって。

 尖ってるなこの人。



「ショウヤ様、こんな人ほっといて先に行きましょ!」

「そうよ、行くわよショウヤ!」



 あらら、女性陣は我慢できませんか。

 しょうがない。



「じゃあ俺達先に行きますね!」

「・・・」



 まぁ、いいか。

 しかし、あのおっさん、何かに怯えているように思えたな……。




 そこから間もなく終点に俺達は着いた。

 開けた空間に柱があり、そこには何かが張り付けにされている。



「俺が見てくるから、二人はここに居てくれ」

「わかりました」

「わかったわ」



 俺は柱を見に行く。

 そこには中学生、いや小学生?

 そのくらいに幼い幼女が張り付けにされている。

 生きているのか?




・・・来てくれて礼を言う。


・・・妾をここから救ってくれ。




 なんだ、また頭に直接聞こえて。

 激しい耳鳴りとともに、俺は膝をつく。



 その時、暗い空間におよそ五メートル程の像があることに気づいた。

 像の目が赤く光る。



「シンニュウシャハッケン、コレヨリハイジョシマス」

「あらー、これがボスって言うわけね……」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る