第2話 冒険者の町

「もぉーお兄ちゃん! 早く起きないと大学に遅れちゃうよ」

「うーん、もう少しだけ……」



 妹は俺の布団を剥ぎ取る。

 俺はそこでようやく起きる決意をする。

 リビングへ行くと、妹が朝食を並べてくれていた。


「お兄ちゃん! 早く食べよ」

「サンキュー」


 テレビを見ながら味噌汁とご飯を頬張る。


「最近日本は景気良いよな」

「そうだね、何か前のバブル全盛期以上の盛り上がりらしいよ」

「へぇ、そうなんだな」

「お兄ちゃん……、もうちょい社会にも興味持ちなよ」



 妹は呆れ顔だ。

 でもこの顔や笑顔が見れればそれで良いんだよ。



「そういえば奏江、ここ最近は物騒にもなってきたから気を付けろよな」

「本当によ、行方不明になっている人も多いみたい」



 そんな何気ない会話をしながら朝食を終え出かける。







 俺は異世界で目を覚ました。

 夢を見てたのか。

 俺はおそらく飲み込まれたのだろう。

 丸飲みだからまだ生きてるんだ。



 身体を見ると、衣服がシューと音をたてて溶けている。

 やべぇ、胃酸で溶けてんのか。

 何とか出ねぇとな。




 狭く身動きが取りにくい。

 おれは何かないかと探すために目を凝らした。



 すると遠くに光る結晶の様な物が見えた。

 何だあれ。

 まぁやってみるか。



 俺はミミズの胃を押し退けて先へ進んだ。

 すると紫色に輝く結晶があった。

 俺はその結晶を両手で力一杯に握りつぶした。




 外では女が必死で走っていた。

「なにあの転生者! 全然強くないじゃないのよ」

「これどうすんのよ!」



 突然ミミズの動きが止まる。

「ゴギャーー!」



 ミミズはその場でのたうち回り、やがて動かなくなった。

「何が起こったのよ……」



 するとミミズの腹部にヒビが入り、中から何かが飛び出してきた。



「プハァー! やっと出られた!」


 俺は結晶を握り潰した後、肉壁を素手で除去しながら進んできた。



「あんた、生きていたのね! 流石転生者……ね……」


 女は言葉を詰まらせ、俺をまじまじと見ている。



 何だどうした。

 そういえばさっきから身体がスースーするな。

 俺は自分の身体へと視線を変える。



「なんじゃこりゃ!」


 俺は全裸だった。

 ミミズの胃酸でか。



「このミミズやろう!」

「とりあえず隠しなさいよ! 変態!」

「お嬢さん、何か服持ってませんか?」

「キャー! こっちに来ないでよ!」



《レベルが十五に上がりました》



 突如頭の中へ言葉が聞こえた。

 レベルが上がったのか。

 それにしてもいきなり十五かよ。

 このミミズはそれなりに強かったみたいだな。



《スキル『気配感知』を獲得》

《スキル『消音補正』を獲得》

《スキル『ステルス』を獲得》

《スキル『遠隔暗殺』を獲得》

《スキル『酸耐性』を獲得》

《スキル『毒耐性』を獲得》



 何かすごいスキル手に入ったな。

 十五レベル分のスキルか。

 だいたいの意味は分かるが、何だ遠隔暗殺ってのは。



「早く服を着なさいって言ってんのよ!」

 女が俺に自分のフード付きマントを投げつけてきた。



「いやー助かったよお嬢さん、服貸してくれて」

「こっちこそありがとね」



 俺はマントを借り、ほっと一息をついた。


「改めて、私はエルマよ、あなたの名前は?」

「俺はショウヤ、よろしく!」



 そう言うとエルマは笑顔で返してくる。

 よく見ると美人だな。

 口は悪かったがな。




「ショウヤはこれからどうするの?」

「いや、実は来たばかりで、とりあえず町に向かいたいんだけど……」

「それなら私の町に来なさいよ! 冒険者の町マーレに」



 来たー。

 冒険者の町。

 やっぱ冒険者がいるのか!



「ぜひお願いするよ!」

「それじゃ決まりね!」



 俺とエルマは荒地を進んでいく。

 しかしこれからどうしたものか。

 冒険者という職があるのならそれに入るに越した事はないだろうな。



 そういえばエルマは俺を一目で転移者と言ってたな……。




「ところでエルマ、何で俺が別の世界から来たと分かったんだ?」

「それは、あなた以外に転移してくる人間がたくさんいるからよ」

「マジで!」



 転移者がたくさんだと。

 あの天使め、俺は選ばれたって言ってなかったか。

 俺の様なやつは最早当たり前なのか……。




「あんた、日本人なんでしょ?」

「え? 日本を知ってるのか?」

「知らないわよ、転移者はみんなそう言ってるからよ」




 偶然にも日本人が連れて来られてるのか。

 それなら他の奴に会っても気が楽かもな。

 まぁ俺は他人とコミュニケーションを取ってこなかった方なんだがな。




 そうこうしている内に前方へ町が見えたきた。


「さぁ着いたわよ、ようこそ冒険者の町マーレへ!」

「うぉー!」


 町は武具を纏った人間で溢れている。

 このゲームの様な町並みは憧れだな。

 とりあえずは服を調達したい。

 現世なら完全に変態コスプレだからな。



「あのー、エルマ、この町に換金所ってある!」

「そうね、あるにはあるけど、ショウヤ売る物持ってるの?」


 俺はさっきミミズから剥ぎ取っていた皮と牙を見せた。


「これって売れるかな?」


「あんたいつの間に、まぁモンスターワームは珍しい方だから良い値段で買ってくれると思うわよ」

「ならこれで服は買えそうだな、エルマ、場所教えてよ!」




 俺はエルマに道案内をしてもらい、換金所まで到着する。

 するとエルマは反対側を指差した。



「それじゃショウヤ、私はあそこの冒険者ギルドに報告があるから、何かあったらそこにいるから」

「エルマって冒険者だったの?」

「一応ね、全然駆け出しだけど」

「分かった! ありがとなエルマ」


 そうして俺達は別れ、換金所に入る。


「すみませ~ん」

 恐る恐る店の中へ入る。


 中はたくさんの棚があり、見たこともないものが並んでいた。


 何だこれ、全部売り物か。




「いらっしゃい! おっ、新顔だな」

「どうも、アイテムを換金しに来ました……」



 モンスターワームの皮と牙を差し出す。

 それを見て店主が顔を変える。



「いやー、モンスターワームの素材か! あんた以外とやるんだな、これなら銀貨三十枚でどうだろう?」

「じゃあそれで」


 銀貨三十枚か。

 これで服は買えるよな、本当に買えるよな。


「はいこちら代金ね」

「ありがとうございます」

「毎度あり!」


 俺は換金所を後にする。

 服を売っている店で適当に衣服を調達した。

 それに使っても銀貨一枚で事足りた。

 どうやら銀貨一枚で一万円くらいかな。



 さぁて、そろそろ冒険者ギルドに行ってみますか。

 エルマもまだいるだろうか。



 来た道を戻り、冒険者ギルドに入る。

 開けてびっくり、中には日本人がたくさんいた。


「あら、あの子新顔じゃない?」

「えっ? 本当だな、見たことない」


 顔を見て、奥の方で俺の品評会が始まる。

 しかし、本当にみんな日本人だな。

 異世界の住人との顔の判別が一瞬でつくぞ。



「あっ! ショウヤ来たのね!」

 エルマが俺に気づいた。


「エルマ、もう用事は終わったの?」

「うん、もう報告は済んだわよ」


 せっかくギルドに来たんだから、冒険者登録できるかな……。


「あの、ところでエルマ、冒険者登録って俺でもできるものなの?」

「できるわよ、あそこに受付があるからサッと済ませて来なさい!」


 マジか、すぐできるならやるしかないぜ。

 早速受付へ向かう。

 真ん中には可愛い娘が立っていた。


「はじめまして、転移者さん! この町へは初めてですか?」

 受付嬢は満面の笑みで尋ねてくる。



「実はさっき来たばかりで、冒険者登録ってできますか?」

「できますよ、登録だけなら簡単なのですぐ済みますよ!」

「なら頼みます」

「分かりました、ではお名前を教えて下さい」



 俺は名前を伝え、受付嬢が書類の準備を終えるのを待った。

 これから俺の冒険者生活が始まるんだな~。



「お待たせしました、それではこちらの紙を掴んで下さい」

「これは?」

「こちらは現在のあなたのレベル、魔力量、スキル、その他ステータスを読み取るものです。それにより、あなたの冒険者ランクを決めていきますね」



 なるほど、これをつかめば俺のステータスが見れるのか。

 俺はその紙を受けとる。



 両手で掴むと、手のひらが少しずつ温かくなり、紙が光出す。

 オオー、これはマジで魔法みたいだ。

 光がなくなり、紙を受付嬢へ返す。



「はい、お疲れ様です。」

「ショウヤさんは、レベル十五で、ステータスはEランクですね」

「Eランク?」

「スキルなどは個人情報ですので、ショウヤさんにしか見えなくなってます。こちらはお返ししますね」

「ありがとうございました」



 俺は紙を受けとると中身を確認する。

 そこには、レベル、職種、魔力量、スキルが書かれていた。




《レベル》十五

《職種》暗殺者

《魔力量》千三百六十万

《スキル》『急所視認』『影縛り』『影渡り』『短刀使い』『体術』『空間把握』『気配感知』『消音補正』『ステルス』『遠隔暗殺』『酸耐性』『毒耐性』


《Exスキル》『女神の加護』





 あれ、こんなにスキルあったんだ。

 てか、俺暗殺者なの?

 何か思ってたより地味じゃない!




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