第4話 VS強姦魔

 俺は初クエストを無事に終え、町へ戻ろうとした時    に、タクヤと名乗る冒険者から声を掛けられた。


「町へ一緒に帰ろうぜ!」

「えっと……」


 これは困ったな。

 相手はベテラン冒険者だろう。

 簡単に信用していいものだろうか……。


 するとタクヤの横から女性の声が割り込んできた。


「ごめんね~、この人新人見つけると世話焼きたがるんだよ」

「バカ! サヤカ! そんなんじゃねぇよ」


 何とも仲が良さそうだ。

 俺は、連られて笑みを浮かべた。


「紹介するぜ、こっちの女性がサヤカで弓使い、こっちの男が、マサトで槍使いだ」


「よろしくね~!」

「よろしくっす!」


 すげー仲良いパーティだな。

 少々羨ましい。

 俺もいつかこんなパーティを作りたいな。


「よろしくお願いします」

「つー訳で、一緒に帰ろうぜ! エルマちゃんもいいよね!」

「ええ、良いわよ」


 あれ、エルマは自己紹介してないよな。

「エルマ、知り合いなの?」

「安心してショウヤ、彼は町で一番信頼できる冒険者だわ」


 俺はエルマの言葉を信じ、タクヤ一行と帰路を共にした。

 話を聞いていくと、タクヤ達はAランクの冒険者であり、新しいスキルや魔法を試しに今回の依頼を受けたとの事だ。




「マジかよ! お前いきなりモンスターワーム倒したのか?」

「あんなのラッキーだっただけですよ」

「しかし、飲み込まれて胃酸で服が溶けて全裸たぁ、災難だったな! ハッハハハハ!」

「もう、あんまり新人をからかわないのタクヤ」

「悪い悪い、よし! 今日は皆でショウヤの初クエスト成功を祝って飲もうぜ!」

「良いっすね!」


 なんか話が勝手に進んでる。

 悪い気はしない、むしろ……。

 こっちの生活は悪くないかもな。



 もう日が沈んだ。

 マーレの町へ戻り、ギルドへ報告した後に酒場『ラウト』へ俺等は集まった。


「それじゃ、ショウヤの初クエスト成功を祝って、乾杯!」

「乾杯!」


 ゴクッゴクッと俺は目の前に出された酒を飲んだ。

 何これ、美味い、てかほぼビールじゃん! 


「遠慮すんなよショウヤ、今日は俺の奢りだ!」

「タクヤさん、アザース!」


 長年刑務所務めをしていた俺にとって、この瞬間は至福の一時だった。

 料理も何の肉かわからん物をひたすら頬張った。

 味は普通に美味い!



「それで、ショウヤはこれからどうするんだ?」

 少し真剣な面持ちで、タクヤが尋ねてきた。



「俺はとりあえずランクAの冒険者を目指そうと思いますよ、クエストを一つずつこなしていってね」

「そうか……」


 早くランクを上げて、パーティを作ってダンジョン攻略とかやりたいからな。

 せっかくだからこの世界を楽しもう。


「ショウヤ、一応言っておくぞ、あまり焦るなよ」


 俺は予想外の言葉に反応ができなかった。

 焦ってるつもりはない。


「俺は今の地位になるために五年掛かった、五年だぞ!」

「五年!?」

「そして、早く手柄を上げようとした奴の亡骸を何人も見てきた、ゲームの様な世界だがここは現実だ、今度は少しでもお互い長生きしようぜ」


 マジかよ、この人は五年も掛けてAランクまで登りつめたのか。


「タクヤ、あんまりビビらせないの! 要は気をつけろって事よ」

 サヤカさんが、フォローに入る。

 そうだよ、これは現実なんだ。

 今度死ねばもう次は無いだろう。


 その後俺達五人は宴を共にした。



「じゃあそろそろ俺は行きますね、宿も探さないといけないですし」

「おお、そうか、俺達はもう少し飲んでくよ! またな、ショウヤ」

「タクヤさん、ご馳走さまです」


 俺は先輩にお礼を言い席を立つ。

 するともう一人が席を立った。


「それじゃショウヤ、私が送ってあげる、宿屋も探すんでしょ?」

「サンキューエルマ! それじゃ頼むよ」

「それじゃこっちよ!」


 俺とエルマは酒場『ラウト』を後にし、宿屋へ向かう。

 夜の町は昼と違い、人通りが少ない。

 とにかく初日からかなりハードだったから早くベッドで横になりたい。


「ねぇショウヤ……」

「何?」


 エルマは下を向きながら口を開く。

 なんか俺に聞きたい事でもあるのか?


「ショウヤはランクAまで上がったらどうするの?」

「まぁ特に考えてないな、普通にギルドの依頼をこなしていくだけかもな」


 俺は軽く答える。

 しかしエルマの表情は徐々に険しくなり、唇を噛み締めていた。


「そんなんじゃ駄目だよ、ショウヤ」

「えっと……?」

「ショウヤが頑張らないと、私……」


 何だ、今まで明るかった女性が、目の前で今にも泣きそうになっている。

 俺が頑張らないと?

 一体何を頑張れって言うんだ?


「キャーー!」 

 突然遠くから女性の悲鳴が聞こえる。


 目の前のエルマの表情も気になったが、俺の身体は悲鳴の元へ向かう。


「あっ、ちょっとショウヤ!」

 エルマも俺の後を追う。


 路地に入った所に二人の人影が見えた。

 暗くてよく見えないな。


「へっへへー、良いだろうお嬢ちゃん、今晩相手してくれよ?」

「やめてください! 離して下さい!」

「なかなか強情だな、だが俺はそう言う奴を無理矢理にやるのが好きなんだ」


 痴漢?

 いやもう強姦だな。

 これは止めるべきだな。


「ちょっと待った! あんた何やってんだ!」

 俺は男に声をあげる。


「なんだ兄ちゃん! どっか行きな、今なら怪我しないで済むぜ。」

「その人を離せよ!」

「誰が離すかよ!」


 やっぱり離すわけないか。

 ここはやるしかないな。


「影渡り!」

 俺は自分の影から男の影に移動し、目の前に出る。 


「うお!?」

「きゃっ!」


 女性を掴んでいる腕を払いのけ、二人の間に立った。


「早く逃げて!」

「あっ、あの、ありがとうございます!」


 女性は駆け足で逃げていく。

 とりあえずノルマ達成。


「てめぇ、よくもやりやがったな!」

 男は鬼の形相でこちらへ近づいてくる。


「ショウヤ! 逃げましょう!」

 俺は逃げない。


 こいつをほっとけば、また次の被害者が出るだろう。


「お前新顔か?」

「そうすね、今日飛ばされてきたばっかですよ」

「そうか、ならこんな事はできないだろ!」


 なんだ?

 男の周りの大気が揺れている。

 これは何が起きてるんだ?

 あきらかに前より雰囲気が違う。


「死ね! クソガキ!」


 男は突っ込んでくる!

 速い! 

 なんてスピードなんだ、マズイ、避けれない!


「ぐぉっ!」


 男の拳が俺の腹を直撃する。

 その衝撃で、俺は十メートル後方の壁に叩きつけられる。


 なんて威力だ。

 でも痛みはまるで無い。


「来たばかりなら魔力コントロールなんてできないだろう? お前じゃ俺に勝てないんだよ、殺してやる!」


 なるほど、今のが魔力を込めた攻撃か。

 確かに強力だが、痛みを感じないから、頭は冷静だった。


 エルマが俺の方へ近寄ってくる。


「逃げましょうショウヤ、勝ち目が無いわ、彼はレベル百は越えているベテラン冒険者よ……」


「百越え!?」


 マジかよ!

 レベルで言えば完全に勝ち目が無いな。

 だけどなんか負ける気がしない。


「影渡り!」

 俺は男の背後に回り込む。

 素早く男の喉元に剣を突き立てた。


「終わりだよオッサン!」

「くそ、変なスキル使いやがって!」


 男は俺の腕を無理矢理振り払い、俺を蹴り飛ばす。

 俺は飛ばされたが、受け身を取り体勢を整える。


「影縛り!」


 俺は男の影に剣を突き刺す。

 すると男の動きはピタッと止まる。


「なんだ、身体が動かねぇ、何しやがったテメェ!」

「動かないだろう、このままお前の首を切ることも容易だ」

「クソガキ……」

「もうあんな事はしないと誓え、そうすれば命だけは取らない」


 こんな事は甘い。

 それは分かっている。


「さっすがショウヤ!」

 エルマが近寄ってくる。


「甘いな~クソガキ、俺がこんなもので捕まるか!」

 男は魔力を込めて影縛りの呪縛を払った。


「何っ!?」

 俺が驚くのも束の間、男はエルマの方へ近寄っていく。


「マズイ!」

「きゃっ!」


 男はエルマの首に腕を巻き、喉元にナイフを突きつけた。

 しくじった……。


「この女、お前のオンナかぁ、大事に守らねぇとな」

「エルマを離せ!」

「お前が消えれば、後はこいつを可愛がってやるよ、ヒッヒヒ」


 このやろう、人質なんて卑怯な。


「ショウヤ、私の事は気にしないで!」

「エルマ!」


 エルマは助けを求める顔で助けを拒む。

 くそ、どうしたら……。


「全く甘ちゃんだなぁ、クソガキ。その分じゃ誰も殺した事は無いんだろう! 俺は日本で三人を強姦殺人で殺して死刑になったんだが、こっちの世界は何しても力で解決できるから最高だぜ」


 何だと……。

 強姦殺人で死刑。

 コイツは向こうでもこっちでもクズなのか。



 ドクン……

 やめろ、こっちでも俺は罪を重ねるのか。


 ドクンドクンドクン……

 クズは殺す……。


 俺は考える事を止めた。

 やることは一つ、コイツを殺すこと。

 全ては怒りのままに。


 エルマと男は、ショウヤの異変に気づいた。

 ショウヤの周りの大気が震えている。


「何だこりゃ、この魔力化け物か!?」

「ショウヤ!?」


 あぁこの感じ、久しぶりだな。

 日本では何度も味わった。

 怒りで飲まれてるのに頭は凄く冷静だ……。


「エルマを離せ! このクズやろう!」




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