第5話 修羅の目覚め
冒険者の町マーレの酒場『ラウト』にてタクヤ一行は宴を終えていた。
「タクヤ~、そろそろ帰ろうよ!」
「そうだな、じゃあこれがラスト一杯だ」
タクヤが最後の一杯を飲み干す時、気配を察知する。
ピキィーン!
「ゴホッ!ゴホッ!」
勢いよく酒を吐き出し、タクヤはその場に立ち上がる。
酒場にはタクヤを含め数名が異変に気づいていた。
「タクヤ? どうしたの?」
「おいおい、冗談だろ……」
冷や汗を浮かべる顔を見て、何かが起こったことを感じとる。
「何か起きたの?」
「俺の魔力感知に反応があったんだが、こりゃ、魔王でも来たか……」
酒場に居た冒険者達は一斉に店を後にした。
店から五百メートル程の所で、人だかりができていた。
その中心には、先程とはまるで別人の顔をした、新米冒険者が立っていた。
「あれは、ショウヤか?」
憎い
目の前のコイツが憎い。
なら殺せば良い。
簡単じゃないか。
「おいクズやろう! エルマから手を離せ」
「離すかよバーカ!」
エルマも異変に気づいていた。
あれが本当にショウヤなの?
「遠隔暗殺」
ショウヤは次元に穴を開け、そこに短剣を突き刺す。
するとそれは強姦魔の腕に通じていた。
「ぐぎゃあ~!」
男の腕に短剣が突き刺さり、エルマから手を離す。
その瞬間、ショウヤは誰も目で捉えきれないスピードでエルマの目の前に移動し、引き離した。
「大丈夫かエルマ?」
「……」
「少し離れててくれ、すぐ終わるから……」
そう言うとショウヤは強姦魔の方へ近づいていく。
人混みを掻き分けて、タクヤがエルマへ近づく。
「おーい! エルマちゃん、大丈夫か?」
「タクヤさん、ありがとうございます……」
「ショウヤに何があったんだ?」
「……」
エルマは顔を落とし、口を閉じる。
「しかし何て魔力量だよ、このままだとアイツ殺しちまうぞ……」
タクヤがショウヤを追いかけようとした時、エルマがタクヤの腕を掴んだ。
「!?」
「私のせいだ……」
「エルマちゃん……?」
「私のせいでショウヤがあんな事に、私……止めなきゃ」
強姦魔は腕を刺された事で激昂していた。
「クソガキが! 俺の腕をよくも、これでもくらって死にやがれ!」
強姦魔は魔力を込め、全力でショウヤを殴った。
「こんなもんかよ!」
今のショウヤにはまるで通じなかった。
強姦魔はショウヤの身体どころか、顔を仰け反らせる事すらできなかった。
「ひっ! 何だコイツ! バケモンか?」
「次はこっちの番だ」
ショウヤは強姦魔に回し蹴りをいれた。
蹴りは最初腕に当たり、骨を砕き、強姦魔を彼方へ蹴り飛ばした。
「ぐほっ!」
「お~飛んだ飛んだ! 百メートルくらいは飛んだんじゃないか!」
「あっ……う……」
「もう口も聞けないか……」
「……願……します、助け……て……下しゃい」
その瞬間ショウヤは、顔スレスレに地面を殴る。
半径五十メートルにわたり地面が凹んだ。
「そう言われてお前は助けた事があるか? 悪いがこれは決定事項だ、お前は殺す!」
ショウヤが止めを刺そうとした時、背後から服を引っ張られる。
「止めなさい! ショウヤ、殺してはダメ!」
「エルマ……」
「優しいあなたが、殺してはいけないわ!」
何をやってんだ、俺は。
日本で散々自分勝手にやって、たった一人の家族を泣かして。
こっちでも女の子を泣かそうってのか……。
「お願いだから止めて! ショウヤ!」
くそ……。
俺はその場に膝をついた。
初めてだ。
こんなにキレてたのに、怒りが収まっていくのは。
「すまねぇ、エルマ……」
ショウヤはその場に倒れ込んだ。
「ショウヤー! 大丈夫か?」
タクヤが駆け寄ってくる。
「寝ちゃったみたいです……」
「たく、心配させやがって、魔力を使い果たしたんだなこりゃ、しばらくは目を覚まさねぇだろ」
ショウヤはエルマの腕の中で眠っていた。
タクヤは強姦魔の元へと近づく。
「あちゃー、こりゃ派手にやったもんだな! おい生きてるか?」
「……みま……せ……んで……た」
「これに懲りたら、もうすんなよ! 分かったか!」
「は……い」
強姦魔も深い眠りにつく。
「エルマちゃん! 俺はコイツを送っていくから、ショウヤを頼むよ!」
「わかりました! ありがとうタクヤさん」
エルマは宿屋へショウヤを連れていった。
寝室に寝かせ、エルマは横へ座り寝顔を見つめていた。
しばらくすると、トントンとドアをノックする音が聞こえる。
「どうぞ……」
「お疲れ、エルマちゃん」
「あ、タクヤさん」
タクヤが強姦魔を医者に連れていき、戻ってきた。
「なぁエルマちゃん、さっきのショウヤの力は一体何なんだ?」
「私も知りませんでした……」
「ありゃ魔王に匹敵する魔力量だったぞ、制御はできてないみたいだがな……」
「でも、ショウヤは魔力量千六百くらいって言ってたのに」
「おそらく黙ってたんだろ、しかし、怒りで魔力を押さえられなくなったんだ、魔力を簡単に引き出すには怒りの感情が一番簡単だからな」
「……」
エルマは口を閉ざし、ショウヤを見つめる。
タクヤはその姿を見て、部屋から退出する。
「エルマちゃんも無理しないようにね!」
「はい、ありがとうございました」
タクヤが部屋を出て、エルマは聞き取る事ができないショウヤへ語りかけた。
「ねぇショウヤ、どうして私のために怒ってたの? 私なんかあなたにそんなことされる資格なんて無いのに、だって私は……」
冒険者の町マーレから遥か南に位置する魔族国家との国境付近で、二人の冒険者がショウヤの魔力を感知していた。
「何だこの魔力は、向こうで魔王でも攻めて来たのか!」
「大丈夫よ、気配はすぐ消えたわ、『勇者』のあなたがここに居るのに魔王が国から離れるわけないわよ」
「そうだな、俺のこのエクスカリバーさえあれば魔族を殲滅できるだろう、さぁこの俺の存在に感謝するがいい!」
「はいはーい、流石勇者ですねー」
「ハッハハハ! そうだろうそうだろう!」
「はぁーもう面倒くさい」
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